兼題「麦秋」__金曜俳句への投句一覧
(5月31日号掲載=5月6日締切)
2019年5月9日9:15PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
「麦秋」は夏の季語です。麦が黄金色に熟して刈り入れ時になる初夏の頃ですね。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2019年5月31日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
『週刊金曜日』の購入方法はこちらです。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。
予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
【麦秋】
黒穂のみ風に逆らふ麦の秋
麦秋や介護施設に母待てる
麦秋や五期目を喚く選挙カー
麦秋の波打たぬまま歩みだす
麦の秋風は麦から起こりけり
麦秋や百貨店には本屋無し
麦秋やスーツ姿の女学生
麦秋の駅くたびれし旅鞄
麦の秋大蛇のやうにうねり来る
おとうとは兄へと挑み麦の秋
麦秋や拍子木たかくこゑひくく
肉叢を炙る馳走や麦の秋
砂時計何度も返す麦の秋
汽笛てふ遠き溜息麦の秋
麦秋や元は畑なる分譲地
麦秋や在来線の無人驛
開墾の碑のある木立麦の秋
麦秋や人妻ひとり通り過ぎ
農日記今年も開く麦の秋
麦の秋百葉箱の白眩し
さびしさのいつも突然麦の秋
麦秋や学童の声天に上ぐ
麦秋や北の国からあのメロディー
麦の秋もしくはあをき風の音
麦の秋レベルファイブの目薬を
腹筋を残り十回麦の秋
休みなく牛が尾を振る麦の秋
麦の秋年金だけになりました
麦秋を見て忘却が濫觴し
麦秋の迷子をさがす拡声機
麦秋の家路はとほく妣の貌
川筋を歩いて麦秋畑かな
民宿は元庄屋あと麦の秋
朝会の欠伸のみこむ麦の秋
麦秋に立つ老いた猫ヒスイの眼
線量計鳴る麦秋の阿鼻地獄
麦秋や税の通知の抜かりなき
麦秋や獣害除けの柵巡る
麦秋や残照あはきニコライ堂
人攫ひ出で来る闇や麦の秋
麦秋や海より低き地がうねる
フリマにて探すお宝麦の秋
麦秋や辞表を出した日の家路
麦秋やいのち尖るるかのごとき
抱くほどに乾きは増せり麦の秋
麦秋の中の緑に牛休む
麦の秋きのふも一人けふもまた
老漁夫の朝帰る島麦の秋
麦秋やトラックの牛鳴き過ぎる
麦秋や五時を知らせる村に鐘
麦秋の音の真中や停留所
段ボールすべて空きたる麦の秋
若やいだ声音の君や麦の秋
沈む陽を瞬時留めたる麦の秋
決心のつかず麦秋けふ深む
被曝後のまだ麦のない麦の秋
麦の秋少女が決める巴投げ
旅人の通るよ麦の秋のころ
麦の秋祖父母のありし日々のこと
麦秋の中を新米街宣車
麦秋や吾子の牧歌はJ-POP
麦秋を背負いて農夫来りけり
相槌を繰り返すのみ麦の秋
古刹への道の痩せたる麦の秋
麦の秋兄が営む美容院
麦秋や旅の哀愁ロマンあり
麦秋や白く小さきショパンの手
麦秋やひとり紐解く万葉集
麦秋の快感うねる小宇宙
麦秋の畑波打たせ風の行く
迷ひつつ札所巡りや麦の秋
麦秋の聖母観音おはす村
保育所に無音の刻や麦の秋
片口よりそそがるる神酒麦の秋
窓際に栞紐引く麦の秋
麦秋に遊べ金色レトリバー
麦秋やゴッホの丘に続くごと
麦秋やめし碗の色広がりて
熊除けの鈴がどこかで麦の秋
町の名の変はる日なり麦の秋
麦秋やどこへもゆかぬ星の水
麦秋や野に拡がれる風の音
獣めく髪をかきあげ麦の秋
超し先は都会なるかな麦の秋
麦秋をまろびたる子の立ち上がる
麦秋やトースト二枚ぽんと跳ぶ
農道を老犬のごと麦の秋
まっすぐに生きて来ただけ麦の秋
麦秋の中より出でる雛ありて
遠鳶のめぐり麦秋拡げゆく
麦の秋人の温もりそこここに
鍬止めてぬぐいし髪の麦の秋
昭和より来て麦秋の令和かな
麦秋や大正生まれ原節子
麦秋や人疎らなる仏具店
小さき落書き麦秋の観覧車
墨摺つて書の掠れたる麦の秋
麦秋や乾いた風の渡る島
川底にひらたい石も麦の秋
道はさみ青田と金の麦の秋
ざわざわともの熟れる声麦の秋
午後四時に開く銭湯麦の秋
プロヴァンスのゴッホ偲ばる麦の秋
老人の体調不良麦の秋
麦の秋マーサイ族の視力は5
麦秋や遠くに見ゆる大聖堂
麦秋や山のへそなる薬師堂
鼻欠けた地蔵三体麦の秋
麦秋の丘に人っ子一人なし
堕天使のステンドグラス麦の秋
この道もあの路もなほ麦の秋
リヤカーは洒落た和製語麦の秋
麦秋のバスを待ちゐる喪服かな
竹刀打つ音ますらおの麦の秋
健在の木造校舎麦の秋
麦秋やドラム缶だけ描く漢
麦の秋訪ふひともなき午後三時
農道に馬糞の乾ぶ麦の秋
さてけふはいかに過ごさむ麦の秋
麦秋を切り裂くやうに赤電車
麦絶えて久しき畑も麦秋期
麦秋の昭和の匂ひ風語る
とび職の整理体操麦の秋
麦の秋見渡す限り人を見ず
七色の軽気球行く麦の秋
麦秋や優しき顔の道祖神
青年の匂いとなりぬ麦の秋
麦秋やローカル線の旅列車
明るくて暗くてけふの麦の秋
排気音の高鳴るバイク麦の秋
聖堂のシャルトルブルー麦の秋
麦秋の野に尽くしたる糧は道
麦秋の中に尽きたる支線かな
鍬担ぐ父振向かぬ麦の秋
懐かしき父の合羽と麦秋と
右旋回麦の秋ゆくグライダー
麦秋を訪ひて吾野にひとり
麦秋や子ら薙ぐ草のとんでゆく
麦の秋ゆるり波打つ地平線
麦秋の足音のなき画廊かな
麦秋や近頃妙に父のこと
時刻表に平・土・休・祝麦の秋
麦秋の雨たちこめて雨降らず
麦秋の今こそ家を発つ日なる
麦秋の風の駅舎や文化財
令に和し逆らうなとや麦の秋
麦秋や飛沫となつて雀散る
味の利を二つへ折りて麦の秋
くしゃみして麦秋ひとつひろがりぬ
大都市を蹴飛ばしにゆく麦の秋
楽器手にあつまる夕べ麦の秋
麦秋の朝新妻のコンバイン
麦秋や行列できし製麺所
麦秋やひた走る朝の自転車
麦秋や輝いてゐる六等星
麦秋に揺らめく風の土の香や
麦秋の宙広がりて翔たきぬ
自転車で進路の話麦の秋
死の床の母子の手と手麦の秋
麦秋の穂波分けゆくわが兜太
麦秋の道を二人の仮退院
麦秋の貨物列車の夕日かな
稜線の低く続きし麦の秋
麦秋や風も木の葉も忙しなく
麦秋や手つなぎ帰る老夫婦
麦の秋鳥居の中の辛子色
麦秋や仏壇店の金の文字
麦秋や一機の影を追ふ雀
麦秋や空よりひろい子らの歌
真つ直ぐな一本の道麦の秋
黄昏は影に始まる麦の秋
給食袋を皆右に提げ麦の秋
麦秋の小径を歩くスマホして
麦秋のホットケーキが焼けました
むかし妻と歩いたはずや麦の秋
麦の秋はんなり濡れる誘導灯
麦の秋鶏舎ざわめく朝餌刻
麦秋といふ色に野の輝ける
麦秋や気高き戦士走り去る
麦秋の道父の引くリヤカーに
麦秋の中より揺るる熱気球
麦秋やぽつりと黒き穂の落ちる
コンビニに独り故郷は麦秋や
麦の秋サリンジャー読む自由席
麦秋や隣の町に豚コレラ
麦秋を真一文字の救急車
麦秋や秩父鉄道徐行せり
吾子の名に草冠や麦の秋