きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「月光」__金曜俳句への投句一覧
(8月30日号掲載=7月31日締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

月光は、「月」(秋)の傍題です。いわゆる「雪月花」の一つで、古来よりさまざまに詠まれてきました。

さて、どんな句が寄せられたでしょう。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2019年8月30日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【月光】
月光を掬ひてビルやガラス張る
清清と地球の半分みる月光
月光の河をわたりてこの世かな
月光や勝手口より水捨つる
走り出し月光並走し始めり
月光に微動だにせぬ庭の石
月光や透けるうなじの肌の色
流木や月光浴びし一里塚
月光を漂ふチェロの音(ね)の重し
月光と見送る人と逝く人と
月光に静まり返り樫の森
楠の木の影こんもりと月涼し
月光の巌に髪梳き人魚姫
月光やほてり鎮まる捨錨
披露宴果てたる月の光りかな
月光に浮かびしコイン精米機
月光で夜景するどく異次元に
月光を曳き漆黒の湖を漕ぐ
一条の月光法事の帰り道
月光やお菓子の家の屋根外す
月光を避けて乞食の毛繕ひ
ライバルは月光先生だと思ふ
とことわをふと垣間見る月光
灯りなく道筋見える月光や
月光に泳ぐ乙女らきらきらと
月光や金の小箱の理髪店
かぐや姫月光の中旅立ちぬ
月光の出窓にひとつ落ちる影
月光の時代時代の悩みかな
月光やあれは生きたき人の貌
月光や冷やかなりし君が居て
月光や女子会続く露天風呂
月光に閃光霞む盆祭り
ひと抱えほどの月出づ松林
月光を浴びて変わり身かぐや姫
月光のつげ義春の日記読む
月光に湾のかたちの波頭
月照るや武四郎行く鯵ヶ沢
月光や色合ひ違ふ違ふ夫婦皿
月光の神々しくも冷たくも
コーラの缶に月光と波の音
月光や彫り深き君の横顔
月光を紡ぎて居りぬ女郎蜘蛛
月光裡ビニール傘を開きしまま
月光の悩み溢るる湖になる
月光の野戦病院淵の匂ひ
摺り足の影道なりに月夜かな
夜道ゆく月光子等の道しるべ
月光にポニーテールはよく跳ねて
月光を後ろに回し紅を足す
月光を浴ぶ係柱や貨客船
月光や夜間工事のヘルメット
月光(つきあかり)変身願望叶わざる
細胞もほどける月の光かな
月光や夫婦喧嘩の大団円
月の夜は両足広げヨガポーズ
月光を頼りに登る白馬岳
月光やビルの各社を冷ましおり
月光かすか愛猫の死の枕辺に
月光の幕通過する森のなか
「月光」聴き思い拡がる夜の空
月光の噴霧に眠りなさい地球
月光や仮面が地面に落ちて居る
月光に道を教わる札所寺
月光や告白し放題フラれ放題
たましひの月光のなかに吸ひ込まれ
月光一条大寺を切り裂く
月光にかざす傷痕敵愛せよ
月光の届かぬ葉陰虫の命(ヌチ)
能楽堂出て足元の月明り
月光やシルバー席に眠る子等
月光をたつぷりまぶす黒き髪
奪われた声月光の石畳
月光をすくひ集めてたなごころ
月光の影踏みながら父帰る
月光の養分受くる森の色
客の跳ねた風呂に月光たつぷりと
酔い覚めの月光遠く遠くかな
月光や眠る鯨の海深く
月光や湖面をさらに静めけり
月光や駐輪場の親子猫
月光に値引いたケーキ下げ見舞う
犬吠えて月の光を戻しけり
月光の影を追いかけ夏祭り
月光や夜間中学の人照らせ
月光に獣ぞろぞろ動き出す
月光を浴び帰りたき家出なり
月光や廊下の端の小窓より
口笛に月光の湖よろめきけり
月光に駅舎の屋根の伽藍めく
月光に見られて嘘を止めにする
梅雨の森赤き満月放ちたる
月光を得ては見返すポスト前
月光に顕はにさるるみそか事
月光や唆されて朝帰り
月光や桑の港の中華街
月光が色白の君艶っぽく
月光に映し出されし団地群
月光や日比谷公会堂の黙
平家落つ月の光や峠道
月光に獣そろそろ動き出し
月光やラヂオに迷い込む異国
月光や様々な詩綴りけり
永遠を閉じこめ月光降り注ぐ
ダム湖の水満つ月光水に満つ
月光や高速バスのアイマスク
月光の綺羅の欠片と露天風呂
月光の帯ひとすじに汀まで
照る月の満ち欠けに似て常なき世
美術館出(い)で月光の道歩く
新劇を観て全身を月光に
月光や浅はかなこと確かむる
月光に映へる絵筆を運びたる
月光や喪服の人のちりぢりに
カーテンを抜けて月光手のうへに
太陽と地球を分けた月の光
月光にビニール傘の俯きぬ
月光を背にして臨むプロポーズ
月光や彼女の顔のうらおもて
月光の影に潜みし彼は誰ぞ
線描画月光喰ふて色満つる
踏外しさうな片足月光に
「叱ってもらえ」月光が帰路示す
月あかり往還端の祠まで
月光や山犬のこゑ故山より
月光や母の日記のSの文字
月光もストローで混ぜタピオカ茶
露天風呂そしてそれからの月光
ある限り骸に月光さし入れよ
月光の下泣く女ひとり旅
月皓々明暗著るき主稜線
月光や当直室の狭き窓
月光に平均余命かぞへをり
月光に鋭き角やビルの群
月光を小箱に入れて持ち帰る
月光を纏いて立てる裸婦の像
月光が水底覗く井戸の城
夜半の中いのちのあるや月光に
大きめの月光とても温度無し
月光のいまならなれるバレリーナ
月光の中にゐるからいと哀し
月光の地のもの全て濡らしをり
稜線を大きく越えてゐる月光
灯り消し月光入れて聴くソナタ
月光に白々と川流れけり
月光や遠い山道一人旅
月光のとほり抜けたる部屋に鼻
月光に眩む提灯ふらふらす
月光に黒く浮かぶや天城山
月光や聖火走らぬ村走る
月光を掬ひて跳ねる芝の虫
月光や忍者部隊の忍び足
月光に似てわたあめのほのかに苦(にが)し
月光やカフェに流るケセラセラ
大伽藍いま月光に照らさるる
月光を隈なくワンルームマンション
水面揺れ月光崩れ背中越し
月光を浴びガンジスの祈りかな
月光や石の寝息も聴こゆるか
月光に別世界あり地下の街
月光や人は鬼にも仏にも
リーダーの読み込む速さ月光裡
月光に照らされてをり池の鯉
無音なる月光浴びてゐる王女
月光や影絵のごとく蜥蜴の死
月光やどこで違えた分れ道
月光を払ふ少年剣士かな
月光や井根の入江の海凪て
月光の明るき夜道人はなく
月光やブルーシートの水たまり
月光や消防服の鋼色
月光や瀬戸の島みなふくらみて
月光の駆けて叢逆巻ける
月光の満つ空つぽの広場かな
特攻や月光贈る前夜かな
月光のこぼれる隙間ある長屋
月光や湖の底なるペンダント
月光や故郷捨てしことありし
月光に仮面ピストル演舞して
月光にわが小指のみ濡れさしむ
月白し影絵の唇に重ねたり
月光を雫に宿し雨上る
月光にライバル気分感じたり
夏満月明日もあの橋通る道
さりげなく掌にとる月の光りかな
月光や平等にて地を照らせけり
月光に目を細めたる夜勤かな
月光や星の裏には何がある
「月光」を弾いた少女の紅い顔
月光に浮くカーテンのレース柄
月光や合鍵左右非対称
月光や代筆頼むラブレター
月光やオールナイトのエロ映画
月光や日付変更線の海
月光に乾く海星や旅の浜
月光の書架にまぼろしかのレーニン
背中押す月光ありし不惑ころ
灯を消すや貧しわが書架月光に
月光や家へと登る曲がり坂
月光やハノイ上空時差は誤差
水盗む月に見られつゐるような
月光のもと流れくる夜想曲
月光の歪んで揺れて水鏡
月光にひとすじ海亀の涙
道標朽ちて浄土の月明かり
金泥となりし月光鯉の池
枕頭に月光を置く旅寝かな
月光の水面に息を吐く魚
月光の砂落ち終るまでの刻
月光や銃後の母の組写真
月光の道往く人に声掛けず
月影を受けて振り向く鬼の面
月光や隣家の風呂に灯の消えて
月光の閨の布団の片開き
月光が砂漠を照らす遙かなり
月光が森に差し込む静かなり