きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「根釣」__金曜俳句への投句一覧
(10月26日号掲載=9月30日締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

釣り用語で「根」とは、岩礁や海底の州などを指します。秋にこの「根」をねらい、岩頭や岸壁などから釣るのが「根釣」です。

さて、どんな句が寄せられたでしょうか。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2018年10月26日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【根釣】
一人来て一人が去りて根釣かな
夕づいて点る港の根釣かな
あるときは竿を寝かせて根釣かな
波浪たつ灯台下の根釣かな
最終のフェリー出て行く根釣かな
太陽のつらをこそげる根釣かな
岸釣の背中寂しく並びたる
ひたひたと夕潮眩し根釣尽く
ポケットに「鬼平」をりし根釣かな
戻り途考えもせぬ根釣かな
吾の悪き事を沈むる根釣かな
貨物船来ぬ夕方の根釣かな
根釣びと釣れないこともまたいいと
背を伸ばし足を延ばして根釣翁
頭(ず)を取ればイソメばかりで根釣かな
キリシタン隠れし岩場根魚釣
汽船きて港時めく根釣かな
岸釣や先生だつて鬱になる
根釣して孤独深める事になる
岩礁に指定席あり根魚釣
言い訳は昨日と同じ根釣尽く
根釣人竿脇に入れ踏ん張れり
半日を根釣と演歌島暮らし
浮きも無く糸を操り根釣かな
らちもなき話花咲く根釣かな
足もとを固め根釣を始めけり
岸釣の父に似たるや子の寡黙
堰く岩の苔に遊べる根釣かな
朝まだき突堤に立つ根釣人
突堤の端にも居るらし根釣客
兄が兄のままいてくれる根釣かな
糸切れることまた楽し根釣かな
まさをなる海ありがたく根釣かな
身支度はぴたりと決めて根釣人
アタリきて力む根釣の蹠かな
根釣かな針になって曳かれゆく
昨日から其処にいるよな根釣かな
月光のゆがむ根釣の波高し
ラジオからスローバラード根魚釣
つぎつぎに弧描く魚信根釣竿
駆け引きは常に水面下の根釣
飯盒の匂ひ立ちたる根釣かな
根釣せる魚のどこかわれに似る
女からよく釣れはじむ根釣かな
恋ふほどに待ち続けたる根釣かな
沖を行くフェリーの波や根魚待つ
月出でて根釣平和の祈りかな
根釣する晩のおかずがかかってる
根釣人釣果は函に二三匹
あいなめの釣れて根釣の成果あり
決めた恋根釣の夢を引き寄せて
根釣人ロダン思わす夕日影
帰宅する理由もなくて根釣かな
女房に嘘吐いてきた根釣かな
昼根釣気泡に岩のまとはりて
みづからを釣り上げさうな根釣かな
根釣する傍にしゃがんで浜の子ら
天蚕糸ふと見失ひたる根釣かな
拵の軽重問わず根釣かな
荒れ方の程よき風に根釣かな
一日をかけて坊主の根釣かな
妄想がかけずりまわり根釣の夕
変わりゆく生態系を根釣りする
ズボン吊り引上げなほす根釣人
連れと来ていて別々の根釣かな
根釣人ひとつ残せし塩むすび
合せ良し竿先撓る根釣かな
お零れの外道待つ鳶根釣磯
二百円払ふ夜明けの根釣かな
旧友の名を遮れる波根釣
眼力をあへて緩める根釣かな
しみじみと海澄み渡る根釣かな
引き波の岩を露はに根釣かな
岸釣のあぶくの太く盛り上がる
ウマヅラの面(ツラ)見飽きたる根釣かな
入婿のいつそう無口根釣かな
潜み居る魚との勝負根釣かな
あまりにも広き海哀し根釣かな
根釣する尻のすわりのよいところ
日もすがら策また策す根釣かな
人果てて魚も果つる根釣かな
夕迫り釣果も無くて根釣人
水平線ただ見つめゐる根釣かな
手作りの竿が自慢の根釣人
釣果無し波の音のみ根釣人
父と子の交互に撓る根釣竿
とろとろと潮風に酔う根釣人
親子にはあらず隣の根釣人
遠山に夕陽とどめて根釣かな
釣道具波に流され根釣人
堤防に犬を繋ぎて根魚釣
海牛(ウミウシ)を放ちて仕舞ふ根釣かな
幼きを上げては放す根釣かな
リハビリを重ね根釣に戻りたる
ワンカップひしと握りて根釣かな
足下に渡船つけらる根釣かな
海底に鱗泳ぐや根釣翁
丑の刻にそつと抜け出す根釣の灯
大橋の青き灯ともり根釣かな
沖にいさり火海岸に根釣の灯
ぶつぶつとつぶやくだけの根釣人
子供から親に祖父母の根釣かな
影伸びて根釣へ波のあわただし
根釣てふ一竿に寄る老夫婦
今日の退屈を楽しむ根釣かな
水平線遠くに置きて根釣せり
納竿に少し惜しげな根釣人
松籟にあたりの呼応せる根釣
潮はやき海峡の端を根釣かな
モンゴロイド世に憚りて根魚釣る
思ひ切る術探しつつ根釣かな
一日を岩となりたる根釣人
岸釣のぽつりぽつりの会話かな
灯をこぼす船屋に戻る根釣人
美しきカサゴの揚がる根釣かな
根釣てふかはたれどきの渡船かな
岸釣の魚影のひとつぬめりをり
きじ猫にがん飛ばされている根釣
根魚釣かつての美男並びをり
小舟より弁当届く根釣かな
オキアミがどばっと散って根釣かな
堤防に波のたゆたう根釣かな
齧りたる握りにしなる根釣竿
潮の香に揺るる気配の根釣りかな
ラブレター根釣へ誘ふ海の恋
たくましき乙女も混じる根釣かな
撒き餌してじつくり座る根釣かな
手応えの無くて根釣の餌を替え
根釣中大物底へ引き込みぬ
氏素性知らぬが安し根釣客
駿河なる富士真っ向の根釣かな
夕闇が孤独彌増す根釣かな
根釣人ダイヤモンドの波頭に
根釣の夜珈琲香る魔法瓶
根掛かりは覚悟の上や根釣人