きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「梨」__金曜俳句への投句一覧
(9月24日号掲載=8月31日締切)

梨はバラ科だと知っていましたか。豊水や幸水が青果店にならぶ季節ですね。

さて、どんな句が寄せられたでしょう。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2021年9月24日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部(伊田)までご連絡ください。

【梨】
多摩川を渡る電車や梨畑
大気圏めく二十世紀の皮剥けり
手に取りて二十世紀の青きこと
梨剥きし婦人の指のほっそりと
梨食ふて子のイヤホンをもるる音
片恋をそのままにして梨をむく
梨喰うや歩み寂しき父の背よ
山梨の梨待つ人は駿河人
老母より大きく硬き梨届く
猿のやつ大粒の梨選び盗る
出荷待つ梨また梨の段ボール
両手持ち梨かじる子の歯の白し
仏前に結論がでず茶ける梨
はま梨の海風浴びてみづみづし
甘すぎる梨の名前に水がつく
梨を剥く瑞々しさは青い星
梨かめばしずくさやけしあぎとまで
梨包む地方紙伸べば微香染む
流るるは麗しき影梨かじる
鳥取に梨の木仏購へり
老いたれど歯と胃が丈夫梨を好く
俎板に生首ほどの梨を切る
梨を食む自分の歯なり母九十
梨をむく手元を見ずに笑う母
梨畑を出て腰伸ばす夕まぐれ
初物や無くてはならぬ二十世紀
梨食べて湿りし皿の狭きかな
二片ずつひとりのための梨ひとつ
市川の奥に梨狩り案内所
畳職人の父に梨むくマダム
梨売の全くその気なかりけり
梨をむく担当の妻がいなくなる
大雨や梨にぶつかる二、三滴
梨剥けば準急過ぎし社宅かな
出荷せぬ傷ある梨や直売所
梨といふ疲労回復ありの実や
直売は昼で仕舞ひの梨街道
梨狩りの腰を屈める友等かな
洋梨の舌に絡まる噛み心地
梨置いて曇る鏡を拭きにけり
梨食めば喉潤して肺に良し
海までの道にありのみ転がりぬ
ラ・フランス四等分にナイフ入れ
二分刈りに斜め鉢巻梨売り屋
ふるさとの水の詰まつた梨を剥く
草生えぬ梨園怖し敬遠す
洋梨の透けて岬が灯りけり
梨の皿厚みに見惚れテレビ付け
ざくざくと水を蹴るごと梨を剥く
梨を剥くゾーリンゲルを滴りぬ
梨?くやあのフナッシーは今何処
ほどほどのうまさの梨の荷を解きぬ
梨を買ふ小銭を全て使ひきり
水を噛むしゃりしゃりしゃりと梨の水
幸せと名のつく梨に刃を入るる
梨ひとつ剥いて一山売りにけり
可惜夜と呼ぶには足りず梨を剥く
終バスの窓から梨を贈られる
梨をばアーンしてくるる妻が好き
新妻や洋梨買いに出た間
梨好きの児がいて梨の博士なる
梨園の袋押さへてラ・フランス
酒気いでて熟しの極む長十郎
よく噛めぬ父へコトコト梨を煮る
汁まみれ梨かじる子の真顔かな
指先に梨の名残の粘りかな
むせる程二十世紀のうすみどり
木漏れ日に笑顔絶えない梨の園
新聞に丸ごとの梨包まれり
いま豊水つぎ新高と秋を食む
梨捥いで木漏れ日一つ増えにけり
梨むくや甘き雫を啜る幼
皮剥き派四つ切り派をり梨を喰む
梨狩りの幟目指しておもてなし
ずっしりと手の平にあり梨ひとつ
梨ひとつ入れる二円のポリ袋
木を削るやうな音して梨を剥く
雀斑の友が器用に梨を剥く
梨の木のない馬毛島に基地造る
梨を喰ぶさりさりさりと音立てて
草食系男子のふえて二十世紀
口悪き男友達梨食みぬ
梨畑アダムとイヴの日のために
梨の園箏の音幽か手燭ゆく
梨むくや雨冴え冴えと軒つたう
国産うれし地産うれしと梨を食む
梨売の少年ほんとはバナナ売り
梨もげば日輪もげる位置になし
不揃ひと言ふ香りありラフランス
梨切れば沙漠に水の湧く音ぞ
有の実と平安女房今は梨
どう見ても絵にはならない梨で句を
梨をむくていねいな指午後しずか
梨の実の重さ極まる夜明け前
梨棚を背屈め続けもぎ続け
やわらかき畑道をゆく梨たわわ
包丁はたっぷり梨の水を吸う
静けさに梨の果汁の零れたる
赤んぼも梨もだんだん重くなる
梨畑に一羽の烏胸騒ぎ
ありのみの犬の歯形の欠けてゐる
独り居に届く大梨持て余す
透明になりゆくまへの梨の蜜
梨金色うえむらたかし未(ま)だ途上
あを空に少女の跳びて梨洗ふ
研ぎたての包丁軽く梨の汁
鉄瓶のごとき梨かなさくと切る
剥く長さ嬉し大梨届きたる
梨噛まばすなはち賑わひ口の中
梨狩やみそつ歯の子の背伸びせり
皮むいて歯に当ててみて梨となる
ほとばしる驚異の流れ梨の味
梨まさかパンに挟まれ食われたり
梨たわわ言わずと知れた水の国
くし切りの梨に一本爪楊枝
梨剥いてウレタンマスクやめなさい
梨の実の腐るまぎはの美しさ
梨をむく啜る至福や向き合ひて
一行のメモの重石に梨を乗せ
一切れの梨の乾いてゆく雨夜
地球儀に二十世紀を翳す旅
梨ふたつサラリーマンは嫉妬する
木箱より溢れ出さうな梨一つ
子に剥きし梨を子の子にうすく切る
梨は水水水水の水の梨
頭ほどある大梨の故郷より
半分のその半分の梨剥きぬ
旧友のあいさつ代わり梨届く
皮厚く剥く赤梨の滴れり
二十世紀梨いざ出荷解禁
帰り際寡黙な父へ梨を剥く
虫くいの梨を好みし母のこと
梨剥くやかつて火星に水の在り
特価梨朝に売り切れ昼に無し
梨剥けば老いの古傷指に沁む
梨の実や遥かに骨の崩れあり
さび付いた刃に梨の皮音を立て
花束のごとくに籠へラ・フランス
梨畑手放し他所の梨を食う
梨剥かれ足がむずむずして来たり
そばかすに冷えたる梨の歯音かな
長十郎のなまゑも梨も古りにけり
梨食めば汁の出るとこ出ないとこ
梨を剥く妻の手の甲しみ添へて
かの人の机辺にあり病状六尺
手におくとざらり反抗梨の皮
木漏れ日の斑らに梨を象れる
梨噛めばインプラントの歯に滲みる
梨食うて痘痕の姉の笑まふなり
梨の名で初めて習らった20世紀
二十世紀梨はや二十一世紀
名も知らぬ媼のくれし梨ひとつ
梨剥くやヒトは水より成つてをり
幸水は甘くてやさし夫のごと
梨狩の爪先立ちを競ひ合ふ
梨剥きて剥きても皿に留まらず
妻のためただただ梨をむきにけり
空青し一片の梨口にして
「二十世紀」梨甘くなく苦くなく
ノンバイナリーてふほどでなし梨食めり
梨剥いて遠く聞こゆる橋の音
ラ・フランス妻によく似たお尻かな
街道の右も左も梨売らる
剥きかけの梨縁側に祖父の家
文机に豊水どこか誇らしげ
ランタンの下に梨売る華人かな
ただそこにそつと置かれてラ・フランス
帯ゆるく締めて梨剥くうなじかな
梨狩や子を抱っこして中腰で
雨降れば地球と梨の甘からむ
梨洗ふ老女と幼女並びたる
食落ちし我に嬉しき梨を買ふ
梨剥いて夫婦二人の静かな夜
梨むくや鳥の羽照雨後の空
傘信じ安保に縋り梨を咬む
産地直売所梨売話好き
梨貰う先ず四つほど仏壇へ
梨の実は水で固めてあるらしい
まん丸く母が剥く梨急ぎ食べ
漆盆かさねてをりぬ梨の水
梨見れば紙が落ちて居ないかと思ふ
砂丘越え世紀を越えて梨重し
テレビ今日も見るものないね梨をむく
相応に変わる切りやう一つ梨
梨むかれようじ刺されて大皿に
新高をがぶり食みたし頂辺で
梨食べて俳句読むより短歌読み
梨実るその名も親し長十郎
兜虫とわかちて食べるラフランス
この年もなしとはならず梨届く
梨剥きて四親等ほど遡る
梨畑運動場はダムの底
滴れる梨気品ある唇に
梨剥ける父の指から垂る雫
水分の足りぬからだや梨しやりり
歯並びの美しき子やラ・フランス
赤梨や喉へ甘さをしゃくしゃくと
梨実る夜の汀のほの白き
長十郎ガリガリ喰らう一人旅
透きとほる器に梨の八等分