兼題「麦の秋」__金曜俳句への投句一覧
(3月26日号掲載=2月28日締切)
2021年3月20日2:33PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「秋」は実りのときの意味で、「麦秋」とは麦が黄金色に熟する初夏のころをいいます。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2021年3月26日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
『週刊金曜日』の購入方法はこちらです。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。
予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
※掲載が遅れたことをお詫びします。
【麦の秋】
帰去来の辞より遥かに麦の秋
逆上がりやうやく出来て麦の秋
脱穀機農家より借り麦の秋
吾の名にも太陽ありて麦の秋
東京の雨に土の香麦の秋
うどん打ち讃岐路に寄る麦の秋
麦の秋三代続く開墾地
統合の校舎の四方麦の秋
豚の呼ぶ野太き声や麦の秋
大聖堂まで延々と麦の秋
夕暮れに子供さらいし秋の麦
麦秋やバイク疾走して落暉
床下の味醂を卸し麦の秋
昼告げる無線放送麦の秋
野球帽背比べして秋の麦
麦の秋もや立つ朝の琥珀いろ
電化せぬ鉄路いかめし麦の秋
麦秋や打ち捨てられし週刊誌
少年のいつのまにやら麦の秋
自転車の家庭訪問麦の秋
アポロンの寝息聞きけり麦の秋
低学年の定番コース麦の秋
千ミリの目線に猛し麦の秋
麦秋や改装終わる水車小屋
麦秋や陽昇りしなかゴッホ死す
玻璃越しの木陰の木椅子麦の秋
麦の秋唱歌次々歌ひ継ぐ
麦の秋伊勢神宮の高き杉
疾風に黄金の埃たつ麦秋
麦の秋風優しかりけふきのふ
ツーリング海に向ひて麦の秋
ゴッホの絵思い出しおり麦の秋
麦秋のスープに溶ける夕日かな
どの道を選択すれど麦の秋
麦の秋画布は吹かれて草の上に
麦の秋末はビールか食パンか
思い出の多くは昭和麦の秋
麦秋の表情の濃き靴磨く
麦の秋ドローンの持つ五感かな
限りなく広がる地図な麦の秋
おぼつかな歩みの幼な児麦の秋
麦の秋夕陽に一言話しかけ
麦の秋夕陽の沈む散居村
眩しきは嫁の襟足麦の秋
「まあだだよ」ひとり残され秋の麦
麦秋の一日を映すガラス窓
麦秋の村高台に美術館
風の穂を集めてゆらし麦の秋
麦の秋次のバスまで一時間
麦秋の中に尽きたる鉄路かな
麦の秋バットの芯に当たる音
麦秋や村二分せる選挙戦
麦秋の波間を馳けるあおば号
石積みは三代前や麦の秋
麦秋の丘の上なる天主堂
麦秋やマリア観音祀る村
麦の秋たとえば海の暮れる頃
通学路一直線に麦の秋
麦秋の着物模様に母の香よ
いつまでも野良に人影麦の秋
アメリカンコーヒー水戸は麦の秋
麦の秋少年ゆゑの好奇心
麦秋のほかは見えざる車窓かな
麦秋の中をつつこむ夜汽車かな
バイパスは直線続く麦の秋
麦秋や花は穂先によく並び
五重塔一重のみ見ゆ麦の秋
麦秋や秘密手にする真黒な穂
嫁姑背中あわせの麦の秋
丘陵の松と赤屋根麦の秋
田中てふ表札二軒麦の秋
耳鳴りはヴィオロンのG麦の秋
反抗期真つ只中や麦の秋
県境を越えて陽の射す麦の秋
風さやさやといちめんの麦の秋
麦秋やかつて蒙古に村焼かれ
今頃は理科の授業か秋の麦
庭よぎる盲目の父麦の秋
麦秋や今年の丘の色づかひ
麦の秋隠しごとなき明白さ
だれもみなひとりになるや麦の秋
郷愁てふ色ありうべし麦の秋
麦秋や市松模様縫ってバス
麦秋の馬の耳立つ驟雨かな
ペンギンのまなざし細し麦の秋
おろしたてのジャージに埃麦の秋
麦秋や白紙の進路調査票
無数の矢夕陽射貫きつ麦の秋
地図帳の埃の揺るる麦の秋
詰襟の釦外して麦の秋
麦秋や六人乗りのお散歩車
離れから魚の煙麦の秋
琵琶湖線北へ北へと麦の秋
通り雨ぬれそぼり行く麦の秋
欧羅巴大陸どこも麦の秋
麦の秋真つ青な空抱きしめる
朝ランの耳もとの声麦の秋
年下のませた友ゐし麦の秋
麦秋や自転車止めて水補給
麦の秋うどん屋の旗翻る
バスは行く市松模様麦の秋
幼児帽見えて隠れて麦の秋
鍵のせて待つカップ麺麦の秋
モンローのスカートふはり麦の秋
一揆起つ地に拡がるや麦の秋
麦秋の遠き電車の音色かな
前方後円墳まで麦の秋
白雲の映ゆる青空麦の秋
旅立ちの訣れ路にも麦の秋
集合写真はジャングルジムと麦の秋
麦の秋風吹き撫でて波打ちぬ
東京へひとりバス待つ麦の秋
麦秋やゴッホの畑の風の息
麦の秋草食む牛と白い雲
麦の秋父のうなじを嗅ぎし日よ
届く荷の香りに暮るる麦の秋
海よりも低き広野の麦の秋
心地よく実り薫りぬ麦の秋
旧街道踏破休みて麦の秋
麦秋のバケツに満たす海の水
麦秋や小津の映画にゴッホの絵
麦の秋ひょっこり顔の山親爺
あやふさのしづまりゐたる麦の秋
ハミングの途切れし刹那麦の秋
被写体は畑に絞り麦の秋
麦の秋緑の瓶にひと茎を
麦秋や一直線に列車ゆく
国境を越えても続く麦の秋
ワクチンの番もどかしき麦の秋
トランクを引きずる音や麦の秋
港より船に継ぐ道麦の秋
水を得し土漠に還る麦の秋
標あらば里程かぞふる麦の秋
この町の空の広さよ麦の秋
わが影を追ふだけの道麦の秋
あたらしき家あたらしき麦の秋
麦秋や国道沿いのうどん県
ジーンズの裾ひとつ折り麦の秋
麦秋や風に吹かるる散歩道
麦秋の一本道を旅立てリ
麦の秋どこまで黄金の波続く
麦秋や木造校舎に続く道
一本道続く山裾麦の秋
麦の秋伊勢神宮の巨大杉
安曇野の記憶は風に麦の秋
麦秋の夜のまなこへ灯がつづく
二の腕に日焼けかすかに麦の秋
麦秋や放り出したたるランドセル
その先に大樹立ちたる麦の秋
麦の秋十勝平野にサイロ見ゆ
麦の秋母と連れだち彼の世へと
麦秋や窓全開の身延線
麦秋や借金もなく財も無く
UFOの目撃多し麦の秋
マイスター弟子を鍛える麦の秋
麦の秋空から湧きし雲の泡
黄金に目覚む車窓や麦の秋
遍路道季節が移り麦の秋
麦秋の麦に吹かれて二里ばかり
女子多き図書室の窓麦の秋
麦の秋バスからバスに乗り換える
麦の秋空切り裂きてからす飛ぶ
終戦後家族総出の麦の秋
黒潮のひかる漁村や麦の秋
麦の秋父のバイクに跳ね乗って
麦の秋武道場まであと二キロ
櫓より海を見てゐる麦の秋
麦の秋一本道に愚かなる
風に鳴る茎は楽器や麦の秋
大皿のミモザサラダや麦の秋
麦の秋はて挨拶せし人や誰
麦の秋独身の叔母原節子
フィンセントの隠れてゐさう麦の秋
心決め片道切符や麦の秋
来ては行く電車に乗らず麦の秋
キリストゐない十字架麦の秋
還暦が視野にまだまだ麦の秋
食堂の一つまた消ゆ麦の秋
蒼天の水平飛行麦の秋
乳を飲み糞をする嬰麦の秋
麦秋や風に従う穂の並び
麦秋や下校の子らの黄のリュック
麦の秋しづかにすすむ家族葬
麦秋や穂先の淡き痛みとも
いちめんの黄金の布や麦の秋
麦の秋兜太のように胸張って
麦の秋風は穂先の右左