兼題「菜飯」__金曜俳句への投句一覧
(3月29日号掲載=2月28日締切)
2019年4月4日6:45PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
菜飯とは、青菜を茹でて細かく刻み、炊きたての塩味のご飯に混ぜ込んだものです。簡素だけどまことに春らしい食べ物ですよね。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2019年3月29日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【菜飯】
菜飯炊く川端の里の風やさし
一膳のつもりが二膳菜飯食う
決戦の朝山盛りの青菜飯
それぞれの菜が己がじし香る飯
盆丸く器も丸く菜飯かな
菜飯の香集いし者に笑み招く
肘張つて食はねばならぬ菜飯かな
老いの身に未知の世界や菜飯かな
菜飯喰ぶ夫婦茶碗の一つ欠け
菜飯食ふ漢にひとつ捨てぬ夢
翁にも嫗にもならず花菜飯
トントンと刻む大葉の菜飯かな
ママひとり客は三人菜飯食ぶ
東より風を入れたる菜飯かな
水道は山より引きて菜飯かな
懐かしき話の尽きぬ嫁菜飯
七人によそふ菜飯の濃きあはき
白米が緑に負けし菜飯かな
混ぜるもの選ばれてきて菜飯かな
炊きたてに菜を混ぜている得意顔
塩強き菜飯に誓ふゴールかな
赤き手に過去をも握る菜飯かな
ご馳走のあとの菜飯に舌鼓
引揚げし母の涙の菜飯かな
癒えぬ病食べねば生きねば菜飯炊く
菜飯売る店いまは無き渡しかな
腹八分菜飯ならまだ入りそう
あらこれも菜飯になるの美味しいね
菜飯より湯気うすあをく立ちてをり
プランター育ちのハコベ菜飯かな
清貧に大金持ちに菜飯かな
年老いてしみじみ妻の菜飯かな
遅刻する菜飯へしょう油ぶっかけて
溪に入る菜飯おむすび二つ持ち
からからと笑う男の菜飯かな
うすみどり色の菜飯の香よし
虫食ひの野菜よ草よ先づ菜飯
ひと口の冷えた菜飯や母の里
受け継がれ菜飯の母の味そろふ
菜飯だよ食べてゆけよと里の母
富士の嶺や金谷の宿の花菜飯
菜飯焚くことも二人居の贅として
大人てふ菜飯の旨さ分かる人
カツサンドと菜飯のむすび交換す
菜飯混ぜ膨らんでゆくうすみどり
殺生は塩の味菜飯を握る
白神のマタギの宿の菜飯かな
一人づつに故郷ありて花菜飯
定食に菜飯呈すや若女将
からし菜に塩味のみの菜飯かな
映画では麻薬取り引き菜飯食う
一合も余る二人の菜飯かな
向学心密かに燃ゆる菜飯かな
春たけて会津の宿の菜飯かな
善人も悪人もみな菜飯かな
妻のやさしさのかけらの菜飯かな
故郷の味が恋しや菜飯食ふ
斜向かいの人の取り出す菜飯かな
指に浸む塩気のうれし菜飯かな
釣り客へ握菜飯を三個づつ
レジを待つ横も菜飯のつもりらし
黒塗の弁当箱に菜飯かな
南より帰り来しひと菜飯食う
転勤の友へと炊くる菜飯かな
これで締め猫に喰わせぬ菜飯かな
菜飯食う鉱泉宿に我ひとり
稽古場に届く菜飯と清め塩
冷や菜飯両手の皺をこすりけり
菜飯ほろと箸よりこぼれ雨にほふ
味噌汁に散らす菜飯の余りし菜
いやになるほど好きになる菜飯かな
菜飯噴く菜は伽羅葺岩魚かな
給食の菜飯の話孫娘
菜飯盛るひとり暮らしの彩りに
隠しきれぬバターの香り菜飯混ず
食欲の無き日にかすかな菜飯の香
八百屋常田に菜飯握りの並び初む
菜飯食ひ人に疲れてゐしを知る
菜飯食む子等の口元おかしけり
母逝きて久しく喰わぬ菜飯かな
思はずも行く手に現るる菜飯茶屋
酒置かぬ店に善男菜飯食ふ
向き合つて妣と食べたる花菜飯
菜飯てふ野山のまこと青き味
やはらかく菜飯と恋は混ぜるだけ
大椀の菜飯田楽掻っ込みぬ
不採用通知しょっぱい青菜飯
焼きそばに菜飯のランチよしとせし
菜飯炊く今日の卓布のきなりいろ
菜飯にも小えびを入れて色を添え
空っぽのくちに頬ばる菜飯かな
兼題の菜飯を作る妻の留守
その辺の野菜を取りて菜飯かな
ビル街の上品すぎし菜飯かな
匂い立ち菜飯を纒う孫の指
胸の奥優しさ運び菜飯の香
空のなき都の空の菜飯かな
菜飯炊くかまどの中はあかあかと
初めての家庭菜園菜飯から
田廻りを終えて件の菜飯かな
菜飯盛る漆器しづかに置かれけり
母の忌の母に供える菜飯かな
菜飯売る容器透けをり曇りをり
わたくしのルーツは葉っぱ菜飯炊く
見習ひの厨房の端に菜飯炊く
菜飯食べ里の山河を思い出す
菜飯炊く我とはちがう子のくせ字
この先は渡しの口よ菜飯食ぶ
さみどりの菜に米ひかる飯の湯気
炊立ての菜飯よそふ夫婦茶碗
匂いそして色までたのしむ菜飯
竹林のざわめき菜飯ふくよかに
彩りの散らばつてゐる菜飯かな
油菜の香り古里呼ぶ菜飯
旬のもの頼めば菜飯真つ先に
つくづくとつぶつぶが好き菜飯炊く
また破談歯に挟まった菜飯かな
香ばしき季節感じる菜飯かな
アンヌプリ光る朝の菜飯かな
襟足ののぞく髪型菜飯の来
菜飯炊き早く帰れとメール打つ
菜飯弁当背負って歩く永田町
豊かなる自然の暮らし菜飯食う
菜飯食めば風ふる里のごときかな
ふるさとの主峰の真下菜飯食う
大根の菜飯ごそごそ噛みに噛み
嫁菜飯あとは味そ汁有ればよい
「菜飯」菜飯食うもんば飯より出世して
三合をたいらげてをり嫁菜飯
もしかして終の夕餉となる菜飯
ログハウス住まいの夫婦菜飯炊く
菜飯食ふことも夫婦でありにけり
菜飯食う芹か薺か蕪の葉か
街道の交はる宿場菜飯食ふ
まづ色を愛でて菜飯を喰ひにけり
院食に心くばりの菜飯かな
菜飯炊きあとは一汁あらば足る
風先で菜飯の色にまず感嘆
菜飯喰ふよごさぬように翡緑を
窓ごしに連山見つつ菜飯かな
菜飯にも幾つもは命つめられて
菜飯褒め町内会の中断す
飽食の世に菜飯食ふ幸せよ
田舎味素朴さ感ず菜飯かな
福耳の男かき込む菜飯かな
鮮やかな緑の菜飯外は雨
うつくしき茶碗の菜飯みどりいろ
少し欠けた塗箸で摘む菜飯かな
菜飯盛りけふ一日の幸思ひけり
夕食のここ一品の菜飯かな
菜飯炊く母は四十で後家になり
山暮れて獣のにほふ嫁菜飯
二坪の畑ある暮らし菜飯炊く
廃校は今寄合所菜飯炊く
菜飯喰ふ遠回しなる小言など
雀きて菜飯をにぎる手のかるさ
漫ろなる昭和もろとも菜飯呑む
菜飯の菜星となり天に散らばりぬ
墓地を買ふ話などして菜飯かな
感情の帳尻合わせ菜飯食ふ
潮の香を受けて味わふ嫁菜飯
弁当の菜飯掻き込む時分時
菜飯喰ぶ梁も棟木も剥き出しで
デパ地下に菜飯弁当売られをり
炊きたての菜飯に心温まる
引き際の美学つらぬき菜飯炊く
俳諧の端にゐて菜飯喰ふことも
昔から菜飯は菜飯季節味
今朝の日差しより白くせる菜飯かな
五時限の舌にもどり来菜飯の香
ほどほどに酔うて箸取る菜飯かな
ふる里を自慢している菜飯かな
遅番の夜食菜飯を盛る杓文字
菜飯では物足りなくてめはり寿司
山頂の握菜飯とシヤンペンと
湯気立てる菜飯の緑生き生きと
菜飯炊く日差し豊かな新天地
検食と塩なき菜飯今日も喰む
血圧の話などして菜飯食ふ
菜飯これ野にあることのさきはひや
菜飯盛る茶わんの底の昇り龍
菜飯見て祖母は戦時を回顧せり
菜飯炊き嬰児の髪匂い立つ
あを臭き日々にまだゐて菜飯食ふ
古伊万里の茶碗に菜飯けさの卓
母の忌の薄日の中の菜飯かな
捨て難き大根葉ゆで菜飯かな
食膳に菜飯並べて父を待つ
嫁菜飯使い込まれし杓文字かな
さみどりや明日退寮の夜の菜飯
菜飯嗅ぎ背筋するつと伸びにけり