「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

震災忌の震災は、１９２３（大正１２年）９月１日に関東一円を襲った関東大震災を指します。さて、どんな句が寄せられたでしょうか。

選句結果と選評は『週刊金曜日』２０１８年８月３１日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
『週刊金曜日』の購入方法はこちらです。

電子版も発行しています。

amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。

予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。

【震災忌】
アスファルト地獄の生れ震災忌
飼猫は家を出たきり震災忌
震災忌キャリーバッグに足轢かる
生き死にを分くるもの何震災忌
いつか来るその日覚悟や震災忌
空に果て無きかもしれず震災忌
路地風の水の重さや震災忌
鮭缶の期限確かめ震災忌
震災忌三白眼の友とゐて
澄む空に底無き昏さ震災忌
逃げること能はぬ脚や震災忌
平成は今年で終わり震災忌
あまたたび吹かれし風や震災忌
震災忌いまだ無縁の仏あり
震災忌隅田川向く木歩の碑
明けない夜があいそうな震災忌
もんぺはく母より知らず震災忌
緑濃し被服厰跡震災忌
震災忌原発六機稼働中
吾子の手をギュッと握るや震災忌
青空へ消へゆく点呼震災記
港湾のそとは大海震災忌
震災忌いまも川面に呼ばれたる
穴の空いた列島にまた震災忌
震災忌さらに命の重きかな
貯水池の底見えている震災忌
バス停でサイレンを聞く震災忌
引きやまぬほつれ糸なり震災忌
水槽の揺れに慄く震災忌
震災忌立往生の荒川線
逃げ馬の尽きたるゴール震災忌
マネキンを立てかけてゐる震災忌
老婦人涙うっすら震災忌
想定外祈りの深さ震災忌
震災忌自分探しに疲れたり
震災忌なほ十字架は輝くと
だしぬけの脚立の崩れ震災忌
林立するビルの真下の震災忌
廚より魚焼く煙震災忌
黙祷の若きをんなや震災忌
震災忌まひるの鳥の悲鳴かな
ぶつぶつと散歩の途中震災忌
亡き父は三歳なりてふ震災忌
震災忌もんぺの母の夢を見て
あの午で時の止まりし震災忌
震災忌箸よりこぼす寄せ豆腐
デイケアも父母から聞く震災記
何故に殺されし韓人の震災記
震災忌遠き九月と思ひたし
林立す硝子の卒塔婆震災忌
いきいきと井戸水使ふ震災忌
天と地のあわい確かに震災忌
大地震語る祖母亡く震災忌
地べたよりひたすら祈る震災忌
青すぎる空におののく震災忌
人の生命はかなさ想ふ震災忌
訓練の心新たに震災忌
ボランティアとは誰のもの震災忌
網棚におにぎり乾ぶ震災忌
震災忌いつの間にやら日常に
惑星のニキビそばかす震災忌
震災忌山本内閣組閣中
震災忌遺骨に聴かせたる喇叭
回覧板にある安寧や震災忌
にはたづみに赤きリボンや震災忌
母の手を縛るベッドや震災忌
とめどなく走るタクシー震災忌
震災忌仕事机で食ふ昼餉
白過ぎる百葉箱や震災忌
青すぎる港や空や震災忌
黒縁の眼鏡汚れて震災忌
熱風に割るる硝子戸震災忌
碑の文字に深き止めあり震災忌
外つ国へ船発つ朝や震災忌
静けさに耳鳴を聴く震災忌
震災忌欲界在れば泣きもして
先生の笛良く通る震災忌
6.18 を加えて偲ぶ震災忌
震災忌 人災忌となる 東北の空
左利きも開ける缶詰震災忌
震災忌 更新されゆく 悲しみの刻(とき)
始業ベル壁にしみ入り震災忌
短冊の切れし風鈴震災忌
まとまらぬ句の数多なる震災忌
水音は東の渚震災忌
変はりたる人生あまた震災忌
帯雲に不安よぎりて震災忌
荒神の黄ばみし札や震災忌
震災忌伯母の出てこぬ被服廠
名も知れず逝きし人想ふ震災忌
窓際に今年も枯れて震災忌
血脈を記憶が走る震災忌
歌声に人の集まる震災忌
鈍色のほのかな鉄路震災忌
震災忌オール電化の炊事かな
人混みに行手はばまれ震災忌
一瞬でも死んではならぬ震災忌
訓練も人ごとならず震災忌
震災忌無辜数千を想起せよ
いつになく空仰ぎけり震災忌
そのうちに百年となる震災忌
水筒になまぬるき水震災忌
この街の礎は人震災忌
震災忌二重橋から八重洲まで
警報に鼓動高なる震災記
抽斗の奥のへその緒震災忌
震災忌被災二世の植樹道
フェイクニュース引つ切りなしや震災忌
飲み物の大切さ知る震災忌
お手玉の中に穀物震災忌
人形の頭皮肌いろ震災忌
震災忌戸越銀座のみちを踏む
時計見てとまつたままの震災忌
半島の人の受難や震災忌
語り部の遺影となるや震災忌
小地震増えて不安や震災忌
ぎやく殺の記憶も共に震災忌
山肌を掻毟る雨震災忌
微笑みは記憶ぞ揺らす震災忌
震災忌求人の広告数多
震災忌青空やけに深みけり
低き木の隙に鳥糞る震災忌
期限切れのカンパン齧る震災忌
非常食の日付の旧き震災忌
震災忌同じ年には難波事件
人の死が心に活きる震災忌
もうあれからずつとずつとや震災忌
廃材の校庭白し震災忌
売れ残りの弁当ひとつ震災忌
蝋燭にゆらぐ人影震災忌
たおやかな真昼の川や震災忌
無駄のなき訓練なるや震災忌
パジャマなど持たぬ暮しや震災忌
海鳥の蓋ふ公園震災忌
飲水を二リットル買ふ震災忌
震災忌記されぬ名の多きこと
残されし人の歳月震災忌
濃き影を宿すビル群震災忌
悲しみは語りて癒える震災忌
いつの間にお手ふきは紙震災忌
震災忌ストッキングに線二つ
語り継ぐ今を大事に震災忌
生え替はるやはらかな爪震災忌
震災忌正午の時報事もなく
震災忌歌人の誕生日にもある
看板の路上はみ出す震災忌
震災忌朝鮮人民受難之碑
震災忌ピアスの穴に街がある
出来悪き自由研究震災忌
映像に大八車震災忌
墨田区に墓石の多し震災忌
なるようにしかならないと震災忌
震災忌まがりなりにも生きている
手すり追い握りしめたり震災忌