兼題「胡桃(くるみ)」__金曜俳句への投句一覧
(10月29日号掲載=9月30日締切)
2021年10月13日4:49PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
胡桃は、北半球の温帯に約15種あるそうです。日本では、オニグルミをさすことが多いですね。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2021年10月29日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部(伊田)までご連絡ください。
【胡桃】
お土産に胡桃がいいと孫娘
胡桃落つ江戸へ三里の道標
山胡桃実りて遊ぶ子熊・栗鼠(りす)
山奥を持ち帰りたい胡桃の実
苦労して取り出す胡桃やはらかし
思春期や体の芯に胡桃持ち
アパートは大家の命胡桃割る
罪の無い熊撃ち殺し胡桃の木
倖せのお裾分けです胡桃割る
高カロリーの胡桃をかじり老い進化
先頭は胡桃鳴らして下山せり
胡桃割るおどろき鳩の喉が鳴る
軍艦のサロンに集い胡桃の実
ひとかけら食むや胡桃の左心房
ひりひりと掌ゆがみ胡桃割る
朝コーヒー胡桃割る音われ独り
沢胡桃夫の書斎の二畳ほど
山里の倹しき夕餉胡桃和え
胡桃割る子らの手業を早送り
恋多き指の白さや鬼胡桃
裏山の風音しきり胡桃割る
森番の部屋閑散と胡桃割る
ふるさとの胡桃ポッケの奥底に
縄文胡桃林に人の影
鬼胡桃狩猟免許が間に合はぬ
夕空へ今にも落ちる胡桃かな
胡桃三つお手玉をして見せましょう
殻かたき胡桃に透ける母性かな
胡桃割り人形の音楽(うた)森に聴く
芽吹くことあると思へぬ胡桃かな
或る人にとある思ひを胡桃かな
砲台の静寂にひとつ胡桃落つ
胡桃割るときのざわめき風に落つ
胡桃の木繋ぎ止めるは命かな
胡桃割る夜に積もりゆく独り言
レントゲン胡桃のひとつ写りたり
父祖の墓胡桃当りし音辺り
胡桃落つ面会できぬ日々は過ぎ
鬼胡桃池のほとりの大きな木
胡桃割る遺跡発掘まだ途中
鬼胡桃姑はひとり畳部屋
現役の永久歯胡桃を齧る
揺り椅子に聴くヨーヨーマ手に胡桃
幼子の掌のような胡桃かな
手の内に狂気を統べる鬼胡桃
森行かば信濃胡桃の落つる音
ひと所だけ明々と胡桃割り
胡桃二つ野路の墓へと供えたり
しゃくり上げ泣きいし子には胡桃かな
亡き人の手を思い出す胡桃かな
きこきこと祖父の掌中の鬼胡桃
青胡桃割りしは爺と婆ばかり
故郷より胡桃どっさり届きけり
金槌を以ちて子と割る胡桃かな
縁側で風に吹かれて胡桃割り
しわしわの固く空っぽ胡桃脳
胡桃二つひそと鳴らして人想ふ
目覚むれば庭に胡桃の殻の山
胡桃落ち庭に広がる青い空
谺する空収めたる胡桃かな
鎖骨まで鳴るかの如し胡桃割
太陽へ皺うごきだす鬼胡桃
皺という風の化石よ鬼胡桃
軍師でもできぬ決断胡桃割る
手間暇の美しきこと胡桃おはぎ
翻る葉に見え隠れ青胡桃
三男は胡桃二つを手にあまし
ペン胼胝の指老いにけり鬼胡桃
トラックに胡桃割らせて食ふ鴉
青胡桃ブルーモスクの丸き屋根
マニキュアは湖の色くるみ割る
賽のごと籠へと放る鬼胡桃
河口より百と一キロ胡桃落つ
胡桃落つ時々猫の通る道
ポケットに胡桃と小銭膨らませ
野良猫の見向きもしない胡桃かな
胡桃落つときどき止まる掛時計
胡桃割る黒曜石の斧を以て
リスのように愛した女は胡桃食べ
信濃路ははや割れにけり青胡桃
捨舟の底に鳴りたる沢胡桃
胡桃まで海飛び越えて秋津島
誰知るや秘密の隠れ家胡桃熟る
動乱の風をいざなふ胡桃かな
胡桃割る中はいまなほ空き部屋に
繋がりし記憶の回路胡桃割る
自己中のおまえ隠れる胡桃かな
手遊びに胡桃を割りて夜のグラス
天才の頭脳のしわや置く胡桃
胡桃噛む音こめかみに響く夜
名産のくるみ煮訪うはいつのこと
山胡桃青きに故郷息をせし
胡桃割るオンザロックは奏でだす
団塊の世代はじける胡桃かな
宇宙から青き地球は胡桃に似
胡桃の実散らばりし庭荒れ果てて
胡桃食べ胡桃の立場を推し量る
顎張りし署長に噛ます鬼胡桃
利き腕で胡桃を鳴らす人の来る
鬼胡桃郵便局で売られをり
胡桃落つ音に飼い犬耳を立て
頬を打つ殻の一片鬼胡桃
ぼろきれで胡桃磨いて光らせて
かたくなに守る胡桃のやはらかし
嫂が土産に持たせし胡桃かな
仔シマリス胡桃頬張り仁王立ち
胡桃抱く可愛らしさにカメラ向け
放られてかんらかんらと鬼胡桃
胡桃割る前頭葉を割るやうに
胡桃割る破片一つも片付けず
誰からも頼られぬ日々沢胡桃
胡桃焼く部屋の調度は前世紀
胡桃割る彼は右投げ左打ち
窯変の碗にころがす胡桃かな
笊蕎麦に胡桃のたれも信濃ぶり
胡桃避け道横断す蝮の子
寄す胡桃ひとつひとつの流離譚
湯気立ちて胡桃煎る音軽やかに
ハート胡桃隣町まで採りに行き
診察室へ胡桃をひとつ持ち込みぬ
胡桃拾ひ両手塞がるウォーキング
古民家の老婆が割りし胡桃の実
主なき机胡桃の刻む影
胡桃落つ渓は平家の隠れ里
空白のひと日を苦き胡桃噛む
国道へ鴉の落とす山胡桃
文鎮に重みの足りぬ胡桃かな
胡桃のざらつき殊に惑う今宵
薄皮に記憶のなごり胡桃食ふ
胡桃割るフェズの迷路の目的地
古釘でほじくる胡桃錆も味
胡桃落つ音指折りし闇深し
コリコリと胡桃片手に二個握り
ざらざらの胡桃の尖り手に刺さり
胡桃割る時間を解き放つやうに
出窓より高嶺見据ゆる黒胡桃
つなぐ手の中に胡桃のありにけり
転がせど浮かばぬ知恵や姫胡桃
めでたさの大きさはかる胡桃割り
カリエスの祖父の手遊び胡桃かな
夜深けまで安酒議論胡桃割り
浅間山の抱く一本胡桃かな
苦労していただく胡桃わずかなり
損ないの胡桃集めて胡桃味噌
老人のまはりに増ゆる鬼胡桃
炉の胡桃旧知の友の訃報知る
とりあえず胡桃を割つて考える
みちのくの風尖りたる沢胡桃
盤上の王窮地なり胡桃食む
胡桃貰い胡桃割り器を探しおり
胡桃割る川原の石の窪みかな
如何にせよ難き母逝き胡桃割れ
混沌を肯ふごとく胡桃割る
絶え間なき瀬音に太る青胡桃
くらやみの柱へ転ぶ胡桃かな
一つだけ割らず備前に置く胡桃
われぬくるみやたましひはひびわれて
翁の手カシャカシャ鳴るは胡桃かな
圧制に耐えつつ胡桃割りすらむ
胡桃の木ぶどうの蔓を友として
年輪の渦巻く森の鬼胡桃
てのなかの胡桃にぎにぎしてみるか
ひとり身の無力胡桃を割るときも
胡桃割れぬそんな悩みで夜を徹す
胡桃落つ御苑の森の深きへと
身に泌みる胡桃似ている母子歌
暗闇へ礫となりて胡桃落つ
実の裂けて出産のごと胡桃出づ
袋より出でし胡桃の吐息かな
ガキ大将胡桃を分けた秘密基地
鬼胡桃火攻め水攻めにて開城
水に落ち土に還るか沢胡桃
縄文の子らも割りたし胡桃かな
胡桃割る脳神経科准教授
渓流の魚焼く宿の鬼胡桃
手に二つ眠らぬくるみ夜間バス
少年の闇に届けと胡桃割る
眼をつむり胡桃転がし待合室
胡桃割る賢者の鴉知恵比べ
上野には北のものもの鬼胡桃
胡桃割り箱根細工の動く列
旅に出て甲斐の胡桃に遭遇す
ニ国の旗胡桃の落つる大使館
書き了へてゐぬ便箋に胡桃置く
手品師の指にまろばす胡桃かな
梁よりも柱の太き鬼胡桃
胡桃割るときその音も割れてをり
さて誰の口に入るやら胡桃割る
遠き灯に応へて胡桃ころがりぬ
ポケットの多い服なり胡桃詰め
前触れも無く来し友や落胡桃
胡桃割る草食系の裏の顔
智慧の実のごと置かれをる胡桃かな
転がりて狭き机上や胡桃の実