兼題「秋の蝶」__金曜俳句への投句一覧
(9月27日号掲載=8月31日締切)
2019年9月13日7:23PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
蝶は、蝶(春)、夏の蝶(夏)、秋の蝶(秋)、冬の蝶(冬)と、それぞれの詠み分けが難しい季語ですね。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2019年9月27日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。
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【秋の蝶】
鱗粉に光を均し秋の蝶
秋蝶や我を追い越しマンションへ
アイタイと電報二通秋の蝶
秋の蝶なにか伝言ありそうな
躓きて段差のわづか秋の蝶
金堂の柱を掠め秋の蝶
秋の蝶風にふかみて里にあり
バラ園の再開祝す秋の蝶
秋の蝶風に抗ふこともなく
秋蝶のへの字への字と飛び去れり
秋蝶や星に明るむ沼の水
身を分かつやうに二つに秋の蝶
秋蝶や湿気がおおふ無言館
秋蝶の先達となる野辺送り
秋の蝶翅ふるはせて死の舞を
神木をひとめぐりして秋の蝶
ジグソーパズルの欠けたピースや秋の蝶
羽いっぱい受けて秋の蝶の舞
風狂う押し流されて秋の蝶
秋の蝶カラオケバーの音外れ
秋の蝶猫の耳元通り過ぎ
野を灯すかに秋蝶の翅ふたつ
秋の蝶秋の海峡渡れしか
秋の蝶診断待ちの椅子硬し
秋蝶や蕎麦屋の暖簾翻る
わがままな三十娘秋の蝶
秋蝶の翅が変へたる風の色
秋蝶の風として生く浅茅原
燐寸擦る秋蝶とほる野のなかに
秋の蝶秘すべきことのあるごとく
朴訥が塗り替えるドア秋の蝶
秋蝶に古きまなざしありにけり
秋蝶の重力のぶん時空ゆらぐ
秋蝶やステンドグラスの日の中に
老蝶の故郷へ帰る勇姿かな
丘に来て海見ておれば秋の蝶
大海を冥土に向かう秋の蝶
風にのり飛びかひたるや秋の蝶
幻の行方は知らず秋の蝶
皇帝の死は秘さるべし秋の蝶
後宮の動静知るや秋の蝶
忘れよと湖へ跳び去る秋の蝶
秋蝶や風の留まる能舞台
トランクの把手の傷や秋の蝶
ネオン街未練ひらりと秋の蝶
秋の蝶祠の前に翅を閉づ
秋の蝶今日の歩のゼロを押す
浅間社陽射さぬ社の秋の蝶
真直ぐなる道行く人あり秋の蝶
縋りたるやうに曇天秋の蝶
店終ひする看板に秋の蝶
ハイウエー越えて飛び行き秋の蝶
昼寝する口の暗がり秋の蝶
山影を出て秋蝶の光りけり
ジグザグに命の際を秋の蝶
樹間舞うどの秋蝶も連れはなし
秋の蝶スティックのりも一休み
秋の蝶一人で飲もう祝い酒
山椒の棘を味方に秋の蝶
子規堂に八つのバケツ秋の蝶
秋蝶の風に逆らふ術しらず
黄の烙印押してゆくなり秋の蝶
恋文にふくらむスペル秋の蝶
国許へ早馬駆くる秋の蝶
日を浴びて低く緩やか秋の蝶
真白の句帳取り出す秋の蝶
秋の蝶逃げて新型戦闘機
秋の蝶犬が死んでから会わぬ
草に来て何時しか我も秋の蝶
とまるものなくてまた浮く秋の蝶
重力の波かきわけて秋の蝶
長靴の黒きを怖る秋の蝶
島にいる一週間や秋の蝶
思い出の地に現れた秋の蝶
秋の蝶ワイングラスの細き足
堪えてこそ召された姉は秋の蝶
訥訥と話す口元秋の蝶
持つ物はなんにもなくて秋の蝶
秋の蝶吹かれ流され抗へり
迷い来るふらりふらりと秋の蝶
川越に話す親子と秋の蝶
濃き影を石に落として秋の蝶
弔いはお前と一緒秋の蝶
秋蝶の海に出てのち舞ひ上がる
職員も知事の標本秋の蝶
力なく石に張りつく秋の蝶
ふと開けしにじり口より秋の蝶
瀬戸内の海の淡さや秋の蝶
老蝶やサックスの音果てぬ夢
風下へひらりゆるりと秋の蝶
千代紙の風に一枚秋の蝶
秋蝶の翅の曲がりし角度かな
秋の蝶路傍の石に翅休む
緩やかに何を思うや秋の蝶
秋蝶や所詮都会に暮らせぬ身
夜の宿は何処に求む秋の蝶
追ひかけて心痛まし秋の蝶
新しい本は増えたが秋の蝶
墓石の低きにとまる秋の蝶
魂の抜けてゆくなり秋の蝶
秋の蝶戯れながら天高く
言の葉は水底にあり秋の蝶
秋の蝶ひと足お先に行ってます
人里より墓場へ来たり秋の蝶
手触りの風深まりて秋の蝶
吹く道の流れる風や秋の蝶
秋蝶や笑ふことしかできぬ母
ピアノ鳴る家入り来る秋の蝶
この雨に葉隠れなるや秋の蝶
コンバイン二台の手入れ秋の蝶
慰霊碑に翅休ませて秋の蝶
秋蝶を庭に愛でけりジェノベーゼ
還暦の勤め見送る秋の蝶
秋蝶や一万歩までまだ三千歩
秋蝶や千年先を司る
籬には寄らぬ秋蝶目に追ひぬ
しはぶきのひとつ聞えて秋の蝶
かすれゆく日差しを浴びて秋の蝶
裁縫に馴染む指先秋の蝶
無人駅人恋ひしきと秋の蝶
翅いつも戸惑ひてをり秋の蝶
地を這ふごとや秋蝶の死に向ふ
玻璃窓に術後の姿秋の蝶
秋の蝶芙蓉の終に翅閉ぢる
子等もまた追ひかけまいと秋の蝶
駅員のゐない改札秋の蝶
背を見せて八十路のバレエ秋の蝶
湿りたる小石が好きで秋の蝶
疲れしかロープウエーに秋の蝶
秋の蝶畑に舞えば人が減り
不整脈五回数へて秋の蝶
湧水の案内板や秋の蝶
シーソーの上がれる方へ秋の蝶
秋蝶や「いのちの初夜」の頁繰る
鮮かに来ては去り行く秋の蝶
居残りの女子生物部秋の蝶
滝に落つ一葉とみえし秋の蝶
秋の蝶そっちは反日気をつけて
吊るされる物干しざをに秋の蝶
秋蝶を追ひかけられぬ年になり
肩並べ夫婦朝餉や秋の蝶
ややわずか寥しさ連れて秋の蝶
低空を飛べば気付かぬ秋の蝶
親一人残る施設や秋の蝶
吊橋や息ととのへし秋の蝶
燈台の白に秋蝶見失ふ
筆跡の乱れのやまず秋の蝶
産卵の非道分からぬ秋の蝶
うかうかと時を違えし秋の蝶
単線の踏切秋の蝶と待つ
正門の監視カメラや秋の蝶
イングリッシュガーデンに舞ふ秋の蝶
秋のてふ天上のいや遠長き
水消えし川底白し秋の蝶
秋蝶の思いあぐねし飛翔かな
秋の蝶こころ洗うという庵
秋の蝶逝きし人よりひとつ上
面影の若きままなり秋の蝶
臨月のごとき砂丘や秋の蝶
秋の蝶とげぬき地蔵尊くすむ
秋の蝶曳きつつ老いの影のなか
主婦の手の叩く音きく秋の蝶
秋蝶の水の流れのかたはらに
寄り添ふて歌に舞ふごと秋の蝶
放課後の鉄棒にふと秋の蝶
何処へ行くのか帰るのか秋の蝶
秋蝶の耳打ちお隣り入院よ
秋蝶や御苑の背中にビルの群れ
登山口掠れた文字に秋の蝶
秋の蝶千年欅の天辺に
一山を越へ来し朝の秋の蝶
少しだけあかるき日向秋の蝶
秋の蝶ああなにもかも透明だ
閃光を放つ馬鍬や秋の蝶
秋の蝶親の仇とばかり翔つ
夕陽落つるまでの切なさ秋の蝶
飛ぶ影を確かめるごと秋の蝶
うつくしき皺の胸乳や秋の蝶
甲子園負けた方にも秋の蝶
還暦も逢瀬は逢瀬秋の蝶
坂道を傘くだる秋蝶のごと
篠竹のヒンメリの揺れ秋の蝶
秘め事を囁くごとき秋の蝶
白々し友の病室秋蝶が
往年の闘士の背中秋の蝶
風神の腕寄り添い秋の蝶
侵入の秋の蝶撮る苦労かな
秋の蝶2000万円用意して
秋の蝶無罪判決待つごとし
秋蝶や企業戦士の団地過疎
緩やかに羽の開け閉じ秋の蝶
薇の切れし時計や秋の蝶
秋の蝶天は目指さぬ節度かな
鈍色の津軽海峡秋の蝶
秋の蝶音楽室に鳴るピアノ
秋の蝶窓をななめに流れゆく
翌年の日差しを見ずに秋の蝶
ネクタイを締め直せども秋の蝶
秋蝶の生きて消へゆく先の空
秋の蝶羽を休める葉の垂れて
ロボットの人差し指へ秋の蝶
新しき畝に閉ぢたる秋の蝶
夏の果て飛び立て間もなく秋の蝶
舞ひ上がる花片でなき秋の蝶
渡月橋渡る人に?き秋の蝶
水脈曳いて沖往く船や秋の蝶
羽音さえ秘めやかにして秋の蝶
秋蝶やまだヒマラヤの夢をみる
現世の秋蝶墳墓より舞ひぬ
土に落ち羽を休める秋の蝶
ジャズ喫茶の「閉店」の紙秋の蝶
浄土めく池の中洲に秋の蝶
土饅頭に縋る秋蝶見て飽きぬ
秋の蝶何処かおのれと重なりぬ
見せている羽模様さえ秋の蝶
紙切れに命のあるや秋の蝶
秋蝶の生るる小寺の潦
秋蝶とあと先なりて投函す
風に吹かれ波頭を越える秋の蝶
【着ぶくれ】
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着ぶくれて芋虫になる四畳半
着ぶくれてウルトラマンに変身す
着ぶくれて引き剥がさるるホームかな
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