兼題「遅日」__金曜俳句への投句一覧
(4月27日号掲載=3月31日締切)
2018年4月11日12:32PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2018年4月27日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【遅日】
館長の民話の訛り里遅日
魯迅居て内山書店夕永し
遅き日の叩けば増ゆるビスケット
石仏の目鼻薄れし遅日かな
地に雀枝に目白の遅日かな
遅き日や黄金バットやつて来る
米を研ぐ音が止んだり春日遅々
老漁夫の網を繕ふ遅日かな
金星を隠して明かし遅日かな
遅き日の遅き返事やプロポーズ
子神楽の稽古熱帯ぶ遅日かな
病ふ身にただただ長き遅日なり
網縫うて腹ぞへりたる遅日かな
梓板刃を入れ倦む遅日かな
鞄にはサクマドロップある遅日
夕餉告ぐ母の声聞く遅日かな
遅き日の白玉砂利や放電す
面会へ歩幅ひろぐる遅日かな
暮れかぬる白秋道の幾曲がり
石灯籠遅日になじむ眺めよし
貰い物ピクルスにする遅日かな
甲板に椰子転がりて海遅日
風呂屋より蕎麦屋に向ふ遅日かな
見切り品ばかり買ひ来て遅日かな
帰らむとする君の背の遅日かな
最後まで噛まぬ遅日の金の飴
大平原広き西部に座す遅日
遅き日やカレーライスとママの声
夕永し美女に化けれぬ猪八戒
鳥の声遠ざかりゆく遅日かな
遅き日にビッグマックの歴史かな
暮れかぬる列車どこにも着かなさう
遅き日や鰊曇りといふ空も
新しいホテル遅日にゆるぎなし
暮れかぬる芝生の上に勇者の剣
天丼の老舗の閉ぢて暮かぬる
兵児帯の男結びや夕長し
遅日の灯明るき街に点りけり
遅き日や祖父の褌縫ひし頃
遅き日やボール拾いの延々と
白線に鴉遅日の駐車場
遅き日の暮れて湯浴みに古き唄
寄り道の花屋二軒目夕永し
遅き日を大工左官に塗装工
固き芽を遅日の陽光(ひかり)やわらかく
春日遅々野良着にもするお洒落かな
夕飯と妹呼びに来る遅日かな
うかうかと長き電話や夕永し
衿あしや遅日になりて髪を切る
室内用木製手すり遅日かな
電線の消失点の無き遅日
畑仕事終えて鎌研ぐ日永かな
忙(せわ)しなくされど眠たき遅日かな
夕餉には家族別々遅日かな
叱られて戻らぬ祖母の遅日かな
ひかり集る汝のあしくびに遅日の輪
ソビエトの地下文学繰る遅日かな
没風流遅日ひたすら忙しなく
藍と朱と藍たなびき暮れかぬる
遅滞無き地球の巡り遅日かな
羊の毛刈られ放題遅日かな
遅き日の音無き家の戸をたたく
予定日の家路とほくて遅日かな
ミジンコの沼に匂ひの立つ遅日
仕事終え時計見直す遅日かな
多数決取りかねてゐる遅日かな
暮れかねて酒枡に手を出しはぐる
遅き日や無期雇用には適はずと
鳩時計の鳩のゐねむり聞く遅日
学童と呼べる子の居る遅日かな
帰ろうかいやもう少し遅日かな
電子機器ピピピピピピと啼く遅日
永き日や支度遅れし夕の膳
友を待つ遅日の通りややゆるり
バス旅の寄り道多き遅日かな
遅き日や木戸で立ち読む便りかな
離るとも来るとも見ゆる遅日の帆
幾分か背丈も伸びる遅日かな
帰り途遅日に探す宵の星
遅き日にひとり遊びの屋台酒
ゆったりと心楽しき遅日かな
好きなものだけ買い物をする遅日
春日遅々投手と捕手の噛み合はぬ
写経する遅日の墨のでき心
一日を使ひきりたる遅日かな
丁寧にひと日生きたか遅日暮る
いつか見た自販機探す遅日かな
ろう石が池を一周する遅日
雑貨屋のドア押してみる遅日なり
崖のうへ雲のかたちに遅日あり
サッカーのドリブル練習する遅日
支払ひは急いで走る遅日かな
園庭に遊び待つ声暮れ遅し
沖遠く波見えてゐる遅日かな
家苞に名入の箸を選る遅日
山門の仁王も和む日永かな
佃煮の艶のひと刷毛暮れかぬる
公園のベンチに掛けし遅日かな
遅き日やバスの時刻も確かめず
子らの声遠くにありて遅日かな
放課後の校庭明るき遅日かな
只酒の三合空くも遅日かな
片づけのやつと始めし遅日かな
誰がための涙か遅日流れ止まず
バス停の影のびやかに遅日かな
遅き日に違う角曲がつて帰る
黄金の夕日重たし暮れかぬる
プレミアム感心持ち増し遅日
残り雪遅日を負うて湯気となり
お喋りの種も尽きない日永かな
乳搾る納屋に風抜け遅日かな
遊ぶ子の行方確かむ遅日かな
けむりほどのかたち遅日の水郡線
遅き日の同刻に二つの予定
遅き日の尽きなく悔ひのあふる部屋
遅き日や菜園仕事捗りし
夕食も明るきうちの遅日かな
九九をまた初めから聞く遅日かな
まだ同じ面子遅日のすべり台
臨終す遅日の夕の空のあを
鎌倉に用ひとつある遅日かな
店長の初恋話聴く遅日
暮遅しペンキ乾かぬ滑り台
ありがとうを言う時間ある遅日かな
暮れかぬる三角窓や美術館
犬を引く長きリールや暮遅し
アルプスを眺む遅日のありつたけ
出張の宿の畳や夕長し
残業を待ち兼ねたるや日ぞ遅き
遅き日は透析終へた血の如く
とろとろと遅日むかえてこともなし
空き缶の折れ曲りたる遅日かな
暮れかぬる梯子張り付く煙出
遅き日やペダルゆるりとゆうるりと
遅き日の河原鶸黄を振り撒きぬ
筋トレの疲れ二度寝の遅日かな
話すこと遅日のカフェに終らせず
化野に最終バスを待つ遅日
こゑ高き子らちりぢりに暮れかぬる
揺れながらぬるき風くる遅日かな
草抱いて言い出せぬまま遅日かな
遅き日のコーヒー豆を細挽きに
遅き日や人に会うべく顔あらふ
暮れかぬる小腹を満たす蕎麦二枚
叱られて外に出された遅日かな
頼る人ありて遅日に引き留めし
ゆっくりと遅日をえらび巨匠逝く
曳航の陸までつづく遅日かな
買物に両手両足遅日かな
県道のドライブスルー暮れかぬる
水筒がベンチに残る遅日かな
遅き日や孫らの帰り気がかりに
給料日遅日土産に父帰る
山頂の小屋は雲上日ぞ遅き
サプリメントの色合はせする遅日かな
仕事終え遅日に感ず時の河
泥んこの遅日の尻のユニフォーム
遅き日の郵便配達犬連れて
足元に杖の跡ある遅日かな
秒針も呑気さうなる遅日かな
遅き日の鏡に顔をつくるひと
風紋の化ける砂丘の暮遅し
ストレートタイプの手すり遅日かな
ビル前の海行くバスに乗る遅日