兼題「雁渡し」__金曜俳句への投句一覧
(10月28日号掲載=9月30日締切)
2022年10月7日4:51PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
初秋から中秋にかけて吹く北風を青北風(あおきた)と言います。この頃に雁が渡ってくるので、雁渡しとも呼ばれます。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2022年10月28日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂未知子さんの選と比べてみてください。
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※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部(伊田)までご連絡ください。
【雁渡し】
雁渡し箒の筋の見える道
救急車ならぶ入口雁渡し
潮騒の遠くに揺れて雁渡し
雁渡し子の声とほくより響く
雁渡し横断歩道を斜交いに
隠岐の島はるかに望む雁渡し
ひと振りの刀をさめて雁渡し
道切りが野路へだてたり雁渡し
留守番の一人の夜や雁渡し
黄金の田の消えにけり雁渡し
尻下ろす空席狭し雁渡し
凝り性は父親譲り雁渡し
雁渡し真珠筏の大移動
パン売りし鳥羽の湊や雁渡し
跳び箱の帆布の白さよ雁渡し
廃業の湯屋の煙突雁渡る
雁渡しおちこちに立つ売家看板
縄文の聳ゆる柱雁渡し
雁渡し病院までのバスは混み
ゆつくりとふりむけば雁渡しかな
幾代の蔵の小窓や雁渡し
雁渡し列島揺らす政
雁渡し湖色(みずいろ)いっそう碧くなり
雁渡し優しき島を引き寄せて
揚げ物は雁渡し頃にさらはれて
背伸びするパンタグラフや雁渡し
猛りたる壹岐の灘越え雁渡し
青北風やひと日で変はる思ひあり
雁渡しカラカラカラと葉のころげ
雁渡し時代錯誤の国に生く
雁渡しちらしを母の分まで食べ
雁渡し余命リミット過ぎにけり
雁渡し湖心に玻璃のごときもの
父そして母のホスピス雁渡し
海峡を越ゆる大橋雁渡し
流木の留まる河口雁渡し
雁渡し含みて乱る裳裾かな
銭湯に残る煙突雁渡し
雁渡し愛と言へども依存症
夜もすがら一湾ゆする雁渡し
ふぞろひの夫婦茶碗や雁渡し
雁渡し命どう宝語り継ぐ
雁渡しロンドン塔がおつこちる
雁渡るいづくの地にも名前あり
ただそこに螺旋階段雁渡し
風鐸の鳴くとき村の雁渡し
物語祖父に聞く夜や雁渡し
群青の山連なりて雁渡し
療養の児を翔ばしめよ雁渡し
雁渡し蒼天にとどろく咳払ひ
雁渡し漁師の捨てし雑魚の跳ね
雁渡し酢を掛けられる足の裏
雁渡し米寿の祝い状の綺羅
島ごとに建てし教会雁渡し
国境はわだなかにあり雁渡し
雁渡し経帷子に染みひとつ
よどみなく落ちる錨や雁渡し
雁渡し富士の高嶺を越ゆる朝
雁の声夜空過ぎ行き雁渡し
青北風や『方丈記』から水の音
空路にて行ける地の果雁渡し
縁切りの言い訳練るや雁渡し
背脂の浮かぶラーメン雁渡し
あなたから見える黒子や雁渡し
雁渡し舫の綱のギッと鳴る
老僧の袈裟の音する雁渡し
のろのろのパソコン換えむ雁渡し
台風の倒しし上を雁渡し
雁渡し猫の微睡む島の昼
縦列に五色ヶ原を雁渡し
青北風や悲喜こもごもの海の色
砂に染む引き潮のあと雁渡し
嫁入のトラック迎ふ雁渡し
雨多き街に雨無し雁渡し
六時台テレビ付け寝る雁渡し
雁渡しモディリアーニに瞳入る
マウンドを降りる投手や雁渡し
雁渡し猫の背中のまんまるく
雁渡し歩荷の人の腕組みて
雁渡し遣る雁もなく吹き募る
青北風や駅の向こうはかつて海
手づからの皿を土産に雁渡し
明治より朽ちぬ鉄橋雁渡し
北窓に夜風立ちけり雁渡し
雁渡し凱旋門やパリ望む
雁渡し携帯電話オフにして
雁渡し十人ほどの写生会
試着する面接スーツ雁渡し
雁渡し穹(そら)に残した星ひとつ
雁渡し閑寂をゆく帆前船
頬寄せてほの明るくも雁渡し
雁渡し迎えが来たと母の言う
遠ざけて父の呆けし雁渡し
雁渡し缶ぽつくりに異国の子
陸橋に帽子おさへる雁渡し
何時の間にスリッパ増える雁渡し
水分けの尾根研ぎ澄ます雁渡し
よく似合う後朝の朝雁渡し
灯の帰る家あり雁渡る
症状に病名つきぬ雁渡し
青北風や過疎の団地は河のそば
鉄橋の子らかたよりて雁渡し
雁渡しビニール超しの店の椅子
乗り換えの僅かな時間雁渡し
なにげない妻の一言雁渡し
雁渡し確と縛りし舫綱
階段を夕日降り来し雁渡し
異教徒の国に向く墓雁渡し
泡波をグラスに揺らす雁渡し
翻る白き暖簾や雁渡し
雁渡し一灯揺する鄙の湯場
着るものの色の濃くなる雁渡し
修復の大寺十年雁渡し
雁渡し乗りて巡らむ子らの街
また一羽残されている雁渡し
何処から何彼の軽絮雁渡し
なぜなんで続く訃報や雁渡し
珈琲の香りひと息雁わたし
ひと湾をギターホールに雁渡し
雁渡し辞書にのらない季語多し
南端の岬の碑文雁渡し
白タオル巻きし頭顱へ雁渡し
踏切りの音足早に雁渡し
訪ね来し猫にも夕餉雁渡し
さわさわと吹き抜ける風雁渡し
古書店に時代の匂ひ雁渡し
雁渡し待って私も風になる
胡麻塩の鬢のほつれや雁渡し
新しきリップクリーム雁渡し
青北風のエアターミナル乾杯す
縁側に駒を落として雁渡し
船でさへ行けぬ島なり雁渡し
雁渡しタグボートには古タイヤ
とつぷりと暮れ鴨川の雁渡し
閉店の張り紙ひとつ雁渡し
雁渡し窓をはみだす前奏曲
うらおもてなき高空や雁渡し
雁渡し荷物の多き職に就き
雁渡し白鷺の首やや縮む
浜の子の足踏みをする雁渡し
雁渡しヘジャブ脱ぎたき空のもと
雁渡しひとりで入るラブホテル
雁渡し回覧板と吹き込めり
神宮は撮影禁止雁渡し
裏町の早き日暮れや雁渡し
古書さがす街の夕暮れ雁渡し
雁渡し火の色残る陶器片
雁渡し共に故郷へUターン
廃校の便り短し雁渡し
灯の昏きニコライ堂や雁渡し
雁渡し組み体操の笛鳴りて
雁渡し離婚届に捺印す
都市に出て運なき父子や雁渡し
雁渡し山ふところに塩眠る
入院のスーツケース引き雁渡し
雁渡し今年の冬は早かろう
いざ生きめやもと言ふごと雁渡し
手術後の眼帯外し雁渡し
雁渡し手紙の文字は緑色
手を上げて止めるタクシー雁渡し
雁渡し練習船に女神像
逆縁という別れあり雁渡し
雁渡しそれでも傾ぐ磯馴松
まだ窓の入らぬ新居雁渡し
雁渡し看取りの窓の明けてゆく
雁渡しこの世にすこし飽きたころ
雁渡し空き家に不法侵入す
窓際に猫まどろみぬ雁渡し
雁渡し口笛のさきのさきまで