きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「掛香」__金曜俳句への投句一覧
(5月28日号掲載=4月30日締切)

「掛香」は、調合した香を絹の小袋に入れたものです。女性が懐中したり、ひもをつけて首にかけたり、室内にかけたりします。さて、どんな句が寄せられたでしょうか。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2021年5月28日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【掛香】
掛香に眠れば若き母の声
仄かなる掛香に武具飾る家
掛香の古びて吾は引き篭もり
懐かしさ先にたちよる掛香よ
掛香の束ね合う距離触れあえず
掛香やそろそろなんとかなるはず
掛香を相棒にして一人旅
掛香の二重の叶結びかな
掛香の部屋を訪ふ顔のよそよそし
掛香や平安の風雅びなり
微かなる掛香ながる君が室
掛香や本音は言わず微少めり
掛香や和室の書庫のほの湿り
掛香や爽やかなりし風ふくみ
掛香の香は代々の口伝にて
掛香や代々庄屋継ぎし家
結界てふ匂ひ袋の鮮やかさ
掛香や地涌の菩薩の笑み深し
掛香や記憶の祖母の浅縹
掛香と墨の香の夜や坊の宿
掛香が結ぶ縁組笑いあり
助手席に掛香匂い踏むペダル
掛香の香や太陽の揺るぎなし
掛け香や匂いの思い出あまた湧く
ともしびの消えて掛香匂いけり
大声は掛香を少し振るはせる
掛香やフランスの旅ひとり旅
子にもらふ匂袋のいちごの香
揺れもせで掛香を吊る華奢な紐
仏壇の掛香替へて春彼岸
掛香や女は女の事情通
掛香や色ある風の生まれけり
掛香や旅客は三度振り返る
掛香や号外を手に友来たる
ふるやどの戸口開ければ濃掛香
マドモアゼル買ひし掛香パリの空
縁側に掛香漂ふ眠りにつく
主待つ掛香の楽屋口かな
古代裂の掛香つくる夜の雨
掛香の壁に一茶の贋作や
掛香やあつちから来る妻である
掛香をつるす手甲の照らさるる
掛香の彼女に足立区の訛り
犬と猫盛んに嗅ぎ居る掛香だ
掛香の風の奥から迫り来し
掛香の部屋に通され落ち着かず
掛け香や精神年齢高い女子
掛香に背中を押され少し前へ
白檀を刻む掛香調合師
掛け香や匂いが醸すセレブ感
掛香を忍ばせユーロビートかな
掛香や殯を運ぶ終列車
掛香で思ひだす人名も知れず
旅じたく掛香ひとつ忍ばせて
掛香や襖絵の滝つうと落つ
掛香の匂ひや母の居るような
白寿を祝ふ卒寿の匂袋
掛香のうしろの山に昼来る
奈良遠く去年の掛香ほのかなり
掛香や人の不在の久しくて
年上をからかってゐる香水よ
掛香に居住ひ正す座敷かな
掛け香やお茶を長々飲む間
袖たたむ度に掛香ほのとたち
川風に樹々鳴る匂袋かな
掛香に彼女の残り香微かな夜
一人居の掛香の間の影を掃く
掛香や楽屋楽屋に化粧台
喜寿迎ふ古りし書斎の掛香よ
掛香よ帰宅前には消えてくれ
掛香や夜来の雨の染み入りて
掛香や姉の秘密の小引き出し
掛香やいにしへ人の夢見たり
掛香や片付け整理は同じ意味
掛香は風の生れてくるところ
掛香か小紋の袖に小皺あり
掛香や本棚に隠れたるまま
固結び竹刀袋の掛香や
奥ゆかし掛香懐かし巴里の宿
闇深き掛香吊す釘の穴
掛香に正客のふと顔を上げ
掛香に女(ひと)の気配を感じおり
掛香や所在無き日の姫鏡
天井に掛香吊るし日曜日
掛香や京間を過る足袋の音
掛香の近づいてくる気配かな
掛香の定位置ありて古柱
掛け香やいつもきれいな友の母
掛香や雅歌のごとくに波の音
掛香や夫婦仲てふ良き空気
誰袖の総角結ひのうむ微風
掛香やふたりごころのひとり道
掛香の祭服に金銀糸かな
掛香のいやらしくなるまで待つ
掛香買ふ女子学生の声高し
月曜の朝のロッカーの掛香
友禅の掛香匂ふ城下町
掛香のこの香苦しき疫病みに
抽斗に掛香の声しづまれり
掛香や天意を受けて打つ一手
夢の悪魔祓ふ意味込め掛香だ
掛香やをみなの部屋は北を向き
掛香やけふ上客とさるる席
掛香に乱れし夜を諌められ
帰り来てなほ掛香に京の旅
掛香や草書の文字の歌ひとつ
女生徒ら掛香選ぶ二寧坂
掛香やそうだったのか赤い糸
掛香や狭き和室の刻止まる
ハーブ摘み掛香にせむ家籠り
掛香や後はお若いお二人で
掛香も御守もまた祖母からの
掛香や稲荷社だけが混んでゐる
掛香や記憶の中の祖母の部屋
掛香や生家の闇の深きこと
掛香や古びし長押釘隠
掛香や喪服を吊るす真夜の部屋
躙口より掛香のするどき香
双子ゆゑ匂ひ袋の香のたがふ
掛香ほのか女の踵なま白き
掛香や夢占告げし巫女幽か
掛香の親しき闇となりにけり
掛香や形見の品の多き部屋
掛香の零しを掬う盆の窪
掛香や明日になればまた明日
天井扇ゆるり掛香入り乱る
掛香の風遊ばせる躙口
改札に掛香揺れし無人駅
掛香や欄間の松も艶めきて
掛香に水かけ効能信じたり
掛香や微動だにせぬ理想論
折型の対の掛香ある新居
掛香やうすむらさきの雲流る
掛香や茅の苫屋に灯のともる
掛香を母の一周忌に吊るす
掛香を吊りて自粛を和らげり
掛香や庭石濡らし小雨過ぐ
掛香や桐の嫁入り箪笥古り
塗り黒き飾り台掛香映す
掛香の匂ひほのかに眠りけり
歌舞伎座の初日掛香集ひたる
掛香のまじりて母の巻き煙草
掛香のする夜に出したる花瓶かな
香水の闇にもひはふ峡の宿
掛香の風に遅れし香なるべし
掛香や母は涙を見せぬ人
掛香のさながら豪華ネックレス
掛香や木屋町通り水の音
誰袖や私服の巫女ら退勤す
掛香ややさしき知恵に学びたし
掛香や風みて午後を白くをり
香水や頬を撫で行く風に知る
掛香を吊り落書は消さぬまま
掛香の窓を銀糸の雨はつか
病身に掛香匂ふ邪気払ふ
しづかなる水とも匂ひ袋とも
掛香は曾祖母の香と信じをり
掛香や猫と目が合ふ昼下がり
掛香や靴脱石の黒光
掛香にジャーマンアイリス切り花す
掛香のしづかに空気たまりけり
太っちょの居る4畳半掛香や
古書からはらり恋文掛香や
掛香やかたんと閉づる桐箪笥
掛香のさざなみのごと匂ひけり
手の中に掛香とじてふと開け
掛香のページ繰るたび匂い立つ
掛香や風なき夜の奥座敷
掛香やあはき匂ひのひしめけり
掛香やモネの日傘の水彩画
掛香やぬばたまの闇薄れゆく
掛香を吊る心音は死に似たり
訶梨勒(かりろく) の掛香居間の風に揺る
掛香やひそと鏡の軋む夜