兼題「冷やか」__金曜俳句への投句一覧
(9月28日号掲載=8月31日締切)
2018年9月11日6:20PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
「冷やか」は秋になって肌に覚える冷気のことをいいます。一方、「冷たし」だと冬の季語となります。さて、どんな句が寄せられたでしょうか。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2018年9月28日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【冷やか】
クリムトのアデーレ微笑吾は冷ゆ
ことさらに冷やかなるや別れ来し
名人の粗研の桶のひやひやと
北窓の光秋冷の兆しあり
冷やかに胸に当てらる聴心器
冷やかや鴉まさしく濡羽色
冷やかに猫の毛玉の床転ぶ
顔洗う水冷やかな朝となり
冷やかに大気澄む日は散策に
朝風に揺るる草木の冷やかに
秋冷の妻のあの声忘れけり
冷やかに揺らすや君のイヤリング
かつて海の底なる岩は冷やかに
秋冷を沓音に踏む甃
冷やかに二合徳利傾ける
冷やかに妻の居場所をさがす旅
裸婦像の冷やかに立ち美術館
時代時代の悩み多き者たちよ冷ゆ
冷やかに巻きたる傘の倒れけり
冷やかや忍野の水で洗う顔
冷やかや濡れ縁にある煙草盆
冷やかやおそらく海に月の影
秋冷や村の朝市最終日
見舞い人去りし廊下の冷やかさ
ペン先の冷ゆる一直線を引く
嬌声に足元冷ゆるカウンター
冷ややかや二者択一の同意の意
冷やかに墓石の裏も磨きをり
ゲルニカの色なき馬や冷やかに
秋冷や捨てきれぬもの減りもせず
秋冷の棚より本の溢れ出す
田園や冷やかなれば凝視する
冷やかや五百羅漢の首ゆがみ
俄雨冷やか連れで時季を見せ
父とゐて淋しがる児や雨冷えの夜
冷やかに言葉といえぬ言葉散る
足裏に床(ゆか)冷やかや猫の朝
冷やかを受け止めきれず般若湯
秋冷のギターつま弾く爪の艶
走り穂は冷やか風をうけ流し
冷やかに小顎の縁の付け黒子
冷やかに口のみ笑ふ立女形
全集の一巻失せし書架の冷え
冷やかに玄ひと色の箸枕
足裏の冷えびえ体重計に乗り
冷ややかに模型の足の取れてゐる
冷やかな別れのやうな空ありぬ
冷ややかに眼鏡のガラス拭く教師
ひやゝかや道いつぱいにひとの影
新聞の広げる前の冷やかさ
冷やかな村には鬼のいまだ棲む
高野槙裸足で廊下冷ややかに
点滴を押し歩く床冷やかに
冷やかや大陸高気圧来たり
冷やかや素足に朝の長廊下
化石抱く苔厚き岩冷やかに
冷やかに明日から元の姓となる
残り飯盛る家の卓の冷えまさる
朝冷えや仔を失なひし母の猫
ひややかや夜窓を叩く鱗翅目
卓上に拭き重ねたる食器冷ゆ
ひやゝかや蒼天を抜く天守閣
点滴の冷やかな手を見舞ひたる
冷やかや連結さるる鉄と鉄
朝冷えや山鳩の声遠く聴く
冷やかに新居探せる旅路かな
冷やかの語感を探す旅に居る
秋冷に猫の瞼の落ちてゐる
辻曲るとき冷やかな朝に逢ふ
雨戸開き冷やか朝にて暦見る
宿坊を裸足で歩く冷やかさ
冷ややかやトップ二人が頭下げ
秋冷は己が影にもしんしんと
冷ややかに地球儀くると回しけり
冷やかに山を見上ぐる無人駅
冷やかや我が口に入る被せ物
冷やかなアラームの音残る酔い
古伊万里の猪口冷やかに酔えぬ酒
宿坊の廊下冷やか足袋をぬぎ
日が沈み冷やかとなり山路かな
ブロンズのヴィーナスの目も冷やかに
ひややかに鳶は風切羽根揺らす
冷やかな朝に選びし仕事あり
ひややかに撫づる地蔵の頭の小さき
ただいまの声冷ゆるころパン焼くる
夕されば一人手水の冷やかさ
冷やかに苔に覆われ眠る刻(とき)
冷やかに澄みし瞳の少女かな
冷ややかも嬉し今年の気候かな
通勤の朝の顔皆冷やかに
冷ややかやスパナを取りて工具箱
冷やかな風足早やに畑抜ける
冷やかや壁なすジュラルミンの盾
冷やかや風に塔婆の鳴るばかり
冷やかや小面つつと橋掛かり
秋冷の雨は涙を薄めけり
秋冷の卓に改訂広辞苑
冷やかを堪ふうなじの艶冶かな
秋冷のごみ箱ちり紙ばかり増ゆ
調律のラ音の音叉冷やかに
冷やかを生き甲斐とする妻とあり
冷やかに目に一滴の薬落つ
冷やかや一つ灯れるビルの窓
冷やかに浮かぶ仏の顔や
立ち漕ぎの束ねし髪の冷ややかに
粘膜としての唇冷やかに
冷やかや校正室の咳払ひ
冷やかや外出するは走る事
秋冷や地蔵の頭に触れてみし
秋冷や葦を眺めてから帰る
ふと触れし腕冷やかに夜散歩
一人待つ歯医者の椅子の冷やかさ
テレビから地震のニュース冷ややかに
冷やかに団体客の声を聞く
赫々たる戦果ひややかなる手下
ひやひやとさすらい人になつてゆく
冷やかに鶏冠の動き見てをりぬ
冷やかや思ひ出せないパスワード
睨み合ふ仁王の目線ひやひやと
冷やかや椅子に埃が薄つすらと
【その他】
月影の清かにさして佇住い