兼題「葛切(くずきり)」__金曜俳句への投句一覧
(5月29日号掲載=4月30日締切)
2020年5月1日6:47PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
暑さに弱った身体にやさしい葛切は夏の味覚ですね。名物にしている店も数多くあります。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2020年5月29日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
『週刊金曜日』の購入方法はこちらです。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。
予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
【葛切】
葛切や病気自慢の姦しく
葛切のごと唇に入りたし
葛切や食後の吾を沈めけり
黒蜜の葛切りつるり里の味
葛切や忘れしことを忘れたり
葛切に蜜たつぷりと旅疲れ
葛切や吾の学びたる学舎なし
葛切や窓の外側うるほへる
葛切や京に戻れば京訛り
葛切の茶房はひとり雨しとど
たつぷりの葛切食べるひとり旅
葛切りに溶け込む夜半の夢話
峠より茶屋の葛切匂ひけり
葛切や塩味の人やつてくる
葛切ゆたゆたう緑み吉野や
黒蜜を延と煮て葛切待たす
葛切りや元サラリーマンの老庭師
奈良の出の葛切り食べて思い湧く
葛切や真白き服にシミ一つ
葛切りや一本のまま腹に落つ
葛切や風の透け行く嵯峨野かな
葛切やひとさじごとの忘却
葛切や滑り台のやうな肌
葛切や着こなしのよき娘がよそふ
葛切や幸せさうな少女たち
葛切や墨田区の空みな見上ぐ
くずきりや寧々の寺まで後五分
葛切や高校教師だつたとか
葛切に昭和歌謡がラジオから
葛切や竹の器と竹の箸
葛切の蜜にことさら眩しめり
葛餅やホームステイの子の無口
散歩でもしない葛切でも食べない
葛切やまつすぐ畳む箸袋
葛切や日は半球を照らしたる
葛切りをスープにあしらふ妹よ
葛切の歯ごたへよくて膝くづす
葛切や吉野の風の通る席
葛切や「女の一生」幕下りて
葛切や左手で髪かきあげて
葛切の店の二階や酒を出す
葛切や京に聞きたる津軽弁
葛切りや土山宿は今日も雨
葛切に身震いしつつ夕間暮れ
一口に食まぬ葛切風の庭
葛切りや店頭ケースの右の端
葛切の甘さを知りて岬へと
葛切りで締めとするなり京の宵
葛切や我が正午の硝子体
葛切りの生涯のいろありにけり
葛切りや人の通らぬ問屋街
葛切やあの人がまず頼むもの
葛切や睫毛のつくる薄き陰
葛切の黒蜜つるり冷ましあり
葛切や趣味への問いで切る口火
葛切りやコロナ休日吉野葛
鎌倉に葛切り食べにハイキング
葛切や烈日の公園(にわ)大樹あり
葛切や騙されしふりしてをりぬ
葛切や箸を持つ手のぎこちなさ
葛切りや食せば口の中で泳ぐ
葛切や蜜に波照間黒砂糖
葛切や人はいなくて器のみ
葛切や初産の喉むつちりと
葛切や伊勢へは東杉の中
葛切やつるり呑み込む艶話
さよふなら葛切のやう貴方去り
葛切に木漏れ日強き茶店かな
葛切の蜜をうすめて涙雨
葛切やこの丘も誰かの墳墓
葛切や終われば席を離れゆく
葛切や膝抱えひとり白い部屋
葛切や水に浮かべる琥珀糖
葛切りの透明度ますサラダ和え
人情の葛切の店百年余
黒糖の古都の葛切母の笑み
葛切は竹筒で売り和菓子店
葛切や黒き紙には白き文字
包丁で葛切りを切る母の腕
葛切や吉野は静か緑濃き
黒蜜をまとひ葛切なまめけり
上品に葛切り食べた明治女子
葛切りや同じ手つきの祖母と母
葛切りやシコシコしたり冷ややかに
葛練や大和三山夕間暮れ
葛切とともに微風をすすりけり
葛切や思ひ返せば皆雑事
葛切や主(あるじ)手製の縄暖簾
葛切や宥すは難し年経ても
葛切に波の音する真昼かな
葛切やでかかる愚痴を流し込む
葛切りを啜る音する八坂前
葛切や明日は別れて行く人と
葛切に待ち合はせたる吉祥寺
江戸前は三杯酢がよし葛切を
葛切りや立ち退き料の薄さかな
葛切の土産や母を見舞ひたき
葛切に昆布茶お喋り小休止
葛切や生命透みゆく宵風に
葛切や巣籠りの長々として
古き町夕日に葛切り透かし見る
葛切や十津川村の広過ぎて
葛切や娘にひたむきの眼のありぬ
葛切や哀しみの色閉じ込めて
温葛湯砂糖と湯気に父の顔
手土産を持参して葛切を食ぶ
葛切や縁側に日の傾けり
葛切や周りはみんな嫁に行き
黄な粉より糖蜜たっぷり葛切に
葛切や朱塗りのうつは杉の箸
葛切や同胞のみの忌の明けて
葛切に映る眼も透きとほり
葛切の喉を潤す和三盆
葛切の触るる唇の渇きに
呉服屋に葛切の出て買ひにけり
夕風の遊び葛切かがやかす
葛切の沈みて町家暮しかな
葛切の色に生えたる空の青
葛きりの老舗たずねる若き声
葛切やわが煩悩の黒き蜜
葛切りを食べ干してなお席立たず
葛切や片膝だけ立て食べて居る
葛切にご主人のやさしさあふる
葛切や過ぎにし日々の透明に
神宮や葛切母に所望する
葛切りの一本机に落ちにけり
何一つ解らぬ畏れ葛切飲む
葛切の箸休むとき山の風
葛切や甘味所は路地の奥
葛切の際立つ塗りや漆椀
葛切や十五の京都背伸びして
葛切や吉野は抜け殻のやうに
葛切や再放送ばかりのテレビ
葛切や艶やかなるを誇らしく
葛切に糖蜜黄な粉混ぜて食べ
葛切の氷の濁りほどの色
葛切の味知らぬ人おいでやす
葛切の糖蜜の椀漆塗り
葛切や五百羅漢の動かずに
掬ひ分く吉野の水と葛切を
葛切や唇を撫で身のほぐれ
葛切や参道の坂上り来て
葛切や礁抱ける波幾重
葛切の一途の職や店構へ
葛切や震え定まる屈折率
吉野はも葛切組と餅組と
葛切やひとは知らねど京の闇
葛切を食ぶる女の加賀なまり
葛切りや密を控えてなお楽し
葛切や吉野の茶店老夫婦
葛切や結局帰るしかないか
葛切の元祖本舗を判じかぬ
葛切や役小角を隣して
葛切や吉野の里は晴れ模様