兼題「虫籠」__金曜俳句への投句一覧
（８月２８日号掲載＝７月３１日締切）
2020年8月5日6:31PM｜カテゴリー：櫂未知子の金曜俳句｜admin
虫籠は、秋の季語「虫」の傍題です。手軽なプラスチック製品から高級な竹製までさまざまですね。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』２０２０年８月２８日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
『週刊金曜日』の購入方法はこちらです。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。
予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
【虫籠】
虫籠の声絶へてより忘れらる
虫籠に未生の闇の紛れたる
虫籠に妻とふたりで入りけり
虫篭に入るべきものを限定す
虫籠や時計の針の後戻り
虫籠やぼくが幼虫だつた頃
虫籠を後部座席に旅前夜
虫籠に入りて三十八年目
わんぱくは来ぬか虫籠解き放つ
行儀よく靴と虫籠ならびをり
虫籠吊る闇を盗みてきたるかに
虫籠の揺るる物干竿の闇
主ゐぬ虫籠やたら古色めく
五線譜に見えし虫籠より和音
虫籠の包みを解いて枕元
虫籠の口のあたりの頼りなき
虫籠もて山の斜面を滑り降り
虫籠を覗き込みたる象の鼻
虫籠の影に声なき声残る
虫籠を抱いて十二階へ昇る
あの人の指を飼いたい虫籠かな
虫籠にそれぞれ思いの鎮魂歌
虫籠や格子弄る脚の音
虫籠に名前の知らぬ虫一つ
虫籠の中から虫が覗きけり
虫籠はからっぽ星うめるジョバンニ
虫籠に命あるかぎりの重さ
虫籠を置きて掛軸択びをり
虫籠の虫の行き交ふ裏通り
虫籠に思ひの丈を封じ込め
翅を立て全肢踏ん張る虫籠の虫
虫籠の忘れた場所にあった頃
警報の解けて虫籠サワサワと
見えぬ子にそつと手渡すむしごかな
虫籠を軒にぶら下げ日は落ちる
虫籠に亡きひと偲ぶ夜の闇
虫籠や骨の軽さを風に知る
虫籠の内と外とが鳴き交わし
虫籠に注文つける映画好き
虫籠の君命受けて菜つ葉切る
竿頭の虫籠に雲揺曳す
虫籠のどんどん軽くなりにけり
飽かず見るまだ虫のゐぬ虫籠を
虫籠に裏正面も正面も
虫籠や複眼有利なんて嘘
虫籠はからっぽ吾のポケットも
虫籠入荷校門前の文具店
虫籠の最後は後ろ脚ばかり
両の手に納まる虫籠長く抱き
虫籠や大糸線の手動ドア
虫籠と狭庭のしばし鳴き交す
虫籠をへくそかずらの脇に置く
虫籠や遠山の影投げこまれ
虫籠を仲間の鳴きに近づけし
虫籠の虫解放し日が暮れる
虫籠は草原に置き帰るべし
虫籠の闇が闇呼ぶ闇夜かな
起き出してまづ虫籠を目の高さ
虫籠に霧吹きかけてひごの艶
虫籠は百歩譲って竹製に
空虫籠曽根崎遊女と道行に
虫籠に閉じ込めてなお自由なり
虫籠に懲りずに妻を閉ぢ込める
虫籠や世話は弟任されて
虫籠や寄り道したる貸本屋
虫籠にずっと押し込めし過去のこと
虫籠は空獲ることだけが楽し
虫籠に動かぬものを置くばかり
虫籠の片割れの翅失いて
虫籠や蝉の抜け殻連れ帰る
虫籠は窮屈だよね駿馬には
虫籠の中は物陰しずまりぬ
虫籠に羽根納まらずヤンマかな
天網てふ大き虫籠地球（ほし）の浮く
そしてそしてただそこにある虫かご
虫籠の中で鳴き出しキリギリス
水飲みに起きて虫籠の厨かな
虫籠に幼の吾の今もゐて
虫篭や口内炎の猛威かな
百均の虫籠いのち軽きかな
虫籠を片手に野原踏み歩き
門扉より虫籠までの旅となり
すだれ吊る虫籠の内に人
虫籠の竹ひご鳴らす風のあり
虫籠を提げし障子の影法師
虫籠の底に一片の泪跡
虫籠をさげる三女の目の高さ
プラスチックの虫籠劣化す土間の隅
虫籠に逝くマンション超高層
虫籠や沈黙している君と我
虫籠にいのちのいくつうづくまる
虫籠の中みな土に返しけり
虫籠や星座の奥にまた星座
虫籠の鳴かしてゐたる情緒かな
虫籠の降り残されて虫のこゑ
虫籠は毀たれぬまま時を経て
虫籠の耳を澄ますと庭の虫
虫籠の朝の軽さを置く木皿
虫籠を火種のように運びけり
虫籠の屍喰らう二匹かな
虫籠を置けばモンゴル大平原
虫篭やワインサービスあるグリル
下げゐしを忘れ虫籠白き底
虫籠に罪のかたちの収まれり
虫籠や張り切り過ぎる祖父がゐて
虫籠に戦の傷を畳む吾子
虫籠に半分残る野菜かな
虫籠を振つて安否を確かむる
腕時計虫籠に入れて古釘へ
虫籠の別の戸を開け飛び立たぬ
虫籠にたつぷりすぎる時間かな
虫籠に兄の名うすく残りけり
夕闇は里の空から虫籠へ
作物を荒らすものすべて虫籠に
虫籠や怖気づく子と笑う母
虫籠のひごに張り付く淋しき虫
虫篭が用排水路に落ちて居た
虫籠やたっぷりと夢あるごとし
虫籠のひかりの透くをもふ真昼
虫籠の巣ごもり深く秋の風
虫籠の虫と寝息のまじり合ふ
虫籠に今宵かぎりの命かな
虫籠や川辺の四五戸灯り初む
虫籠に風のをはりのありにけり
虫籠の揺るる軒端や今朝の雨
虫籠の虫の眼闇にひかりたる
火を覗くやうに虫籠覗きたり
虫籠が終の住まいになりにけり
草原の匂を残す虫籠かな
虫籠をひとつ残して去りぬ人
虫籠を枕辺に子の眠りをり
虫籠を風すりぬける速さかな
虫の居ぬ虫籠にただ風の抜け
虫籠を沢山掲げ露天売
虫籠を闇がしづかに包囲せし
虫籠に溜まる雨音日曜日
虫籠を旅路に買うてしまひけり
小径ゆく虫籠ととも児にかへる
虫籠やこまやかに組む竹細工
虫籠の声切なかり放ちけり
虫籠を打ち置くおのが影の上
キリギリスやっと捕えて虫籠へ
兎小屋いや虫籠と申すべし
虫籠を吊るす軒端の星一つ
虫籠に年越せるほど餌を入れる
虫籠を両手に抱えやつて来る
虫籠や鳴き止まぬやう歩きけり
虫籠に虫のをらざる夜の静寂
不良少年虫籠の蜉蝣愛しけり
虫籠の幽き声を購へり
虫籠に耳を澄ませる蒼き夜半
消燈を虫籠待つてゐるらしき
虫籠を置きて残業報告書
あの声を合図に虫籠の虫鳴く
令和二年空の虫籠吊るされず