兼題「バナナ」__金曜俳句への投句一覧
(7月26日号掲載=6月30日締切)
2019年7月17日8:31PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
みなさんはバナナのたたき売りを見たことがありますか。私は映画『男はつらいよ』で見た覚えがあったのですが、いま調べると、寅さんがバナナを売る場面はないようです。記憶は不確かですね。
閑話休題。さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2019年7月26日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
『週刊金曜日』の購入方法はこちらです。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。
予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
【バナナ】
小舟と小舟バナナの房の行き来かな
石段にバナナ売らるる馬尼剌かな
うつとりとバナナ食みつつ眠りけり
老人はバナナの皮ですべります
別に食う気はないけれどバナナ剥く
北を向く市場のバナナ冒険へ
ギャグとしてバナナの皮に滑るひと
赤子寝るそーつとそつとバナナ剥く
今朝仕入たバナナから売る親父かな
朝ご飯バナナを食べる少女かな
むぞうさに肌をむかるるバナナかな
熟れバナナ仏壇の籠傾ぎおり
ゴムボール蹴り返したりバナナ食ぶ
バナナ朽ち家人煌く太平洋
バナナ売りのこゑ鳥語めく島の朝
温室の屋根の上の月青バナナ
バナナ剥くソフトクリームのように立て
バナナから始める朝のルーティーン
読み了へてこんな夜更けにバナナかな
房売りのバナナ買えども独りかな
果物の王はバナナでありし頃
バナナの黄祝祭のごと店照らす
灼熱をふくみて甘きバナナかな
半分のバナナカフェのモーニング
病める子に優し三日月バナナかな
奴隷の子蒼きバナナの夢をみる
バナナ剥く令和のかたち知りたくて
給料日職人の父バナナ買ふ
バナナとは対話が出来ぬまま終る
会社から移動のさなかバナナ食ぶ
青バナナかなしい顔が港出る
バナナ手にしておぢさんは芸達者
泣き疲れにバナナ一本処方せり
バナナ手に初マラソンの夫を待つ
電球につむれど眩しバナナ食ふ
一本を妻と争うバナナかな
変身の間合いにバナナ村芝居
バナナの房境内に響く叩き売り
バナナ売り基隆の街雨上がる
バナナ二本ツルリとすべる台所
畳職人の父みやげはバナナ
海は晴れ君はバナナを持ち来たる
避難所へ配るバナナの五万本
ぎこちないデート居たたまれぬバナナ
小舟より求むバナナの日向熱
潮の香はとうに失せしかバナナ剥く
皮をむけ玉ネギではなくバナナかな
バナナ店の並ぶ参道寝釈迦仏
包装のまま仏壇に入るバナナ
バナナ食ぶおしりの黒いごまを食ぶ
バナナ食べる母は補助食だと言えり
もんどりを打ってバナナや青空の
カエサルのナイル眺むるバナナかな
くたびれた朝はバナナがあればいい
遅刻の手にリレーのごとくバナナかな
特売日青きバナナを選びをり
遠き日の夢に通へよバナナの香
仏壇に仏も食わぬ黒バナナ
剥くときのしぐさの軽くバナナかな
バナナ房あつけらかんと仏壇に
青バナナ房を手に乗せ堅グローブ
バナナの房(ふさ)の重さに見合う甘さかな
お供えに小虫が飛んで熟れバナナ
滑り込むやうにバナナを食べにけり
バナナなる木の見当たらぬ日本かな
完走へバナナ一本ガソリンに
剥いてみてはじめてバナナと解りけり
キリン舎の前のおむすび熟れバナナ
をさな子のバナナ頬張るとき笑窪
戦火おさまり青きバナナを子に与ふ
美しき人と分けあふバナナかな
昭和を語る祖母の手のバナナの黄
バナナ喰み夜の海岸で仲間勝つ
補助食にバナナと決めし母が居る
これという果物なくてバナナかな
黒点の浮きしバナナを選るスーツ
色付くやバナナ食む子等小走りに
目の前の色とかたちで買うバナナ
拡大自殺匂わすバナナの皮
山積みの有難みなきバナナかな
手に重き百円均一バナナかな
海峡に橋の一本バナナ剥く
おじさんの九官鳥と島バナナ
茎切れそむるバナナ二本に増えにけり
バナナ喰う老いも若きも今がある
碧き目のマネキンの手にバナナかな
ヤクルトとバナナの付いて来るランチ
バナナの香呼ぶ異国の朝の市
三枚目役者に似たるバナナかな
冷蔵庫黄色いバナナは黒くなり
船底を幾夜熟れ来しバナナかな
バナナの曲がりほどのわがへそ曲がり
崩さぬようにそっと皮剥く黒バナナ
浅黒き肌やバナナを売る男
熱帯の美味ねっとりとバナナかな
バナナの皮じっと見つめる猿の群れ
おーい雲というてバナナの皮を剥く
バナナの香生まれ在所を離れざる
投売りのバナナや雨に晒されて
やや黒きバナナ選びし甘さかな
新聞に残るバナナの凹みかな
バナナ剥くただそれだけのことなれど
仄暗き雨期の廚にバナナ捥ぐ
青バナナ芭蕉終焉地の空に
毳毳しき夜の馬尼剌やバナナの香
俯せのバナナを買つて仰向けに
筆置いてバナナを取りに厨まで
虚子の墓にバナナ一本供へけり
余震揺る棚いつぱいのバナナ揺る
窓開けて憩ふ狭さのバナナかな
舶来のバナナ八十七円也
帰宅時の車内バナナが匂ひけり
差入れのバナナ七房分の皮
3日目に黒き斑点バナナかな
独り居の厨にバナナ熟れすぎて
麻痺の手でぷにゅぷにゅ握る偽バナナ
大房のバナナの重み心地よく
啖呵売昨日蜂蜜今日バナナ
ひやかしに瓦斯の絡まるバナナかな
一本のバナナに託す徹夜かな
夕食にバナナ一本ダイエット
バナナ剥きむかし比島と語る人
水木しげるの戦(いくさ)思ひてバナナ食ふ
長駆してまだなほ青きバナナかな
半分にバナナ分けたる幼なの日
関税のややこしき記事バナナ剥く
バナナ剥く孫の笑顔に目を細め
バナナとはボートソングのあのエロス
食欲はバナナ3本食べるほど
バナナ盛る熱帯の風とどまりて
真つ直ぐなバナナだつたら勝つたのに
一房のバナナ分け合ふ寝台車
熟れバナナ捥ごうとすれば皮剥けて
青バナナ樹上で熟し香を放つ
行くこともなき国からのバナナかな
寅さんに買われバナナのうれしかり
しみじみと今は馴染みのバナナ観る
買ひ物のリストにいつもあるバナナ
にちゃにちゃと台湾バナナ頬張りぬ
売り叩く悲しいバナナお土産に
営業のバッグの底のバナナかな
悲しみと競ってバナナ熟しけり
モーニングバナナ一房ついてくる
バナナ食べ夏バテ対策おいしいね
介助者の差し出すバナナ婆の黙
船室のやうな居酒屋バナナ盛る
クレープになりたい青きバナナかな
青バナナ植物園の蒸し暑き
卸売市場に甘きバナナの香
バナナ熟む欧州航路半ば過ぎ
手に馴染む太きバナナを剥きにけり
与那国に短いバナナあり嵐
三本のバナナで我慢妻の留守
バナナ一本つましく生きて生かされて
絶対に食べぬバナナと決めて居る
マネージャー毎朝三房(みふさ)バナナ買ふ
手を振れば振り返す子やバナナ食む
バナナ無し遠足果ても味気無し
大勲位日々バナナ食い意気軒昂(大勲位:中曽根康弘閣下)
口上の慣れたバナナの叩き売り
雨足の海渡りゆくバナナかな
仏前に熟るるバナナの熟れ具合
ひと房のバナナがみやげ寅次郎
店頭のバナナ明るき黄色かな
青バナナダバオの空は泪色
アラビヤ語手足の指というバナナ
牛乳とバナナ一本良き朝餉
波静か青きバナナの積み込まる
バナナ剝く赤道直下の匂ひかな
南洋に未知の国ありバナナ買ふ
一本のバナナに片手奪はれて
嗚呼(ああ)夜中の熟れたバナナの視線よ
黒黒とバナナは甘くなりにけり
バナナ熟れみんなやさしい人になる
船着場バナナ地に売る老姉妹
縁日の寅さんバナナの叩き売り
バナナ手に戦前戦後語りをり
バナナもぐ手をもちかえて剝いてゆく
意中の娘誘うバナナを手土産に
上品にバナナを剥くといふ作法
一人旅ここはどこなの青バナナ
錠剤もバナナも効かぬ不眠症
バナナ剥く真昼の雲のおほきさに
幾重にもバナナ吊るすや青果市
踏み外せば沼は底なしバナナ採る
一本となりしバナナの房の色
始発待つ旅の鞄のバナナかな
地鎮祭バナナもよしと供へらる
森の人やをらバナナを喰ひにけり
枝を分け花が枯れたる青バナナ
ふところにバナナしのばせストリップ
安くてもバナナボートの世代には
児の群れしかの日の遠きバナナかな
買ふ役を買って出る叩きのバナナ
初バナナ娘の手製スムージー
バナナの匂い満つ部屋へ朝帰り
バナナパフェ男独りの待ち時間
青臭いバナナを嗅げば令和かな
青バナナ薄き香が青臭し
仏壇に間引いて供ふバナナかな
サラダ盛る硝子の器バナナ剥く
もぎたての青きバナナや中学生
ランナーのバナナの皮を投げて過ぐ
弓なりやバナナ剥く母児をあやす
バナナトーチに五輪リレーの幼稚園
我が祖母は昭和の女バナナくれ
一房のバナナ抱えて父帰宅
ふるさとの風語れかし房バナナ
青山でなく浅草で買ふバナナ
にぎやかに北のバナナの冒険譚
本当に旨きバナナの半腐り(はんくさり)
山積みのバナナの房や沖仲仕
特売のバナナの憂ひ確かめる
聞き流す男の愚痴やバナナ剥く
熟むほどに崩れて甘きバナナかな
病得て初めて食べしバナナかな
飲み物としてのバナナや皮黒む