兼題「衣被」__金曜俳句への投句一覧
(10月30日号掲載=9月30日締切)
2020年10月10日4:47PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
小ぶりの里芋を皮のまま茹でたものが衣被です。衣を脱ぐようにつるりと皮がむけます。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2020年10月30日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【衣被】
剥くまでは獣のような衣被
逆転をもたらす一手衣被
衣被あかるき夜空したがへて
衣被に染付の皿選びけり
風呂上り塩一つまみ衣被
衣被義母とはうまくやつてます
衣被味噌つ歯の児の風呂上り
衣被つるりと剥けてエロティック
なめらかな串の通りや衣被
垢抜けぬままの装ひ衣被
摘みたる碧き付け爪衣被
きぬかつぎ晩酌の父上機嫌
テレビから昭和の歌が衣被
婆様の若き写真衣被
衣被娘夫婦は残業か
むづかしき話はやめて衣被
衣被パーティーやるに五人呼ぶ
つるつるの顔出してをり衣被
抓む指反り返っては衣被
稲荷社の裏は炊事場衣被
衣被正直な程糸を引き
きぬかつぎ三面記事の上に落つ
衣被ふ皿の塩のうす湿り
喉ちんこ指を飛出す衣被
口紅の色に染まりし衣被
衣被大河の宿の芋の闇
まつすぐに立つことできぬ衣被
衣被食むやふくらむ胸の息
衣被嫁いで母のひとり増え
衣被沸き立つ鍋の湯にて茹で
かぐや姫やがて夜空へ衣被
子ら先に寝し夜明るき衣被
衣被ご飯多めに食べて居る
凭るれば我が家の柱衣被
衣被指で摘んでつるりんと
揺り椅子の父ゐるだけや衣被
衣被天下国家を論じつつ
きぬかつぎグラスにワイン揺れてをり
つると脱ぎ子は食卓へ衣被
鬼子母神祀るお寺の衣被
古伊万里の皿に舞ひたる衣被
不器用な指から滑る衣被
定宿の一品おまけ衣被
その手間がいとおしいのと衣被
棟梁の祝い歌あり衣被
今日だけは小ごと言うまじ衣被
こじはんの縁側に盛る衣被
衣被曇天ながら更けにけり
火曜日は爪のよく伸びきぬかつぎ
色白のうなじの女将衣被
墓場まで持ち行く話衣被
衣被ありふれたけふ生きてをり
中年の振る塩くはし衣被
行儀よくならんでをるや衣被
衣被畑(はた)の言伝てありにけり
これ何と小さき手のひら衣被
幸せと妻言ひ出すや衣被
衣被なべて周りは読まぬ本
衣被ピンクソルトは不揃ひに
昨年と産地違えど衣被
悪くなし第二志望も衣被
衣被紅ことごとく盗みけり
合理説く男の厨衣被
迷い無く山盛りにした衣被
親方のお茶に塩添ふ衣被
我がちに手を伸ばしけり衣被
衣被坊主頭のちじれ髪
衣被畳職人の父帰宅
退屈を厭はぬ世代衣被
緑釉の色深ければ衣被
電車道横切る夜や衣被
衣被いつも塩分多めの母
前歯なき祖父の巧や衣被
両の目でスマホを見つめ衣被
大皿の湯気のふくらみ衣被
衣被食べ始めたら尽きるまで
赤子泣く平氏の村や衣被
衣被いまも消さざる志
瑕のなき生きかたはなし衣被
横浜の衣被かな新首相
在りし日を讃へつるりと衣被
衣被歯にモノ着せぬ政治哉
独酌や何処か似てゐる衣被
衣被妻とゆっくり老いてゆく
衣被霜かと紛う月明かり
衣被担がれてみる小さき嘘
塩まぶし酒の肴に衣被
衣被また衣被薦の山
鍋底にたまりし汁の衣被
ヒマラヤの岩塩なめて衣被
語尾上がる君の訛やきぬかつぎ
かあさまにわかき頃あり衣被
土の香を盆に運ぶや衣被
老父母の言葉少なや衣被
ヒマラヤの岩塩粗し衣被
衣被の蒸上がるころ女客
衣被昭和の母の子だくさん
ふと死んでみたくなる夜の衣被
衣被土色をした皮あはれ
香りなく盛り付けられし衣被
きぬかつぎ出来立てにもう穴ひとつ
妹はくちびる美人きぬかつぎ
きぬかつぎやさしくむいてくださいな
八方を丸く収めて衣被
衣被砧打つ音聞こえしか
窓の外やけに明るき衣被
衣被台所の灯に見惚れたり
衣被母が昼餉に食べろとふ
衣被酒三杯の塩加減
衣被月の高さに塩をふる
衣被きよき光をまとひけり
生き方の下手な指もて衣被
衣被路面電車は急カーブ
言い出せぬ別れの言葉衣被
衣被真白き肌を隠しをり
面倒で何やら楽し衣被
衣被転がる間老いいと易し
口べたな友の笑顔や衣被
つるりとは剥けぬのもあり衣被
談笑の隅に並びし衣被
衣被ひとつ食べては指舐めて
洋皿に盛る不揃ひの衣被
上京は片道切符衣被
きつちりと指先でむくきぬかつぎ
つるり剥けころりころころ衣被
湯浴みせる白き素肌や衣被
侮れぬ立呑み屋なり衣被
衣被お茶を忘れた母が居る
今上の幸吟じしひと衣被
お供を盗んでうまし衣被
衣被幼馴染を妻として
本題を切り出しかねて衣被
皮むけば真白の肌や衣被
長き箸ゆつくりはさむ衣被
瘡蓋をはいだその手で衣被
衣被箸休めてふよき言葉
悉く人はマザコン衣被
人はなぜ泣くのだらうか衣被
まなうらにトンネルおもふ衣被
衣被や醤油垂らして初夜迎へ
山の手の楚々たる人や衣被
ついたての並ぶ居酒屋衣被
家飲みに個数は要らぬ衣被
衣被家族で時代劇見つつ
ふるさとは遠きにありて衣被
衣被夕餉ととのふまで食みぬ
月明り転がり落ちた衣被
衣被含まば苦き悔もあり
ありがたうは訛るものなり衣被
衣被トップモデルは脱ぎ上手
公園の子等ぴょんぴょんと衣被
衣被好みしひとを偲ぶ宵
大量の薬と衣被摘む
不器用な指ねうふふと衣被
皮食べぬ人のこだはり衣被
銭湯の噂話や衣被
頬張って一歩おとなへ衣被
衣被一人食する夕餉なる
衣被挟んで暫し口喧嘩
衣被つるりと美味き子芋かな
独酌の口寂しくて衣被
衣被庫裡には坊主揃いゐる
大吟醸出てくる前の衣被
衣被牛車の音の遠ざかる
束縛を解いて一人衣被
衣被飢餓の時代に思い馳せ
衣被器用に皮むく母米寿
小さきほど手前に置かれ衣被
籤運の悪くなりたり衣被
早逝のシャイな弟衣被