兼題「夜の秋」__金曜俳句への投句一覧
(8月30日号掲載=7月31日締切)
2024年8月9日3:52PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
夜の秋は夏の季語です。晩夏になると、夜はすでに秋の気配が漂っていることをいいます。
さて、どんな句が寄せられたでしょうか。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2024年8月30日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂未知子さんの選と比べてみてください。
『週刊金曜日』の購入方法はこちらです。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。
予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部(伊田)までご連絡ください。
【夜の秋】
落とし物見つかるまでが夜の秋
夜の秋氷を浸す炊飯器
役所みな明かりをこぼし夜の秋
認めて出さぬ文あり夜の秋
部下一人夜の秋へとメールして
夜の秋ハーレーダビッドソンこける
バラードを歌ふスナック夜の秋
氷鳴るグラス傾け夜の秋
迷子かな地球異常か夜の秋
一区画余分に歩く夜の秋
夜の秋の鏡にわれとわが影と
救急音長く聞こえる夜の秋
幾本も鉛筆削る夜の秋
雨音に一枚羽織る夜の秋
スリッパについ只今と夜の秋
ワイシャツの人増えてくる夜の秋
竹を雨つかのま鳴らす夜の秋
宿題の私はここよ夜の秋
軽羹を紅茶に添へて夜の秋
テーブルに貝殻ならぶ夜の秋
潮風をふふむ玉串夜の秋
遠くより我を呼ぶ声夜の秋
真つ黒なベスト取り出す夜の秋
ホルマリン臭の女や夜の秋
らしくないことをまた言ふ夜の秋
夜の秋ロックグラスにジンの鳴く
愛読書買ひ叩かれて夜の秋
絵ガラスの仄かに灯る夜の秋
夜の秋象なきもの舞い已まず
夜の秋吾の線香として煙草
夜の秋芋をふやかし風あたり
夜の秋隣家の騒ぐ声がする
夜の秋声なき声を待ち侘びて
鳥籠の鳥と目の合う夜の秋
石垣に付きし水滴夜の秋
ああやっと乗りきったよね夜の秋
夕暮れの企て未遂夜の秋
夜の秋明日になれば秋の夜へ
孫たちは受験勉強夜の秋
子等去りて静さに慣れ夜の秋
長編を取り出しめくる夜の秋
離婚後のいつも独りの夜の秋
明日から幸せ太り夜の秋
手ぬぐひを椅子の背に掛け夜の秋
夜の秋書斎煙らす都会人
夜の秋縁台将棋いま佳境
黒猫のゆつくり動く夜の秋
大樽を洗ふ水音夜の秋
夜の秋闇に重なる透ける翅
剥製のガラスの目玉夜の秋
馬鹿みたいに欠伸のつづく夜の秋
レコードに針を落とせり夜の秋
夜の秋の母が焙じる茶の香かな
居酒屋の常連として夜の秋
夜の秋静けさばかりなりにけり
手相見のひとり新顔夜の秋
厨から明るい声す夜の秋
癌と云ふ告知を受けし夜の秋
夜の秋の誘導灯の指す扉
人に逢ふ顔に直して夜の秋
夜の秋夢のうすかわ摘まみそこね
夜の秋ポトフのウインナーに傷
少年の俤にして夜の秋
夜の秋港は生臭く眠る
桟橋の星へ張り出す夜の秋
夜の秋星の帰結を描く詩
ひとり立ちひとつ空く席夜の秋
夜の秋また髪の毛の減りにけり
広縁に微かな灯り夜の秋
踵から始まる眠り夜の秋
騒めきも遠くなりゆく夜の秋
夜の秋のミシン油の匂ひけり
夜の秋風に転がる枝を踏み
北国は暮の秋からおもしろし
夜の秋そこは畳が沈む場所
散骨の海の波音夜の秋
銀髪に風呂上がりの香夜の秋
月仰ぎ兵士よねむれ夜の秋
たたかいに疲れし兵士夜の秋
本棚に蜘蛛が巣をする夜の秋
AIも夜の秋から秋の夜へ
夜の秋虫の知らせに間に合ひて
夜の秋の椅子に笑はぬピエロかな
吾を過る風の中にぞ夜の秋
夜の秋シルクロードの端の端
遊歩道色づき錆びて暮の秋
言えぬ語をただほろ酔ひて夜の秋
猫に手を置けば舐められ夜の秋
漢字辞書買ひ替へるべき夜の秋
いつ帰る父がひと言夜の秋
夜の秋郵便受けに一通か
電車音遠く聞こえて夜の秋
風包む掃除した後夜の秋
浮気まだ浮気のままに夜の秋
二人して想い出話し夜の秋
飛び上がるデスクの脚に暮の秋
静けさや背後に立てる夜の秋
結界の生成りの幣や夜の秋
満員のバスを見送る夜の秋
物置の前で分別夜の秋
夜の秋地下水脈の音静か
たっぷりと湿るタオルや夜の秋
色変はるハーブリキュール夜の秋
夜の秋散歩でいつも出逢う方
西日射す暮の秋こそ貴けれ
みな部屋に戻りて居間の夜の秋
凌ぎきった木々に水遣り夜の秋
夜の秋あたまは脚の下にあり
初風呂の熱めに浸る夜の秋
繋りも間遠となりて夜の秋
夜の秋の微熱に畦のふくらめり
マネキンやひと足先に夜の秋
夜の秋自分の記録を読んで居る
露天湯の肌拭く風や夜の秋
小刻みに小花の匂ふ夜の秋
FMのノイズで気づく夜の秋
夜の秋各駅停車が運びくる
カップ麺注ぐ湯の沸く夜の秋
夜の秋気づかぬほどの通り雨
ポシェットに新刊ひそめ夜の秋
人形はテレビの前に夜の秋
積ん読の本を枕か夜の秋
水割りの氷カランと夜の秋
雪見障子上げて静かに夜の秋
マグカップに水道水を夜の秋
夜の秋喪に服したる山萌える
夜の秋五十女の反抗期
夜の秋の手櫛に抜けし髪白し
遍路笠同行二人夜の秋
夜の秋妻がコーヒー聞いてくる
淡々と夜の秋のこゑ鎮まれり
露天まで降りる階段夜の秋
夜の秋貧乏揺すりが止まらない
陸路にて超ゆる国境夜の秋
夜の秋隅田川端帰り道
夜の秋や古き汚れの道路地図
谷渡る風の調べや夜の秋
山周の人情本や夜の秋
スマホ手に俯く頬に夜の秋
階段の暑熱の緩む夜の秋
夜の秋久方ぶりの長電話
夜の秋なめろう味噌を混ぜてゐる
夜の秋すぐそこにある恋終わる
迷路めく宿の廊下や夜の秋
秋の夜を偲ぶネシアの夜の秋
申し子のように舞う舞う夜の秋
官邸にシュプレヒコール夜の秋
何処ぞよりピアノの音や夜の秋
油断して痒い痒いと夜の秋
飼い猫の行儀よくなる夜の秋
片つぽのピアスの曇り夜の秋
夜の秋縁台将棋の千日手
夜の秋纏ふベストの紺深し
ボルゾイの舌ゆらゆらと夜の秋
冷めゆきて僅か反るピザ夜の秋
夜の秋ぼそつとジョアン・ジルベルト
夜の秋や時報の音色変わらねど
夜の秋教えてくれるジョバンニよ
ひとり食う音よく響く夜の秋
だらだらとラジオ聴きつつ夜の秋
風とゆく竹林の道夜の秋
さよならの小さき花束夜の秋
月蝕の聞こゆるやうな夜の秋
夜の秋の祖妣の書棚に凭れけり
ざまみろと歪んだ口や夜の秋
水中にみづいろの皿夜の秋
夜の秋色ほどけゆくティーバッグ
夜の秋子に諭さるる幸せよ
夜の秋森のほとりの灯の賑わい
引き潮の足につめたき夜の秋
送致書にキラキラネーム夜の秋
草むらに野良をさがして夜の秋
パソコンの画面拭き取る夜の秋
二階屋の女の眉や夜の秋
夜の秋かかりて消ゆる帰り道
男湯のとなり女湯夜の秋
妙案も珍案も出で夜の秋
沈下橋坐して頬風夜の秋
背中越し寝物語の夜の秋
湯あたりを微風で冷やす夜の秋
暮の秋クリーニングのタグむしる
夜の秋思ひもよらぬ物の出づ
さまよえば声がしたよな夜の秋
アスファルト夜の秋有る散歩かな
夜の秋しばし湯の出る蛇口かな
電線の鳥たち増える夜の秋
夜の秋結んだ星座アンパンマン
雨霏霏と騒音のしじま夜の秋
夜の秋生きろ生きろと老犬に
火葬待つロッカーあまた夜の秋
カラオケの声を抑へて夜の秋
寝返りのシーツひやりと夜の秋
妻なにか煮物つくれる夜の秋
静けさにバイク暴走夜の秋
夜の秋一声叫ぶ物の怪や
猫先に感じとるらし夜の秋
夜の秋騒音絶えて町はずれ
夜の秋即席麺の香りたち
妻子はや寝ぬ独り身に夜の秋
吾子寝顔頬ずりするや夜の秋
夜の秋海に向き合ふ合宿所
一俵を担ぐ片肩夜の秋
晴れた日はただ星を見る夜の秋
夜の秋退官惜しむ遠汽笛
夜の秋素粒子物理研究所
これきりと思う呼び鈴夜の秋
身の廻りさらさらするぞ夜の秋
夜の秋の朝採り野菜入りカレー
寡婦一子就職試験夜の秋
球場の熱戦のなか夜の秋
夜の秋の皿に錠剤入れておく
窓開けて入り来る風や夜の秋
うつくしき脇の窪みや夜の秋
ベランダに出てアルタイル夜の秋
カチカチとシャーペン鳴らす夜の秋
夜の秋綺麗な音色電気ケトル
夜の秋瀬田川下る浚渫船
夜の秋漂う芋の香りかな
夜の秋窓を開けてはいけません
いつもより混ぜし納豆夜の秋
映画館出でて街並夜の秋
前開きのパジャマ揃へて夜の秋
夜の秋浜で三線弾く漢
卓上にカフカ全集夜の秋
にぎはひをはづれて夜の秋ひとつ
夜は秋に田の一枚の起きてゐる
雨上がりビルの樹海の夜の秋
川尻を磯の香のぼる夜の秋
噎せる日の終はりは哀し夜の秋
食卓に汗かくグラス夜の秋
窓明かり消えゆく電車夜の秋
女湯にまもなく替はる夜の秋
残り香の深まる時間夜の秋
夜の秋夫婦で歩く魚市場
夜の秋止む気配なき泪雨
全集に欠くる巻あり夜の秋
花束に半値の値札夜の秋
夜の秋や漢字パズルを解き始む
夜の秋一人称をウチに決め
駅ホーム一人になりて夜の秋