兼題「白靴」__金曜俳句への投句一覧
(6月26日号掲載=5月31日締切)
2020年6月5日7:52PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選者の櫂未知子さんの御句に〈経験の多さうな白靴だこと〉があります。履物を見てその人のありようを読むことはよくあることですよね。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2020年6月26日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【白靴】
白靴はまだ本棚の箱の中
白靴にかすかに草の擦れし跡
麓まで真っ直ぐな道靴白し
アパートに恋の白靴薄汚れ
白靴を履きて煙草を探す癖
若者の貧しさ眩し白靴(しろいくつ)
白靴のうしろに伸びる過去いくつ
白靴に並びて来る赤き靴
白靴を鞄に入れて渚かな
白靴はタップ踏む吾は流砂踏む
白靴が汚れぬように替えて出る
白靴を履きしは夢のありし頃
出張の鞄の底に白靴も
白靴や家族揃って新幹線
白靴の蹴りし地面の影が濃い
白靴の股の間を県境
履くことのついぞなかった白い靴
白靴の恩師と席を奪ひ合ふ
白靴の無謀なりけり雨の帰路
白靴やアンクレットは金細工
血を止める作業に白靴履き替えず
靴磨き磨いてくれた白い靴
白靴のじっと黙りて晴れを待つ
白靴の軽きステップ文京区
白靴の短足なるを知りもせず
本堂に並ぶ白靴どちら様
スケボーに白靴の足吸い付きし
白靴や夢みる吾子の枕元
白靴を揃へ母の無口なる
手に白き靴持て少女海見遣る
白靴に遅れがちなるハイヒール
白靴の汚れてもなお眩けれ
白靴やテニスコートの夕静寂
白といふ色の力や白靴(しろいくつ)
ショートボブ素足に白靴艸千里
白靴や小走り止まる古館
白靴のつま先残すかくれんば
伯父来たるらし白靴が玄関に
颯爽と歩くを強いる白靴は
白靴で自粛解かれし街に出る
うづら糞の山白靴下に待つ
白靴の垣根に干され大家族
母の白靴歌舞伎座の緋毛氈
白靴や単身赴任の父帰る
白靴は空を駆けるや午後の雲
白靴の紐を結びて街淡し
白靴の側に四つ葉を見つけたり
白靴やフィレンツェはあまりに遠し
白靴に牧場の土のやはらかさ
白靴や銀婚式の夜のワルツ
白靴の涼しき色の漢かな
白靴のどなたに逢いに行きしやら
白靴の五つ続ける下船かな
白靴のピアスの穴を開けにゆく
白靴を汚して白の毛羽立ちぬ
赤い靴と並んで歩く白い靴
白靴のずらり茶道部ミーティング
外車から降りてくる人白い靴
白靴に帽子合わせしこともあり
雨あがり白靴ゆるりと試し履き
白靴の似合うおしゃれな女の子
白靴や駅へ半里の砂埃
いやなんです白ぐつの汚れるのが
汗染みや練習用の白い靴
陽光を受けてつややか白い靴
白靴の時は短し五月雨下
白靴やむかしの遊び人らしく
休校の続く白靴引きこもり
エナメルの白靴を履く修羅の者
白靴は心の底まで白くする
グランドで速く走れる白い靴
白靴でお洒落を決めて髪梳きぬ
KUTOOの白靴ありし夕鴉
最初から白靴履けば良かつたか
白靴の魔法の解ける音がする
白靴を履けば必ず俄雨
白靴や肩甲骨の一対に
お揃いの白靴ねだる姉妹かな
朝もやにまづ白靴が現るる
白靴にソックスも夏色に変え
白靴や別れを告げに行く朝に
モノクロの写真色褪せぬ白靴
白靴の似合ひし人も要介護
無観客の席に置かるる白い靴
白靴が実は似合へりタキシード
白靴のふたり搭乗空の青
帰り道白い靴手に子を背負い
哀しみも古白靴も捨てきれず
血だらけの職場に白靴台無しに
ジャケットの素足に履くや白い靴
白靴の足組みてまた注文す
あの娘(こ)とねデートさけふは白靴で
白靴の男は泣いてなりませぬ
白靴に縞のスーツでランデブー
白靴の箱や亡父の書庫の奥
コロナ禍の白靴汚れやうも無き
白靴や摩天楼でも見上げたり
札幌へゆく白靴をおろしけり
白靴や百五段目に茶店あり
白靴の似合う叔父貴でありしかな
白靴を履きて公園再デビュー
白靴を揃えて上がる御堂かな
組み脚の揺れる白靴プラットホーム
ウイルスに白靴汚れなかりけり
白い歯を見せて磨くや白い靴
白靴と長い別れのグラスかな
白靴や息つめて白線の上
?靴の?祖の写真もどんど焼き
片想い同じ白靴胸キュン
靴下を脱いで白靴に足通し
新品の白い靴おろしどこへ行く
白靴やイギリス英語うつくしく
街灯の影に慄く白い靴
白靴に牧場の土のやはらかさ
砂払ふ遺跡巡りの白い靴
電子科の白靴男子書を買ひに
白靴にわずかに残る旅の砂
草臥れて白靴を脱ぐロビーかな
白靴の洗いざらしの肌ざわり
白靴に乾いた道の泥少し
足下をやたら気にする白い靴
パラソルの陰に白靴覗きをり
姿見に白靴履きて深夜二時
アパートの錆びた手摺や白い靴
本堂に並ぶ白緒の草履かな
白靴をていねいに脱いで揃える
白靴は白髪長身にこそ似合う
白靴やいつもの道に活を入れ
どぶに落ち泣いて帰った白い靴
親猫も子猫も赦す白い靴
白靴の恩師を囲むクラス会
白靴や男の意地の際立ちて
白靴の岬に立てば海に雨
白靴の徒歩のリセットマイウエイ
白靴の撥ね上ぐる泥持久走
高原の家族一人は白靴で
白靴にブラッディメアリーこぼしおり
白靴で青い車で海に行く
白靴がまた血で汚れ顔歪む
森へ行く時は白靴温存し
掃き出しの三和土に揃ふ白き靴
目印の白靴で待つ交差点
老人のらしからぬ白靴を履く
尾行しやすき白靴に逃げらるる
白靴の少女の祈る慰霊塔
白靴やズボンの折目揺るびなく
白靴で町が田舎へやってくる
白靴の底を映して水溜り
白靴を放って占う日曜日
海にしようか白靴のための旅
白靴の行方不明となりにけり
リルケ手に白靴で来る教授かな
白靴に嫁さんに来い言はれても
終電あとの白靴の底にガム
白靴や都落ちせる三代目
白靴や妖怪にほぐれゆく風
白靴の空色紐に星の砂
白靴の紐きりりとあの面差
墓参あとすし屋に寄りて穴子かな
下駄箱の白靴に黴招待状
白靴で帰る放蕩息子かな
白靴を優しく拭う雨あがり
白靴(しろぐつ)を復も土手をゆく園児達
独歩碑を若き白靴小走りに
彼岸花ブロック塀に白い靴
廃校の廊下に白靴物言わず
下駄箱も老いぬ白靴消えしより
ダッシュして勲章目指す白靴で
白靴は未熟なままで老いにけり
白靴や壊れる前の飴細工
好きですと白靴きつと言ひ出すぞ
一番に白靴入れる旅鞄
白靴の揃いて動きバレリーナ
白靴と歯ブラシの入る小さき荷
白靴で町の知らない道を行く
君に逢う真っ白い靴に青い空
白靴に似合う服はどれかしら
欠点も包んだ好意靴白し
白靴の踵を揃へ鼓笛隊
白靴のパイプのけむり甲板に
カールコードの白白靴リズム踏む
白靴の紐ほどけたり歩道橋
白靴のコロナ太りと言われけり
白靴や石ころ一つ転がりぬ
白い靴軽やかに来る石畳
白靴や其処は駐輪禁止です
白靴やせめて磨いて美しく
洒落者の素足に履ける白き靴
青空に真っ白い靴が似合うかな
白靴のやけにステッキ廻しをり
白靴や別の昔が立ち上がる
花嫁の白いドレスと白い靴
金婚の白靴の旅杖要らず
白靴のまず眼に入る淑女かな
白靴に白きズボンと紅きシャツ
白靴が慣れた手つきで井戸を汲む
白靴の子の避けもせぬ潦
白靴や東京知らぬ母は買い
白靴や姫になりきるバレリーナ
白靴を貴女のワンピースに合わせ
東京や白靴の旅はじまりぬ
白靴で燦々な陽虹の汗
白靴の汚れつちまつた想ひ出も
白靴で巴里への一歩踏み出しぬ
白靴でスキップしたい六十路かな
待ち人は来ない白靴シミひとつ
白靴の脱ぎ捨ててある日本海
父逝きて遺品整理に白い靴
白靴を脱がず寝そべる歯科の椅子
エナメルの白靴ひかる黒き街
白靴のちぐはぐな過去ありぬべし
白靴がしんと鳥居を潜りけり
白靴や糊の香りの立つ暖簾
白靴を公道に出さぬ覚悟なり
鍔広の白靴のひと紅の濃し
白靴や新島の浜踏み来たる
白靴や遺影に立てる祖父と祖母
白靴の父は大正吾昭和
白靴の書き文字めける見舞ひの語
白靴やカクテルの名は青い月
白靴に野の擦過痕歴々と
真新し白靴並ぶ始業式