「鰺」は、黒潮に乗ってやってくる回遊魚で、夏から秋が漁期になります。親しみやすい大衆魚ですね。

さて、どんな句が寄せられたでしょう。

選句結果と選評は『週刊金曜日』２０２２年４月２９日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂未知子さんの選と比べてみてください。
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※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部（伊田）までご連絡ください。

【鯵】
柔らかきいのちほのぼの箸の鯵
朗々と夕鯵売りの語り口
波止釣りの太公望ら鰺狙い
鯵売の来て錆色の小雨かな
防波堤針の数だけ鯵釣れて
鰺焼いて窓の硝子の灯の尖り
売られたる鰺ほのかなる虹の色
夕凪の釣舟に鯵十尾ほど
夕鯵をお辞儀してからいただきぬ
尺鰺の顎門の切れて船底へ
ダイビング待つ船上で釣れし鯵
海までと川までとは違ふ鰺の船
におい立つ薬味は生姜鯵二貫
沿岸漁鯵大漁のありがたさ
とれたての鰺のフライの味覚へ
思ひでは自転車でゆく小鯵つり
うまいのかどうかわかりませんが鯵を食う
はためくは鰺の干物か伊豆の浜
飼うてをる金魚くらゐの小鰺買ふ
鰺叩くひとり暮らしに慣れるため
うつろなるパックの鯵の目玉かな
勝手よりあはき夕風鯵を割く
鯵の目の濁り始めの活造り
鰺貰ふ有名デパート包装紙
濁らざる鰺の目と目を合わせけり
潮騒に和す打楽器や鯵叩く
青海に青嵐めく鯵の群れ
堤防に並び鯵釣る浜の昼
二杯酢に素焼の鯵をジュンと浸く
鯵跳ねし海富士山を望みおり
鯵釣りの後片付けに取る稜鱗
魚市場山と盛られし小鯵かな
夕されば海色残し魚籠の鯵
海遠し鰺焼く庭の雨後の石
なほ細き竿の撓りや鰺跳ねる
鯵を釣る夜明けの海のほの明かり
鯵むしる男日頃も無口なり
うっとりと鯵の鱗の虹を見る
舌に届く波の飛沫か鯵ひとひら
菜箸は弓や真鯵はバイオリン
木曜は習字教室小鰺焼く
鯵群れるガラスの中の小さき海
皮肉屋の叔父に似ている干物鯵
根付き鯵姿造りのぐっと反り
小鯵ばかり夫の言い訳はじまりぬ
食い意地はむごし全き鯵裂かれ
鯵提げて湯の町の坂バスを待つ
瀬戸内の手釣りの鰺のはねにけり
小鯵釣って釣っては海に返けり
腹晒し鯵の平たい白昼夢
鰺開く腹の一物残さずに
鰺釣りを島の教師に子が教へ
この頃の山の鮨屋は鰺握る
鰺一荷相模の風にきらめけり
水槽に群れなして鯵泳ぎおり
生来の貧乏性や鰺好み
しめ鯵の三枚おろし大きな手
釣ってよし食べてなおよし鰺の舟
突堤に大騒ぎして小鯵釣る
包丁の研ぎ具合よし鯵さばく
鯵捌く男勝りの漁師妻
まつさをな明るさのまま鰺を干す
鮮魚商鰺の説明長々し
大水槽わずかな刺激踊る鯵
鰺丼や早く食べれば疑はれ
大いなる平凡や良し鯵フライ
姿よし目利きの嫁の買いし鯵
たたき鰺昼間の酒の酔い心地
鯵の一夜干し幟に感謝祭
こだはりの炭と醤油や鯵を焼く
浜坂に水揚げの真鰺大漁
軍港のあの食堂の鯵フライ
煩はしき近所付き合ひ鰺叩く
俎板に拍子を取って鰺叩く
鯵釣つて鯵といふ字を忘れけり
民放の取材背負ひて小鰺釣る
軍配のごとく真鰺の揚がりけり
小声なり生簀の鯵はひしめいて
有事など知らぬ水槽に泳ぐ鯵
鯵を干す漁婦のひとりは標準語
俎板の木目美し鯵たたく
大男鰺ぶらさげて庭来る
捨て鰺を狙ふ猫あり理由あり
鰺を割く俎板の水ざらつかせ
刺身では鰺が一番安いとの噂
鰺の眼のつぶらの覗く月日かな
散り散りになってまぶしき鯵の群れ
掛布さんの得意な鯵の叩きかな
さっきまで水槽にいし鯵たたき
全き鱗あり一本釣りの鯵
永遠は人に要るのか鯵叩く
たつぷりと海の匂ひや鯵を干す
鰺漁のニュース外貌気にし出し
流れ読む目のしたたかさ鯵の群れ
きらっきらの鯵のたたきとおまえさん
減りもせぬコレステロール鯵叩く
鯵や鯵我が豊穣の少年期
鯵叩く厨の扉あけたまま
厄神に縋る人波アジを焼く
大鰺の太きぬめりを掴みをり
鰺焼いてさみしきものの滅びけり
鰺おろす家庭科試験実施中
身の色も実入りも黄金瀬つき鯵
パリの香の鯵の干物にほのかなり
鰺叩く真砂女寡黙に何思ふ
宿の子の釣りし小鯵の朝餉かな
鰺ひらく母の包丁さばきかな
鰺叩く音心地よき日暮れかな
突堤に小鰺来ミニバイクの列
新婚や鯵のたたきに麩の御汁
活鯵の叫ぶ形の断末魔
親指が捌く小鰺の五十匹
防人の家系ほそぼそ鰺叩く
瀬戸の鯵漁る船の揉まれおり
空の色食べて育った鯵の子たち
鯵を食むいただきますと手を合はせ
小鯵もて遊ぶ子のいて防波堤
小鯵釣る竿一本を携へて
ブランドの札付け鰺の売られたる
干す鰺を踏まずに浜の狭き道
パスポート切れてをりけり小鰺釣る
鯵開き沼津土産や駅の前
新婚のレシピは鯵のたたきかな
出来映えは風に任せて鰺を干す
魔封じのごとく真鰺のぜいご削ぐ