兼題「甘酒」__金曜俳句への投句一覧
(5月26日号掲載=4月30日締切)
2023年5月21日3:54PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「甘酒」は冬にのむ温かい飲料のイメージとなりましたが、もともとは夏の飲み物でした。
さて、どんな句が寄せられたでしょうか?
選句結果と選評は『週刊金曜日』2023年5月26日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂未知子さんの選と比べてみてください。
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※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部(伊田)までご連絡ください。
【甘酒】
甘酒を運命線に乗せてをり
甘酒の甘さほどよき安息日
甘酒や器に小匙架けてあり
甘酒の甘味の違ひ嫁姑
甘酒を呷るや小さき悔い残し
甘酒や俺より先に逝くなんて
甘酒や農に勤しむ蔵人の
甘酒や長き今世のひとしずく
上戸には待てない時間一夜酒
甘酒飲む熱き番茶をさましつつ
なお続く老老介護一夜酒
参拝の疲れをいやす甘酒や
冷し甘酒一気飲みするヘルメット
甘酒や深き淵より戻り来て
一夜酒下戸には下戸の矜持あり
血糖値どうのこうのと一夜酒
下戸なれば甘酒にして酔ひ心地
甘酒や床つかみたる足の指
甘酒や丹田はここ手を添える
甘酒の匂ひ濃くなる通り雨
甘酒や鉋は誇りごと削る
げこなればあまざけにしてよいごこち
手造りの正解なくて一夜酒
道中に甘酒見れば休みたく
皓々と甘酒啜る洋燈下
甘酒の香ともいへぬを嗅ぎゐたる
御一新前の風情の甘酒屋
甘酒を離さぬ意志や幼の手
甘酒は食事の最後にもつて来る
出アフリカ辺境の地の甘酒
尼寺に甘酒匂ふ山の風
十三で許可のおりたる一夜酒
甘酒や遠き山肌迫りくる
甘酒しか飲めぬ杜氏なり残務処理
参道のゆるき勾配甘酒屋
甘酒の粒立ち通る喉の奥
甘酒を飲んで野心の無い齢
甘酒に明治の雪を祝ぐ神田
甘つたれた男甘酒飲みにけり
甘酒や新しき登山靴買ふ
鍋にある甘酒飲んで留守番す
甘酒や父の口へと無垢の匙
ひとさじの甘酒すする癌の夫
甘酒や今年二十歳のソーダ割り
甘酒や跡取り産めといふ皮肉
甘酒に生姜嬉しや大男
甘酒に舌焦がしたる留守居の夜
甘酒のつぶつぶ柔し舌の上
看板の文字は右から甘酒屋
甘酒や日本人形の姪つ子
終はりたる居残り講義一夜酒
午後四時のコンビニで買ふ一夜酒
紙コップ重ねて注ぐ甘酒屋
回覧板届け甘酒貰ひ受く
甘酒や楽屋鏡の左端
味噌造る余りの甘酒母恋し
むくつけき親父の啜る一夜酒
甘酒や言葉限りを尽くす夜
甘酒のほろ苦き夜を独りごち
甘酒や黄金バットの紙芝居
甘酒をちびりちびりと丑の刻
庭に出て呼吸甘酒飲む前に
甘酒あり〼淡嶋さんの昼下り
甘酒や口に残りし崩れ米
甘酒に委ねる手持ち無沙汰かな
喉骨のかたちあらわに一夜酒
甘酒や上戸と云うは若き頃
珈琲も甘酒も注ぐマグカップ
甘酒の二人に迅き五十年
半袖の腕もてあます一夜酒
カルピスの双生児かな一夜酒
甘酒や掌のうすうすと温もれる
眼の鋭き甘酒屋来る江戸長屋
仏壇の米に生まるる一夜酒
ぬくもりが耳の奥まで一夜酒
あまざけや水屋に玻璃の多からむ
些事ひとつ収まりきれず一夜酒
酒飲まぬ妣に甘酒供えたり
置いてけ堀ありしあたりに甘酒屋
甘酒を吹けば富士山雲晴るる
夜勤明けまづ一杯の一夜酒
甘酒をいただく椅子の音させて
うんめえと下戸の飲み干す甘酒かな
二日酔い冷やし甘酒迎へ酒
甘酒の味に光の生まれけり
飲む前に甘酒の白をぢつと見る
おせつかいすぐに勧める一夜酒
甘酒を吹きて静かな木陰かな
甘酒や下戸の夫はや眠りをる
甘酒や明神下の地下空間
母の忌や甘酒供へ献杯す
甘酒やぺたんぺたんと米を打ち
甘酒をぐいと飲み干す白寿かな
甘酒を吹いて出稼ぎ十年目
甘酒や女にたまの日曜日
ふつふつと麹生きたる一夜酒
甘酒や啜りし祖父は戦病死
甘酒や雨紋忙しき池の茶屋
白濁の動きゆるりと一夜酒
甘酒を手にサーファーの眼の優し
いと熱き甘酒や猫ミャアミャアと
肋骨のふくらんでゆく一夜酒
甘酒や餃子の夕餉に期待する
上気して酔ったつもりの甘酒や
甘酒を棚から下ろしまた戻し
甘酒をふうふう吹いて赤ら顔
甘酒にほどけて軽き我が身かな
道草の人生や点滴の甘酒
甘酒を飲む境内のベンチにて
甘酒や脇のあまさを感じをる
気詰まりな詰所甘酒渡されて
恐ろしき妻のつぶやき一夜酒
白といふ濁りの美しき一夜酒
縁日や祖母のほうびの一夜酒
甘酒を配る婦人部地区清掃
甘酒を吹けば味はひ加はりぬ
甘酒をはさみ無言の夫婦かな
甘酒やあばらの罅にしみとほる
甘酒に氷の音がカチカチと
ほろほろと甘酒吹いて電気街
銘酒屋のありしあたりの甘酒屋
手づくりに波の匂いも一夜酒
山小屋に雨降り止まづ一夜酒
早や冷めぬひと夜の恋のひと夜酒
甘酒の濁りの底を凝視せり
甘酒を醸す夜の風来れ友
定宿のそつと出てくる一夜酒
下山してまず振舞わる一夜酒
母に買ふ甘酒母のメモになき
甘酒や古墳人より脈々と
甘酒は飲む点滴と聞きしこと
甘酒のほどよき濁り人もまた
冷やされし甘酒の味いさぎよし
甘酒や記憶はいつも苦きもの
熱すぎて甘酒ちびりちびり甜め
星探しつつ甘酒を酌みにけり
水筒に甘酒内緒話の夜
甘酒や国会中継の佳境
甘酒や合格祈願済ませたる
甘酒飲み眠る子重しあたたかし
白酒や老母のわがまま募りけり
二三杯ひつかけてきた甘酒屋
琉球の甘酒あましミキという
甘酒や赤子をあやす風さやか
ちびちびと甘酒すする聞き上手
甘酒の参道長くひと休み
浅草に老母を連れし甘酒屋
泥を掻くボランティアへの一夜酒
甘酒に酔うたと夫のひと休み
妻居らぬリモートワーク一夜酒
薄暮なり食後に喫する甘酒かな
能書きの滑舌暗し一夜酒
一夜酒明日は都会へ戻る吾子
一服の甘酒茶屋の一会かな
湯治場の午後の甘酒談義かな
甘酒や舌先で殺る糀粒
甘酒を飲んで酔うふりしてみたり
甘酒や喉にごくりと落つ重さ
旧道の難所越ゆれば甘酒屋
境内にいつも甘酒ライトバン
甘酒は手作り流行り病去る
一夜酒俳句もどきをひねる夜
ふうふうと冷ます甘酒おちよぼ口
甘酒の味に気持の安らぎぬ
甘酒は二河白道を越えてより
甘酒の濁りの奥を見る子かな
警察の仮駐車場甘酒屋
ふうふうとはあはあ深く一夜酒
甘酒の幟目指して路地を抜け
甘酒や一椀子らで回したり
甘酒や香具師のあだ名は町の名に
甘酒が冷えているよと祖母の声