兼題「夜店」__金曜俳句への投句一覧
(7月31日号掲載=6月30日締切)
2020年7月17日11:59AM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
寺社の縁日などで見られる「夜店」ですが、今夏は、新型コロナウイルスの広がりで、あまり出会えないかもしれませんね。ちなみに、浅い水槽の中の金魚をすくうのを「箱釣」(はこづり)と言います。夜店の傍題です。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2020年7月31日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【夜店】
アセチレン灯りかなしき夜店現る
夜店ゆく子らの笑ひの弾けたる
箱釣にまくりし腕の太さかな
異国なる音とにほひに立つ夜店
肩車されて夜店の灯をともす
夜空見てゆらゆら染まる夜店かな
りんご飴大小並ぶ夜店かな
夜店に買ふ明日には褪せるブロマイド
電灯に夜店の客も赤ら顔
灯り借り鼻緒直しや夜店前
夜店の灯ふるさと匂ふアセチレン
出張のホテル真下に夜店の灯
どの穴も語らず夜店の仮面かな
久々に出逢う旧友夜店前
夜店の灯消えて社の杉木立
夜店の面頬輝かせ虚ろな目
稚児になりチョコバナナ選(よ)る夜店かな
地元民のふりをしながら夜店の灯
背伸びして夜店に渡るひよこの声
水底を歩むに似たり夜店の灯
コロナ禍に模型で作る夜店かな
射的のオレはガンマン夜店かな
祇園社の夜店に潜むろくろ首
父の顔いつもと違う夜店かな
夜店の灯届かぬ先の闇深し
下駄の音姉妹そろって夜店かな
夜店から古書店への道のびてをり
光出て去りたる暗さ夜店かな
面売の目あり夜店の裏とほる
思ひ出の中揺れ止まぬ夜店の灯
旅稼業夜店の台も古びたり
夜店から閻魔のやうな親父笑む
夜店にて光に心見すかされ
肩越しに会釈を交わす箱釣や
夜店から声の飛び出す一家族
夜店果て参道に風立ち始む
夜店果て磯の波音際立てり
手を引かれ夜店帰りのアンパンマン
綿菓子の甘き記憶や夜店の灯
何十年覗く夜店の万華鏡
フーテンの寅さんのゐる夜店かな
ほどほどの明るさのよき夜店の灯
週末の夜店に紛れ宇宙人
ゆかた着て花火大会リンゴ飴
雨降れば早仕舞する夜店かな
にぎやかな夜店の裏の影絵かな
横丁の塀に吊り下げ夜店の灯
箱釣より別れ別れに金魚去る
外出の許可得し母と行く夜店
夜店立つ電球もひよこも黄色
夜店の灯香具師の口上引き込まれ
べらんめえ法被姿に夜店沸く
夜店裏家出の密談林檎飴
賞品を高価に見せる夜店の灯
ピィピィと鳴いてたひよ子子守歌
なにもかもばった物めく夜店の灯
練り歩くガキ大将待つ夜店かな
卵黄を花のごとくに夜店の灯
雨あとのひときは滲む夜店の灯
缶ビールすすりタコ焼き待つ夜店
ネクタイを緩め夜店をひやかしぬ
銭入れを持たず愉しき夜店かな
鉄板を律儀に分くる夜店かな
夜店の灯映る川面を屋形船
いか焼きの臭い漂う村祭り
飴売の夜店にラジオ英会話
占好きの旅人ならば夜店の灯
夜店の灯あたしほんとに陰性よ
しみじみと憂ひにじませ夜店の灯
夜店の灯いまは満ち潮メロンソーダ
旅に出てついつい夜店をひやかす
音たててソース焼きたる夜店かな
孫たちのねだる夜店のリンゴ飴
父はまだ夜店でリンゴ飴を売る
風乾く沙州の街の夜店かな
食べ歩き誰も気にせぬ夜店かな
夜店にてすくいし金魚飼えもせず
賑やかに夜店の裏の発電機
夜店見る流れに乗らず漂へり
アセチレンガスの臭いが呼ぶ夜店
あかあかと白熱電球夜店かな
孫たちとタコ焼きつつく夜店裏
父不機嫌母上機嫌夜店かな
考の声夜店覗けばよみがえる
面の目の奥の暗がり夜店の灯
夜店の灯揺れて仮面の穴に風
夜店果て親子呼び合う声しばし
灯火の夜店に迷子座り込み
暗いのにまだまだ見たい夜店かな
いつまでも不良気分の夜店かな
池に灯の映る夜店の匂いかな
波音の指呼に聞こえる夜店かな
綿あめといふ雲を売る夜店かな
街娼が冷やかしてゆく夜店かな
下の名を初めて呼びし夜店かな
売声で雨音を消す夜店かな
夜店には親子三代の座椅子有り
夜店の灯消えて産土神の往ぬ
めずらしき夜店に女誘いこむ
お囃子を聞きつつ探す夜店かな
下駄の音雨音のごと夜店かな
星流れ指輪となって夜店端
ヨーヨーも香具師も夜店の軒灯り
講釈に夜店のおやじ熱こもり
LED夜店の街は白熱球
だくだくのソース焼きそば夜店前
下の名で初めて呼んだ夜店かな
夜店の灯いはれ解らぬ子守唄
ブランコのアベツク隠る夜店かな
本を売る夜店鮎川信夫詩集
にぎはひのなどか寥しき夜店なる
孫だしに爺が行きたい夜店かな
境内に夜店なく静けさひとつ
選るうちに飽きてしまいぬ夜店かな
商店街今日は夜店に人流れ
急に女子に興味遠き日の夜店
卒論は「夜店の非科学的時空」
化け物の名の菓子並ぶ夜店かな
風鈴に心が踊る夜店かな
散策し夜店で釣れる熱帯魚
いさり火のごとき夜店の活気づく
うっ懐の夜店ちらほら風強し
子の眠る夜店の裏の薄明り
日暮るるを待てずにともす夜店の灯
夜店にて紅き指輪を買ひ求む
手を繋ぐ夜店や懐に五圓
きらびやかな本舗本店夜店かな
夜店果て駅へと続く人の波
あのときに戻る夜店のアセチレン
サンマルコ広場に仮面売る夜店
綿菓子の棒の光つてゐる夜店
夜店より焦げし醤油の香漂ふ
領収書もらふ事なき夜店かな
白銅貨握るあと少しで夜店
太鼓打つ女勇まし夜店街
夜店市むかしの心継ぎにけり
まだソース焦ぐる香残る夜店あと
暗き灯や夜店の赤きりんご飴
夜店混む金魚一尾の軽さかな
参道の口開けの客待つ夜店
くづれさうな髪遠ざかり夜店の黄
電球の裸したしき夜店かな
参道に張り付く如き夜店の灯
ないやうである流行の夜店かな
初めての街に呼ばるる夜店の灯
煙草飲む人だけ集ふ夜店かな
にぎやかな夜店の裏の影法師
強面の夜店の香具師のしゃがれ声
箱釣や金魚のやうな帯結び
飴色の裸電球こそ夜店
発電機唸る夜店や植木市
夜店立つ少年目当てチョコバナナ
たましひの色は夜店の灯し色
眠らない鴉が夜店を舐めてをり
焼きそばの匂ひ気になる夜店かな
夜店避け暗がり通る人とゐて
耳やわき子猫を拾う夜店かな
コロナ禍に珠玉のように夜店かな
紫のフレーム夜店が輝けり
金魚掬い水槽の中大あわて
君の手を引いて夜店の遠くなり
裸電球連ね夜店の鳥居まで
綿菓子の甘い香りとお小遣い
どの町の夜店も人のまばらなり
夜店の灯やや漏れて田の水ほのか
蛾のごとく人の群がる夜店の灯
夜店来て似た者父と息子かな
夜店ごと下げし明かりの影いろいろ
鼈(すつぽん)の子の紛れ込む夜店かな
囲われの中に黄金虫の夜店かな
夜道来て夜店眩しき大通り
夜店裏で唸り続ける発電機
母さんの袂にすがって夜店市
家宝にと夜店で探す骨董品
トルファンの夜店で乾果ひと包み
夜店の灯きっと寅さんがいるはず
口づけの一歩手前の夜店かな
なつかしと夜店の波に呑まれけり
運悪し金魚恨めし夜店かな
みな安く旨そに見ゆる夜店かな
にぎやかに仕掛け並びの夜店かな
月明り夜店にしゃがみ片手にポイ
夜店の灯つづく川風果つるまで
いつまでもきみの背探す夜店かな
夜店へと下駄を鳴らして子らの群
夜店の灯いくつでもある帰り道
をとこ走る夜店の露地の喧嘩かな
やゝに乳夜店の裏のダンボール
いづこにも監視カメラの夜店かな
本当は夜店の指輪など要らぬ
同じ顔またもや行き合う夜店かな
発電機唸る夜店や植木買ふ
其の一角過去かもしれぬ夜店かな