兼題「鈴虫」__金曜俳句への投句一覧
(9月29日号掲載=8月31日締切)
2023年9月20日7:47PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
鈴虫が鳴き始めると、秋本番の感じがしますね。よく飼育もされています。さて、どんな句がよせられたでしょうか。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2023年9月29日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂未知子さんの選と比べてみてください。
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※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部(伊田)までご連絡ください。
【鈴虫】
窓少し開け鈴虫の声招く
鈴虫と響き合ひたる詩の余韻
バス停に吾子を待つ間の鈴虫よ
鈴虫のまばらを青果売り場の灯
鈴虫に和すかに鉦の稽古かな
鈴虫の先づ独唱にみな倣ひ
鈴虫や少年すだく駐車場
ぐずる子を寝かしつけたる鈴虫よ
草の水鈴虫の音が中断し
鈴虫の良く鳴いている夜店かな
鈴虫やグラスふれあい火照る刻
サンパウロ鈴虫いるか移民街
鈴虫に誘はれ闇のなか独り
囲われて沁み通る声鈴虫かな
電話では鈴虫の音伝わらず
鈴虫の棲む庭とんとなくなりぬ
ぬばたまの闇に鈴虫競ひけり
鈴虫や古民家カフェに引き継がれ
鈴虫を追う夜目と耳働かせ
鈴虫や珈琲の香の馥郁と
鈴虫や過ぎし日の恋田舎道
窓に付く鈴虫の声目のカゴに
雨上がり蝉と鈴虫共演す
鈴虫や鄙にそだてば聲も美し
鈴虫を鳴かせて夜の愉楽かな
鈴虫や故郷遠し夕間暮れ
鈴虫やカラオケ帰りリインリン
とき知らず鈴虫寺に願い事
鈴虫の五代目生きる厨奥
鈴虫の鳴き継ぐ夜は目を閉じて
鈴虫の飼い方添えて譲渡会
慎重に草踏む鈴虫踏まぬやう
鈴虫と眠るみちのく旅の夜
鳴き続け鈴虫の夜明ける朝
鈴虫の声に目覚めし週休日
虫籠を枕元に児の昼寝
すずむしのなきごえうたうにほんかな
鈴虫の野菜売り場で売られおり
鈴虫の聲の融けゆく夜の静寂
鈴虫やミッキーの耳そば立てて
鈴虫の声憤怒は悔となりにけり
文鳥も鈴虫もをり我が家かな
鈴虫をルンバに任せ出勤す
去るものは去り鈴虫の宵となる
鈴虫や黒ばかりなる父の靴
鈴虫が聞ける静けさの平和よ
電話越し秋の背を見る鈴の声
鈴虫の音流るるや道しるべ
鈴虫の声に似る人醜女なり
宿請いし妻籠の夜の鈴虫や
鈴虫を飼いたい飼える駄々っ児や
鈴虫は止み野のそよぐばかりなり
月鈴子こゑの壊れる向かう側
鈴虫や火縄の島の波高し
鈴虫やならぬ逢瀬を赦さざる
鈴虫に街角ピアノ伴奏す
鈴虫を耳そばだてて聴く夜かな
鈴虫や鉛筆の音受験生
鈴虫や歩み止めれば音も止む
鈴虫や重ね伏せたる植木鉢
鈴虫の声や屏風の公家屋敷
鈴虫やこちらへ来いと言うて闇
鈴虫や鉱石ラジオ未だ鳴かぬ
湯に浸り鈴虫聴くや我が果報
遠のける話題はひとつ月鈴子
ひそと鳴く鈴虫にこそ親しけれ
鈴虫や掠るるままにボールペン
鈴虫に停まる長距離ドライバー
鈴虫や眠り乱るる声らしき
都より湖へ遡行の鈴虫よ
鈴虫の声ペン先にものを書く
鈴虫を制しハーレーダビットソン
鈴虫の声にうなずく痩せた母
鈴虫に鳴き癖ありて不眠の夜
足の音試練与へる鈴虫に
鈴虫やインボイスてふ負担増
土間多き用務員室月鈴子
鈴虫を聞けば平安貴族かな
鈴虫の音に保育器の吾子寝入る
鈴虫や湯加減尋ぬる祖母の声
鈴虫やランタンで見る星座標
鈴虫やリード引摺る迷子犬
玄関先鈴虫の音に留められ
順番に鈴虫翅を閉じて朝
鈴虫やペットショップの犬の陰
鈴虫に飼はれる人の居るといふ
鈴虫や一人になりたきこともあり
鈴虫の声しつらへて蟄居かな
嵯峨野には嵯峨野の声や月鈴子
鈴虫や留守居預かる賑やかさ
鈴虫の鳴けばこぼるる露のあり
鈴虫と付き合いつひに夜を徹す
どこで鳴く籠から逃げた鈴虫よ
鈴虫の音流るるや夕間暮れ
鈴虫の声にぎやかに夜の道
鈴虫や合宿の灯の消ゆる頃
鈴虫に部活帰りの子らの声
鈴虫を聞きつつそぞろ歩きかな
鈴虫を真似て高音出してみる
鈴虫を田舎で聴いた覚え無し
親子して鈴虫飼ひて鳴くを待つ
鈴虫や砂時計には銀の砂
ユーチューブで鈴虫鳴くや句もありし
我がためにふる鈴虫の野邊送り
鈴虫にパソコン仕事音を消す
鈴虫は宅配便のコンテナに
鈴虫の籠の土産を喜ばれ
鈴虫や貰い手のなき三輪車
鈴虫に財布の鈴の少し似て
鈴虫や眠れば眠るほどに鳴き
鈴虫や黄泉の国より誘い来る
鈴虫の声がときどき音になる
鈴虫の声一尺の箱の内
暫くはラヂヲを止めて鈴虫か
鈴虫や菜は自由形直売所
担任の鈴虫かなでる教室で
鈴虫の鳴き声細き物価高
鈴虫の歌ひ合ひいや語り合ひ
鈴虫の雄と泣きたし散歩道
真夜中のトイレ鈴虫鳴き止まず
鈴虫やサラダ分け合ふ仲となり
鈴虫の母の瞼を開きけり
鈴虫や閨に行く頃見計らう
鈴虫を聞くため補聴器直しけり
踏ん張って鈴虫ささやかに叫ぶ
鈴虫の瞬かせたる星あまた
本州の草に鈴虫縋りけり
鈴虫の獰猛さ見て泣く幼児
家系図のもつとも上に月鈴子
鈴虫も本の虫なる吾も夜明け
鈴虫や寝入りの夢にたゆたゆと
共喰の鈴虫今を鳴きつくす
都へは飛べぬ鈴虫鄙に鳴く
鈴虫の夜は深まり音のそそり
鈴虫やうち忘れし碁盤の上
鈴虫や隣の庭の居候
鈴虫や隣家の窓辺声やさし
鈴虫を買いやる孫の吾になく
鈴虫や小石積まれし兵の墓
鈴虫の声聴く時のささめごと
鈴虫を弟に見せ得意顔
鈴虫や窓から夜に掴まるる
鈴虫やテールランプの遠ざかる
透明な闇の向こうに月鈴子
鈴虫やハローワークに籠二つ
鈴虫やノート三冊置く駅舎
鈴虫や風の澱みし伽藍堂
鈴虫の音色重なりシンフォニー
高鳴りの音に闇膨れ月齢子
鈴虫の高き樂噐も素性哉
鈴虫や静かにかたる野の言葉
喉奥に鈴虫鳴らすほととぎす
うす紙に一滴のみづ月鈴子
星の数ほどの鈴虫父独居
我と妻推しの鈴虫ありにけり
鈴虫やベッドの母を目覚めさせ
鈴虫や三対一で決戦し
鈴虫や闇に紛れてかくれんぼ
鈴虫や夕焼け小焼けかくれんぼ
鈴虫にこの地の訛りあるや聴く
岩船のしんと沈みて月鈴子
鈴虫に混じりて長き保留音
鈴虫や捨てられし舟を住処に
鈴虫の埋むる妻との会話の間
日中と違ひ鈴虫いちやいちやす
鈴虫や新幹線で帰京せり
鈴虫と我のみ釣果待ちてをり
鈴虫今宵渾身のピアニッシモ
鈴虫や地獄の門で妻を待つ
鈴虫や今宵も服す入眠剤
鈴虫の家と呼びける生家かな
鈴虫やりーんりーんと涼やかに
しかと声されど鈴虫少数派
鈴虫が小山に登つて行くところ
鈴虫や寝そべって聴くモーツアルト
鈴虫の声のかすれへ霧吹きぬ
鈴虫や父の晩酌三本目
鈴虫や瀬戸の小島の闇深し
鈴虫の悪食それも音色かな
鈴虫や待合室の混み合へる
目覚むれば真夜の鈴虫ひそやかに
すさまじき雌の鈴虫雄を食い
鈴虫やあと二ページのミステリー
鈴虫やいまわの母にその声を
鈴虫の籠ごとにある悲鳴かな
鈴虫の髭をセンサーライトかな
鈴虫は足を延ばして野宿かな
鈴虫の卵は青き爪のごと
大切な籠に貴重な月鈴子
鈴虫の広さに窓のありしかな
星月夜鈴虫の音の光りだす
鈴虫や永久の別れとなりにけり
鈴虫にまかす読書のBGM
鈴虫や波音流すラジオ局
鈴虫鳴くや駐在は巡回へ
鈴虫の籠と庭とに呼び交はす
鈴虫や禁酒の理由は話すまい
兒の殖やす鈴虫だけは昭和村
鈴虫の演奏 前に図鑑置き
鈴虫の声ラインのせ孫のもと
鈴虫に急かされて打つ一手かな
鈴虫や翅をふるわせ身じろぎぬ
鈴虫が喜んでいる月の空
鈴虫の寝入るや闇の車中泊
鈴虫鳴けば壁の薄さよ
和子さん昇竜拳とうっ鈴虫か
鈴虫のゆつたり夜をひつぱりぬ
一匹となり鈴虫の髭白し
鈴虫や子のプラモデル手直しす
共食いの鈴虫怖い雌ばかり
戦世を生き延びし鈴虫の裔
鈴虫と挙りて急かすプロポーズ
草むしりしたる夜の鈴虫遠し
鈴虫の夜通し鳴いて眠られず
鈴虫や触覚の揺るダウジング
鈴虫や都の夜の雅かな
鈴虫や窮屈さうな長いひげ
足音に心置かじな鈴虫は
レンタルのコンテナ鈴虫のすだく
鈴虫の籠に隠るる雄と雌
検校の聴き分くる鈴虫のこゑ
鈴虫はチェーンの餃子屋の裏に
鈴虫を団地のどこで飼ひたるや
救急車過ぎて鈴虫盛り返す
鈴虫の甕の置かるる村役場
鈴虫の夜を焦がれて鳴かずゐる
鈴虫や耳のかたちを描きあぐね
鈴虫や夜間飛行の尾翼灯
鈴虫が黙る悪友忍び込み
鈴虫の羽の震えが恋の詩
コンビニの少女うつむく月鈴子
鈴虫の声を聴かせる無人駅
鈴虫やチェロの居座る純喫茶
鈴虫の雌のさぞかしあえかなる
鈴虫や彷彿させる美空ひばり