兼題「とろろ汁」__金曜俳句への投句一覧
(8月30日号掲載=7月31日締切)
2019年8月2日8:02PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
「とろろ」を麦飯にかけると「麦とろ」。白い飯にかけると食べ過ぎるので、それを防ぐために麦飯が登場したそうです。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2019年8月30日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【とろろ汁】
木の匙の浅きく凹みやとろろ汁
とろろ汁生涯狂気飼い馴らし
我儘なままで二人よとろろ汁
とろろ汁オチまで見ずに食べ終わり
とろろ汁頭上清風清清と
けふ生きてとろろ汁吸ふ静心
ひとり起き心淋しくとろろ汁
とろろ汁好き好んでのひとり旅
とろろ汁おかずは他になにもなし
まだ記憶せし救荒のとろろ汁
とろろ汁精をつけたい公休日
寅年の姫路の姉ととろろ汁
残像や踊る足裏とろろ汁
独居にすつかり慣れてとろろ汁
とろろ汁女房殿のアレルギー
二万歩を超えて褒美のとろろ汁
献立に惹かれて昼のとろろ汁
熱々へ冷えたとろろの田舎味
とろろ汁店の裏手は竹林に
貧しさの村の名残やとろろ汁
蕁麻疹気にしながらのとろろ汁
旅の楽しみや丸子のとろろ汁
睨むことうつかり忘れとろろ汁
ふと思ふ生命の果てやとろろ汁
とろろ汁つぎの宿場へ十マイル
とろろ汁飯やや硬く熱くして
幼き日父の里よりとろろ芋
打合せの昼餉の席のとろろ汁
とろろ汁僅かに重し飯茶碗
丼を持つてけ母のとろろ汁
とろろ汁向かひ合わせの厭な人
自然薯を手に取り思ふとろろ汁
友来たるご飯何膳とろろ汁
とろろ汁ながらの友は過去問題
とろろ汁今も受け継ぐ結制度
とろろ汁食い味わうや地の実り
とろろ汁昼餉夕餉と朝餉にも
とろろ汁息子減量のこと言わず
とろろ汁幸せ運んだ幼なき日
母の味味噌汁煮物とろろ汁
地中にはダイヤもとろろ汁もある
その家にその家の味とろろ汁
いくつかの副食付きのとろろ汁
ずるずると下卑て懐かしとろろ汁
すり鉢を押さえて助くとろろ汁
擂鉢に小さき手を添ふとろろ汁
適当に摺りたるもよしとろろ汁
とろろ汁納豆うなぎ精つけて
終活の父粛々ととろろ飯
すり鉢の重きも楽しとろろ汁
納得の別れの席にとろろ汁
恋敵横目に啜るとろろ汁
食材に困ったときのとろろ汁
地下街の一膳飯屋とろろ汁
とろろ汁啜るときには愛の音
地震の報確認をしてとろろ汁
とろろ汁啜る家族の京訛り
幸せとおぜんの上のとろろ汁
とろろ汁出汁を効かせてよく混ぜて
天ぷらも添えて名物とろろ汁
友垣は逝きて三歳やとろろ汁
とろろ汁母の羽織をほどく間に
とろろ汁肩意地はるは今年まで
舌焦がすごとく滑らかとろろ汁
順番に擂鉢押さへとろろ汁
友来る何も無いがとろゝ汁
とろろ汁すればする程過去遠く
きざみ海苔天こ盛りなるとろろ汁
蝉の声とろろ汁すすり合唱す
とろろ汁かぶりて米のミゼラブル
妻嫌ふ理由は不詳とろろ汁
妻二夜実家に帰りとろろ汁
とろろ汁あの音あの味淑女にも
雨音の小降りに変わるとろろ汁
言いよどむ少女のひとみとろろ汁
とろろ汁正座すつかり崩れたる
とろろ汁貧しさに慣れたる暮らし
麦とろや遺影の黒き縁の艶
麦とろや畳のヘリは踏まぬやう
とろろ汁意地張りて喪ふを知る
今日のこと明日に延ばしとろろ汁
髭をかし痒み帯びるやとろゝ汁
日の本の引き算は美しとろろ汁
どうしてもとろろ汁がと訪問す
下山してまだ去り難きとろろ汁
とろろ汁野を統ぶ指の節くれ立ち
そと帰る深夜零時やとろろ汁
せわしなき飯場の昼やとろろ汁
熱帯夜月光滴るとろろ汁
とろろ汁掻つこみ好きな映画見に
論争の白熱とろろ汁を呑む
とろろ汁抑留の父帰還の日
わが指もいつしか老いぬとろろ汁
鳩尾に滑り込みたるとろろ汁
ベランダの布団ずぬりととろろ汁
知らずこと知らなくてよしとろろ汁
星の実りや味わえるとろろ汁
とろろ汁ふと口をつく「ホームにて」
宿題は抛りぱなしとろろ汁
とろろ汁食うて粘りを見せろとふ
煩悩は擂鉢一つとろろ飯
とろろ汁風が過ぎゆく朝の膳
濡れ縁を猫の通ればとろろ汁
風の夜やしみじみひとりとろろ汁
とろろ汁無言で会話する夫婦
とろろ汁鶏の鶏冠を見て飽きぬ
とろろ汁よくぞ日本に生まれけり
旗ゆるる峠の茶屋のとろろ汁
思ひ出し笑ひ堪へてとろろ汁
わたくしに三つの嘘がとろろ汁
箸遣ひ窘められてとろろ汁
麦飯をどんぶりに盛りとろろ汁
すり鉢にきれいな円でとろろ擦る
いつも擂り残してしまふとろろ汁
負ふた子に作りてもらうとろろ汁
遅れても朝餉食べますとろろ汁
麦とろや洗濯ものの山崩れ
語らひのおのづとはづむとろろ汁
とろろ汁鞠子の宿の茅葺家
心してさらっと食べるとろろ汁
手料理の先鋒務めとろろ汁
とろろ汁料亭食に今はもう
妻とゆく余生の旅やとろろ汁
とろろ汁のどが細くなる瞬間
とろろ汁昨夜も父は帰らざる
晴れた日のひんやりのたりとろろ汁
とろろ汁祖母作る味出せぬまま
年の実りや詰りたるとろろ汁
ふんわりとかあさんの味とろろ汁
とろろ汁擂り鉢囲む子だくさん
父語る母との出会いとろろ汁
田畑の朽ち果ててをりとろろ汁
一人饍とろろの味はいま平和
おろろ汁三人組のひとり逝き
私たけ持たなきスマホとろろ汁
定年といはず出発とろろ汁
音高らかに畳む携帯とろろ汁
とろとろとすするとろろや猫眠る
長かりし職務質問とろろ汁
青空を天守を見上げとろろ汁
擂粉木の粗削りなりとろろ汁
藍色のエプロン脱がずとろろ汁
「お代わり」と元気な声でとろろ汁
大過なく定年の日やとろろ汁
めでたさを着替へて妻ととろろ汁
とろろ汁今日の歩数を書き留めて
とろろ汁身捨つるほどの祖国なぞ
とろろ汁残す奴いて合宿所
とろろ汁母よ元気になってくれ
痒くてもうちの味付けとろろ汁
丼の麦とろ仕舞う朝稽古
俳聖や句に認めるとろろ汁
妣よりも考遠ざかるとろろ汁
大枚を叩きしあとのとろろ汁
それぞれのとろろ汁にも物語
とろろ汁ひょうたん池をわたる風
恋敵視野に入れずにとろろ汁
とろろ汁カレーの次のランキング
直々にどうでもええととろろ汁
マグマからお裾分ですとろろ汁
ご飯だけお代わりすすむとろろ汁
平日のデパート広しとろろ汁
見本市ドルラルと換ふとろゝ汁
ず―ずーと幸せ啜るとろろ汁
七十年経たる離郷やとろろ汁
子の若き一気かき込むとろろ汁
とろろ汁戴き物の銘酒あけ
とろろ飯わけへだてなく啜る宵
東海の旅での快やとろろ汁
戦争のまっただ中のとろろ汁
麦とろを競いかき込む三兄弟
一瞬で吸い込み消えるとろろ汁
くちびるに触れゐる甘さとろろ汁
老人のやさしくなりぬとろろ汁
麦とろを啜る卓袱台まったいら
とろろ汁話せば限もなきことも
晩き恋さらさらと喰ふとろろ汁
米粒を余さず覆ひとろろ汁
とろろ汁ちかごろ上司と近すぎて
卵かけご飯にのせてとろろ汁