兼題「秋扇」__金曜俳句への投句一覧
(9月29日号掲載=8月31日締切)
2023年9月20日7:42PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
この秋はいつまでも暑く、なかなか扇や団扇を手放すことができませんね。さて、どんな句が寄せられたでしょうか。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2023年9月29日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂未知子さんの選と比べてみてください。
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※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部(伊田)までご連絡ください。
【秋扇】
本堂に閑に畳む秋扇
秋扇舞えば軽みも生まれなむ
黄泉人(よみびと)をいくら思えど秋扇
幕間ロビー帯にさされし秋扇
無敵でも不敵でもなく秋扇
野の花の開くたび咲く秋扇
扇置く宿題ひとつ片づけて
秋扇バッグの底にて時を待つ
亡き母はソファの隣り秋扇
秋扇に子供の頃のシールあり
跳ねる子の背に一本秋扇
美しき吾の風切秋扇
銀墨の般若心経秋扇
使はれぬ秋の扇の微熱かな
秋扇を咥へ着付けの舞台裏
抽斗か棚の上より秋扇
残り香や母の形見の秋扇
猛暑去りケースに納む秋扇
熱帯の義父母へ土産や秋扇
秋扇要ゆるんで手に馴染み
秋扇世間の風の變らずや
捨扇鞄の底はほの暗き
悪口を受け流したる秋扇
活躍よ大活躍よ秋扇
秋扇や名悪役の薄笑ひ
開いてはまたまた閉づる秋扇
秋扇タクシー降りて登る坂
秋扇と言われぬように腰上げる
縁側に埃一列秋扇
ある日から変わる名前や秋扇
秋扇開きて舞いぬ美しき
落ちのない噺家や秋扇子
好きな人亡くして無地の秋扇
秋扇閉ぢて山河の夜を招く
紅殻の茶屋街をゆく秋扇
カリスマにも旬はありけり秋扇
かようにも身を広げたるか秋扇
秋扇要に鉄の小さくあり
逃げ遅れ栄光背負ひ秋扇
手に取りて買はぬマニキュア秋扇
秋扇染み入る風よ君の肌
さりげなく本音かくして秋扇
だんだんと脚をくずして秋扇
ひそやかに耳打ちさるる秋扇
秋扇や扇ぎ来し方しのぶ風
扇置く指に暮色のさだまりて
わざとらしくほめまくる妻秋扇
気まぐれにあふげば明し秋扇
ゲルニカを見上ぐるあぎと秋扇
秋扇隠れて舐めるドロップス
夕映えの光を閉じて秋扇
寝たきりの母を見舞ひぬ秋扇
まさをなる空へと気球秋扇
地球沸騰なかなか秋扇になれず
秋扇教則本の開きぐせ
事故停車したる車内の秋扇
秋扇鞄の奥に入れしまま
インバウンドの京で求めし秋扇
秋扇や鞄に移し朝を行く
秋扇子ねえやは優し子守唄
一昨年に無くしたままなり秋扇
秋扇さらりと使ふ立役者
われに似て所在なげなる秋扇
憧れの画家のサインや秋扇
探してたカバンの底に秋扇
転職を勧めるでなし秋扇
秋扇公民館の読書会
秋扇だらけのライブハウスかな
豪勢な入れ物秋扇みすぼらしく
おもむろに秋扇開く准教授
ペン置きにインクの染めし秋扇
ポーチ入れ閉じたままなり秋扇
嘘をつく顔隠したる秋扇
秋扇小言繰り言くたびれて
小唄会爪弾く帯に秋扇
秋扇閉じる一つのこころかな
仁丹とポマード匂ふ秋扇
秋扇朝に御飯を食べぬこと
青々と澄みきる夕の秋扇
エルメスのカバンの中の秋扇
脱ぎ捨てるようにひらいて秋扇
秋扇や夕焼け小焼け風そよぐ
秋扇鞄の底にたたみけり
美しき肉の色して秋扇
寄り合い果て風とおる間の秋扇
喜寿祝ふ妻清げなり秋扇
遅れ来て来賓席の秋扇
開いては祖母の形見の秋扇子
君が香のほのかなりけり秋扇
終電の車内放送秋扇
道端の生命の終わりや秋扇
秋扇いそがしランチバイキング
いつまでも出番の続く秋扇
たたみにも夜風の染むる秋扇
相槌のそろそろ飽ひて秋扇
ヨコ三の鍵に恋の句秋扇
引出しに匂ひ懐かし秋扇
もてあます想ひは言はず秋扇
折鶴の夫婦描かれし秋扇
秋扇開けば香るもとの香に
うたた寝や机上におわす秋扇
秋扇や法話の前の荒使ひ
大胆に路上でのキス秋扇
点睛のごとくに帯に秋扇
秋扇やおもちゃになるも今季のみ
いつからか鞄の底や秋扇
秋扇胸を開きて風送る
書きかけの手紙そのまま秋扇
鈍色のグレコのパリや秋扇
旅鞄仕舞へば底に秋扇
秋扇を閉じて兄嫁伏目なる
秋扇たまに叱つてくるる妻
エアコンもけふ忘らるゝ秋扇
この年は仕舞ひ難きや秋扇
入院の母恋ひ泣きし秋扇
秋扇をさめる仕種祖父ゆづり
黄泉へとの旅に持たせる秋扇
秋扇吹けば飛ぶよな世間かな
秋扇あおぎ嘘ぶく合図かな
秋扇雲を一掃きして終へぬ
未来には秋扇(しゅうせん)ごとく戦なれ
山辺にひとつ雲あり秋扇
饒舌な人の輪離れ秋扇
うらがはに文したためて秋扇
許すとき手にする哀や秋扇
四年ぶり若冲展へ秋扇
秋扇池の深度を測りかね
秋扇昼の部始まるブザーかな
逆開き秋の扇子に母の声
一年後期待の風や秋扇
たましひの巡りて秋の扇かな
秋扇忙し助役の鼻眼鏡
床の間に忘れ去られた秋扇
赤々と夕空澄みて秋扇
秋扇やがて肥しとなる積ん読
湯あみしてお山を仰ぐや秋扇
黒塗りの金庫背にして秋扇
いつまでも折り目正しき秋扇
秋扇や稜線に穂の喫水線
旅人の木より風くる秋扇
一見の客として置く秋扇
秋扇ひと知れずなほ香り立つ
秋扇おりたたまれる潮の音
秋扇しまい難きや温暖化
耳打ちは美しき富士見せ秋扇
100円の要はかなし秋扇
秋扇がぼやくだあれもいない時
天下分け目の鶴翼や秋扇
寝付かれぬ舞子の胸に秋扇
ただいまの鞄の底の秋扇
秋扇うなだれて降級の棋士
秋扇羊羹厚く切り出す
恋心冷めて久しや秋扇
金券も期限のありて秋扇
戦友のごとく労わり秋扇
状差しに控へをるなり秋扇
般若心経書かれいる秋扇
齷齪と稼ぎしことも秋団扇
芸子舞ふ秋扇忘れて様ならず
ラジオより山口百恵秋扇
秋扇やもらう果物熟れ過ぎて
秋扇そのゆびさきの細きこと
昨年のサマーバッグに秋扇
秋扇納まりの良い竹の箱
過去になき酷暑留める秋扇
グループに秋扇を持つもの一人
秋扇後ろ姿の寂しげに
柳名言はぬ父の机上の秋扇
秋扇や覚えたはずの貝の口
秋扇を隔て昨夜の話など
木箱には母校のサイン秋扇
秋扇の傍に諸九尼夢の人
秋扇もなんやかんやで役に立つ
空家にはせぬと兄嫁秋扇
秋扇のなぜか猫じやらしの函に
難問に名案呼ぶや秋扇
人新世SDGs秋扇
黒板の指差し棒や秋扇
秋扇形見となして逝けるひと
秋扇人も消えたるよのなきさ
バス中の蘇州夜曲や秋扇
縁側の一人将棋や秋扇
秋扇投げて勢いやや弱し
ステージに夢を運びし秋扇
秋扇夕空はまだ悲を浮かめ
物事のわかる齢や秋扇
指揮棒の舞ふがごとくに秋扇
秋扇や扉へボビン転ばしめ
秋扇恨めしクーラーで忘れられ
夏フェスに風を運びし秋扇
秋扇の蛍に元気なかりけり
秋扇女系家族に入りし婿
決心の膝をひと打ち秋扇
畳みつつ名手の一言秋扇
撫で肩で生くるほかなし秋扇
秋扇開き浜辺のにほひかな
秋扇開くだけなり美しき所作
秋扇や完全一致は目指さない
秋扇手持無沙汰な法事かな
一度下げエアコン頼みに秋扇
車椅子きびきびと駆り秋団扇
残心のごとく秋扇置かれたり
遺失物室へ秋扇引き取りに
図書館の窓辺の紳士秋扇
蕉風の一句開いて秋扇子
言葉なくただ秋扇置く女
揉め事の先づは整理や秋扇
秋扇少し破れてゴミ箱へ
かめばかむほど思い出す秋扇
秋扇かへらぬ人を待ち侘ぶる
秋扇の軽さのごとく風乾く