兼題「着ぶくれ」__金曜俳句への投句一覧
(1月25日号掲載=1月6日締切)
2019年1月22日5:00PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
かつてほど「着ぶくれ」ている人を見なくなった気がします。
コンパクトで温かい素材が開発されているからでしょうか。
都会のラッシュアワーも以前よりは隙間があるようですね。
一昔前までは電車に乗りきれなかったこともありました。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2019年1月25日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
『週刊金曜日』の購入方法はこちらです。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。
予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
【着ぶくれ】
着ぶくれていても抗うことやめず
着ぶくれてコード番号忘れけり
着ぶくれて老を知る身の寂しけり
着ぶくれて風呂の故障をなげきあふ
着ぶくれや襤褸の針目は色褪せず
着ぶくれて所作の緩慢極まれり
着ぶくれの民に道説く臥煙かな
着ぶくれて冷たき妻の墓撫でし
着ぶくれて歳を聞くのが禁句なり
着ぶくれて銭湯に通う夜道かな
着ぶくれて土星火星を近かうせり
着膨れて赤の他人の心地かな
着ぶくれて釣りの小銭を取り落す
着ぶくれて飛び出すごみの収集日
着ぶくれて億はいらねど宝くじ
着ぶくれて二円切手を貼り連ぬ
着ぶくれの子着ぶくれの親追ひかける
着ぶくれの姿紅さして春しのぶ
豊満に着ぶくれモードよく似合う
着ぶくれのをみなシュプレヒコール上げ
着ぶくれの揚げ物多き夕餉かな
着膨れか太りか知らぬ嫁に春
豁然と悟りしはずが着ぶくれる
着ぶくれて柳刃包丁操れり
着ぶくれて屋台の客となりにけり
着ぶくれてゐては恋などできはせぬ
着ぶくれし面接試験会場へ
着ぶくれて風呂の蛇口の閉まらざる
着ぶくれて見栄をはることなかりけり
逆上がり着ぶくれの子のままならず
着膨れて我は我とて嘯きぬ
着ぶくれの影ほつそりと下り坂
着膨れて指の血管動きをり
着ぶくれし子らのほっぺたみな赤し
着ぶくれやにはとりの爪太くなり
着ぶくれて抱ふる箱の蓋の隙
着ぶくれて傷心というかたちかな
着ぶくれて犬と見上ぐる昼の月
着ぶくれもせず塾目指す丸坊主
着膨れの書生を降ろす終電車
着ぶくれて亀の眼になりにけり
幼樹やわらで着ぶくれ時季を待つ
着ぶくれてストリッパーの楽屋かな
着ぶくれて猫と納まる古写真
着ぶくれの派手な婦人と話すなり
やっちゃ場の売る人買ふ人着ぶくれて
女子高生皆着膨れて高笑い
気ぷくれてラジオ体操ユルキャラ風
着ぶくれて監視カメラに写りこむ
着ぶくれて億劫なるや旅支度
着ぶくれて人の動かぬ参道に
着ぶくれて老女の集う念仏講
着ぶくれて随意神経不随意に
着ぶくれの午後ビリージョエルと過ごす
着ぶくれてはずれ馬券に雲ながる
着ぶくれて体重計に指で立つ
義理かけの着ぶくれて押す券売機
着ぶくれて悲しいことは忘れたり
靴ひもがとほくなるほど着ぶくれて
着ぶくれの中に細身の嫗かな
着ぶくれて痒い背中や届かぬ手
着ぶくれて二重人格隠しをり
着ぶくれて夜の市場を通り抜く
着ぶくれて人工呼吸五十回
着ぶくれの祝辞の続く披露宴
着ぶくれて更に探すや着たきもの
着ぶくれて三人掛けの新幹線
着ぶくれた儘まぐわへる後部座席
かんたんに犯罪者めく着ぶくれて
着ぶくれてなお可愛らし孫娘
商品の袋が増えて着ぶくれる
着ぶくれの母よ笑へよ車椅子
着ぶくれや女は女弛ませり
着ぶくれのすり抜けて来る改札口
着ぶくれて距離の縮まる夫妻かな
お賽銭ぎゅっと握る子着ぶくれり
着ぶくれて顔の見えない宇宙服
着ぶくれてマザーグースを開きけり
着ぶくれて磁器の茶碗は使はざる
着ぶくれて捲る春画や神保町
着ぶくれの老婆豆剥く日向かな
庭遊ぶ着ぶくれ雀二つ三つ
よいしよとはすなわちその気着ぶくるる
着ぶくれの如き雀ら宿に入る
着ぶくれのいまウルトラライトダウン
着ぶくれて結果いい人になります
着ぶくれし昭和貧しく懐かしき
着ぶくれて眠りの浅きホームレス
着ぶくれてアルミニウムの日比谷線
着膨るる子の不機嫌を許しけり
着ぶくれて冷やかし歩く飾り窓
着ぶくれや着心地のよき父のもの
初メール添付写真の着膨れて
着膨れたセレブ児相の子をディスる
句を読めば着ぶくれる事も忘れ果て
着ぶくれて真ん中通る赤い橋
ママ作ろ完成品は雪だるま
何ごとの忙ぐことある着ぶくれて
白き尾根攀づ着ぶくれの点二つ
着ぶくれの中に細身の十八歳
着ぶくれてリュック背負つて両手に子
説得力無き着ぶくれの武勇伝
着ぶくれて秩父の夜を徹しけり
それぞれにみな着膨れてゐて家族
子の去りし家に着ぶくれひとりづつ
着ぶくれて杖突き歩み遅き我
着ぶくれの皇帝ペンギン歩きかな
バスの窓曇る着膨れ人熱れ
呼吸器の送る酸素や着ぶくれる
こもを着て細き松の木着ぶくれる
着ぶくれて身動き鈍き岩のごと
律儀なる着膨れの列バスを待つ
着ぶくれや弁舌さえる聖書売り
懐のさむき着ぶくれ姿かな
着ぶくれを目立たぬように斜に構え
着ぶくれてきのふけふただうつらうつら
着ぶくれておしゃべり上手老人会
置物のように着ぶくれ好々爺
着ぶくれてハンドル近くなりにけり
着ぶくれて東照宮の巫女まろぶ
着膨れて預金通帳印字する
着ぶくれの家族だんまりレストラン
着ぶくれて主語なき愚痴を聞かされる
着ぶくれて雀のごとし子どもたち
着ぶくれてピアスの穴のひっかかり
言い訳の娘のお古着ぶくれる
着ぶくれてオープンカフェに薄日かな
着ぶくれて電車混みあふ朝かな
着ぶくれやペンのインクが切れて行く
着ぶくれて戦争闇の奥の奥
着ぶくれの両手に提げる大荷物
着ぶくれて口に出やすき訛りかな
着ぶくれの翁歩める日暮道
着ぶくれて車中はずっと立ったまま
着ぶくれやテレビニュースの溺死体
着ぶくれて遠慮のいらぬゆとりかな
着ぶくれたかに蹲る野良の猫
着ぶくれの胸に飛びたるカレーうどん
着ぶくれや七人掛けに客五人
着ぶくれて賽銭あらぬ方へ飛ぶ
月金の麗人着ぶくれて土日
着膨れの中より出してくる名刺
北の地に着ぶくれたるは旅の人
着膨れて両手で包むティーカップ
着ぶくれの予算を国会審議する
着膨れて抱けば暖かそうな鳩
着ぶくれかもしくはお節ぶとりかと
束の間のこの世に生きて着ぶくれぬ
着ぶくれの肘ぶつけ合ふ屋台かな
着ぶくれて風に逆らい駆ける子ら
土偶にも見ゆる着ぶくれしたる母
着ぶくれの最後に閉づるチャック音
着ぶくれが隣で眠る終電車
着ぶくれて玉砂利を踏む静寂かな
着ぶくれて改札ラッチ蟹横ばい
着ぶくれて家に籠りて所在なし
着ぶくれの下宿の大家メンソール
着ぶくれて欲ふつふつと育てをり
着ぶくれや生身豊かに波を打つ
着ぶくれてモコモコ動く八十歳
着ぶくれて駅の伝言板覗く
着ぶくれ同士こすれ合う朝のバス
着ぶくれてアルトのをんな合唱団
着ぶくれの着ぶくれ同士で行く旅館
とめどなく着ぶくれてみる伊達男
着ぶくれて骨のなき身になりにけり
着ぶくれてしけ込んでいる貸座敷
着ぶくれてテラス席でのショコラショー
オランウータン着ぶくれしたる我を真似
着ぶくれが着ぶくれ笑ひ和みけり
今日明日と転がる日々に着膨れる
着ぶくれてをみなアメ横繰り出せり
着ぶくれの手錠を覆ふ痩せ刑事
着膨れた家畜の群やコンコース
着ぶくれて寝ない努力は難しい
着ぶくれて山道降るハイジのごと
着膨れのせいとは言えず着ぶくれは
着ぶくれやイヤフォンはみ出す手提げかばん
着ぶくれの首から湯気が立ちのぼり
着ぶくれて土偶のごとき妻となる
着ぶくれて野外音楽鑑賞会
着ぶくれて死を意識するぬくさかな
着ぶくれてやや空中に浮きてゐる
アンザイレン解く着ぶくれのもの同士
着ぶくれて無口となりぬ塾帰り
着ぶくれて母おはします昼の居間
着ぶくれや河馬の欠伸に入る夕日
朝影を乗せ保津川を着ぶくれて
通行人A役となり着ぶくれぬ
着ぶくれて愛の一語のあたたかさ
着ぶくれの隙からのぞく富士の白
着ぶくれしかごめかごめをしてをりぬ
着ぶくれし明日廃線の船を待つ
着ぶくれの魂こぞる一の宮
着ぶくれの肩寄せ合うて待つ日の出
犬までが気ぷくれてゆく散歩道
着ぶくれて空くじばかり引いてゐる
着ぶくれて身体の声に耳すます
着ぶくれが押し合ひ渡る太鼓橋
着ぶくれの双子右の子だけ泣けり