兼題「牡蠣鍋」__金曜俳句への投句一覧
(11月25日号掲載=10月31日締切)
2022年11月20日5:53PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
寒くなってきました。心身ともに温まる鍋料理が恋しい季節です。なかでも冬においしくなる牡蠣を使った牡蠣鍋は格別ですね。
さて、どんな句が寄せられたでしょう。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2022年11月25日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂未知子さんの選と比べてみてください。
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予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部(伊田)までご連絡ください。
【牡蠣鍋】
縮まりし身を牡蠣鍋に探しおり
牡蠣鍋は明日にしますと文書来る
牡蠣鍋や闇の欠片を放り込む
土手鍋や手際の良さも三国一
牡蠣壁にとことんの酔ひ恵まるる
牡蠣鍋の差向ひてふ至福かな
牡蠣鍋や體じんわり温もりぬ
牡蠣鍋やぐつぐつ煮ゆる音愉し
休日のひとり牡蠣鍋しばし酔う
牡蠣鍋や出張の父居らぬ日の
牡蠣鍋や梁はおのづとほのくらく
これほどに縮みし身なり鍋の牡蠣
冷めぬやふ炎細める牡蠣の鍋
牡蠣鍋の豆腐を救う子ら笑う
すれ違ふ風に香のある牡蠣の鍋
蓋をあけ牡蠣の涅槃へ蓋をしめ
牡蠣鍋や古地図にここは海とあり
牡蠣鍋を囲む見覚えなき叔父と
牡蠣鍋や酔ひて恩讐彼方なり
牡蠣鍋や次々出てくるほら話
牡蠣小屋の長きテーブル鍋五つ
牡蛎鍋や吾の席かつて父の席
冬更かし牡蠣鍋食べてもう一夜
牡蠣鍋の牡蠣より旨き豆腐かな
牡蠣鍋やすっかり貧しくなった国
牡蠣鍋や古い映画を語りあう
牡蠣鍋の煮え立つ音や海の底
牡蠣鍋や給与明細伏せて食ふ
牡蠣鍋や魔女はマントのまま席に
牡蠣鍋の列のほどけてゆくところ
牡蠣鍋や失敗談の四方から
ばあちゃんと牡蠣鍋囲み子がわらう
牡蠣鍋の芳り彷徨う露天風呂
牡蠣鍋にほどほどを知るカウンター
解剖はせず牡蠣鍋に埋葬す
牡蠣鍋の殻を宝とする気持
牡蠣鍋やローカル線の終着駅
牡蠣鍋が待つてゐるから急ぎ足
牡蠣鍋や土手をひたひた滋味濡らす
牡蠣鍋を食ふや浪速の川の上
出稼ぎの女無口に牡蠣をむく
土手鍋やうしほに土手の大曲り
牡蠣鍋のわかる大人になりにけり
牡蠣鍋に円坐崩れてしまいけり
牡蠣鍋にこの国の闇投げ入れる
牡蠣鍋やまだ戻り来ぬもう一人
牡蠣鍋にヒロシマのあり津波のあり
牡蠣鍋と言ふも何粒数へたる
ひとり夜に牡蠣鍋つつく星灯り
禁欲をとかす牡蠣鍋熱き湯気
戯れに秘密のタレを牡蠣鍋に
牡蠣鍋や障子をしめてうす灯り
牡蠣鍋や無口な祖父の国自慢
生はイヤ牡蠣鍋ならば食します
牡蠣鍋や醤油も味噌も塩も入れ
牡蠣鍋のぐらぐら真夜に煮え返る
牡蠣鍋や男三人よく喋る
土手鍋や四半分ほど味噌崩し
凝縮の牡蠣の旨味や鍋浚ふ
決め事の少なき暮し間々土手鍋
赤味噌の地の土手鍋に帰りし夜
牡蠣鍋や流行りの一人鍋の店
牡蠣鍋を囲む仲間の島ことば
牡蠣鍋やそこら中より海の匂ひ
良く太る牡蠣をいっぱい入れし鍋
牡蠣鍋に佃の渡し偲びけり
牡蠣鍋や予後の話の鍋奉行
牡蠣鍋に芯といふものなかりけり
牡蠣鍋や舟へ小波のひたひたと
牡蠣鍋や大志抱けと言はれても
牡蠣鍋や故郷は海の傍にあり
牡蠣鍋の味噌のほどよく熟れにけり
どろ土の上で牡蠣鍋囲みけり
ほふほふと蠣鍋食ふや歯の熱し
牡蠣鍋や婿の正座のゆるみゆく
牡蠣鍋や酒に舌焼く漁師宿
牡蠣鍋や丸テーブルの落ち着かず
甘やかな乳飲む如き牡蠣の汁
牡蛎鍋や逢ひたきひとは山に棲む
牡蠣鍋や本音を語る友逝きて
ぐつぐつと牡蠣の周りの泡立ちぬ
牡蠣鍋や底に縮みて二つ三つ
牡蠣鍋や叔父の自慢は聞き飽きた
牡蠣鍋の土手や家族のかたちとは
牡蠣鍋やいつも二匹で過ごす猫
牡蠣鍋の底辺掛ける笑顔かな
牡蠣の鍋昭和の匂ひの座敷かな
牡蠣鍋や鼻から潮が満ちるなり
牡蠣鍋や晩婚てふを言祝げる
牡蠣鍋の湯気の裏より射す視線
牡蠣鍋や白きご飯を待たせをり
牡蠣鍋の小さくなって暮らしましょう
牡蠣鍋や年に一度の顔合わせ
牡蠣鍋の白葱そろへ箸を噛む
牡蠣鍋や妻との暮らし短かり
土手鍋や葱の切り口まず匂い
牡蠣鍋や誰にも見せぬ顔をして
牡蠣鍋の身を数え食うお約束
牡蠣鍋や葱より芹と頑固者
牡蠣鍋や胸騒ぎして時差電話
エコバック牡蠣鍋の具を押し込んで
牡蠣鍋や弥生のムラの登呂遺跡
牡蠣鍋や豆腐ばかりを掬いをり
牡蠣鍋の自家製味噌を褒めらるる
牡蠣鍋の煮えたと分けてくれし人
牡蠣鍋や般若心経閉じて食ふ
蠣鍋や網を繕ふ浜の小屋
牡蠣鍋や背中丸めて一人鍋
土手鍋の土手をどつどと崩しけり
牡蠣鍋や苦手な妻は葱豆腐
ほろ酔いに小さくなりゆく鍋の牡蠣
牡蠣鍋や定員割れの消防団
牡蠣鍋や安全靴の紐緩め
牡蠣鍋のひとつぶの牡蠣ながらふる
牡蠣鍋や不思議な笑みを返す客
牡蠣鍋を箸八本で囲みし夜
牡蠣鍋や吾を知る人誰もなし
牡蠣鍋や白味噌の香も濃厚に
牡蠣鍋や旅の鞄を壁に置き
広島の出張の夜牡蠣の鍋
牡蠣鍋やWEB飲み会の画の曇る
牡蠣鍋や皿を叩いて泣き上戸
濃き味の牡蠣鍋の汁啜りたる
牡蠣鍋やパンドラの箱囁きぬ
湯気もろとも鍋を溢るる牡蠣の山
蓋とれば皆笑顔なり牡蠣の鍋
牡蠣鍋や消してはならぬ事のある
牡蠣選び小鉢にくれし君の指
牡蠣鍋を突き記憶の戻る母
殻剥がす手慣れの仕事牡蠣の鍋
牡蠣鍋や友に手紙を書いて居る
牡蠣鍋やじゅわと身の縮こまる牡蠣
牡蠣鍋や終の棲家にみな揃ふ
土手鍋の底に一粒牡蠣ちびて
石橋と木橋を渡り牡蠣鍋店
牡蠣船に昔の夢の酔ふてをり
悩ましや牡蠣鍋は醤油か味噌か
牡蠣鍋やすこしお高い豆腐買ふ
牡蠣鍋や舟細長く川広し
座卓に牡蠣鍋その下に花束
牡蠣鍋の舟のごときが湯気のなか
牡蠣鍋やぶち勇ましき国ことば
鍋の湯気野菜枕に牡蠣眠る
牡蠣鍋や港にひとつある店の
牡蠣鍋へいま満潮のうすあかり
牡蠣鍋をたつたひとりで食べにけり
薄暗い小屋に牡蠣打異国の女
牡蠣鍋や潮の匂へる古畳
鍋と呼ぶ牡蠣の地獄に重く蓋
牡蠣鍋の味噌の焦げたる八時半
火を囲む小さき世界牡蠣の鍋