兼題「稲妻」__金曜俳句への投句一覧
(9月27日号掲載=8月31日締切)
2024年9月22日11:08AM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
稲妻は、稲の夫(つま)の意味です。稲が雷光と交わって実るとの言い伝えから、この名前になりました。雷鳴が聞こえず、光だけが見えるものを指すことが多いですね。
さて、どんな句が寄せられたでしょうか。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2024年9月27日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂未知子さんの選と比べてみてください。
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※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部(伊田)までご連絡ください。
【稲妻】
稲妻にこの地の主峰夜に聳へ
駆けめぐる稲妻を追う大音声
いなびかり妻の横顔きれいだな
稲妻の無言のままに夜を截てり
稲妻に這入られている駐屯地
稲妻や豊かなる田を現はしむ
稲妻が落ちて育む農産物
稲妻を帰るいつもの千鳥足
雨乞いで稲妻がなる天の恵み
稲妻や一反木綿追つてくる
稲妻や不意にすべてがなつかしく
鈍色の雲を支えし稲妻よ
稲妻や変わらぬ窓の娯楽かな
稲妻や海に落ちゆく千枚田
稲妻や米取れぬ里喧し
稲妻をくぐり母の背丸き土間
稲妻や断崖を鳶落ちるごと
稲妻や都会の株も穂を垂れる
彷徨し走る稲妻爆心地
稲妻の冥き海へと落ちゆけり
連山の襞きはやかに稲びかり
稲妻やスチール弦に血の滲む
稲妻や積み上がりたる未読の書
連立の稲妻長時間露光
稲妻よ吾に触れぬやう根を伸ばせ
稲妻やうるさいほどに母の後
稲妻やピカピカッピカと走り過ぐ
水無しの水路稲妻映り込む
不気味なる階段のごと稲光
稲光行儀良い子にしたるかな
稲妻の音も筆洗器で洗う
稲妻の夜のタクシーつかまらず
稲妻に引き裂かれたる夕の空
稲妻が雨粒ぼたりぼたり産む
稲妻や部屋の真中に踞る
絶頂の声押し殺す稲光
病棟の十六階の稲光
満天を駆ける稲妻何探す
稲妻や生中出しの子宮口
稲妻にうたた寝をする昼下がり
稲妻やまだ伸び切らぬ爪を切る
稲妻に照らし出された乙な顏
稲妻や砕けて白き波頭
稲妻や広場の椅子に座すピエロ
尋ねたき事があります稲光
いつにても恋は稲妻我を撃つ
稲妻や斑らの雲が迫り来る
稲妻が日曜六時半乱す
人生の變らぬ帰宅稲妻に
稲妻の濃き一直線落ちたらし
合鍵の行方は知れず稲光
大木に稲妻の太刀見舞れる
稲妻になり少年の片想い
キャンセルの理由にされる稲妻や
稲妻や夜空切り裂き闇に消へ
稲妻や市場駆け込む米不足
切り札の笑ふジョーカーいなつるび
上空に木を裂く音やいなびかり
傘を捨て稲妻避くるガード下
沖を打つ稲妻漁夫とその孫と
沖に杭打つ暴走へ稲妻す
稲妻を聞きてまどろむ昼寝かな
稲妻に目覚め屍仁王立ち
稲妻に立ち上りたる卒塔婆
稲妻に髪振り乱し騒ぐ森
稲妻を待つ判決を待つごとく
稲妻や走る隠れる人の様
いなびかり絵硝子の主の顕現す
山の型雲の形や稲光
稲妻や古来この地は勅旨田
戛々と上がる階稲光
稲妻を妻と一緒に見たりけり
稲妻や老犬の伏す山の駅
稲妻やアンプつながず弾くギター
稲妻や同じ姿勢のホームレス
稲妻や南海トラフ怖がる母
稲妻や今日の夕餉はカレーライス
稲妻の音だけ聞こえ曇り空
稲妻の通らぬ道を帰る夜
稲妻を回避する道帰り道
稲妻やはたと泣きやむ注射の子
稲妻のひとつに夜は昼を見す
稲妻の光ると同時数かぞえ
稲妻や寝静まりたるニュータウン
稲妻やドラマの衝撃効果増し
稲妻やいつも夫の右側に
稲光くると構えど外る当て
たどたどし一本杉に稲妻よ
叢雲の合い間を縫うか稲光り
稲妻のあらはとなせる孤樹の影
いなびかり昭和の薄き書物にも
稲妻や兵士の列の乱れをり
稲妻の青紫に轟けり
あの人の眉似る末子いなつるび
栃木では疲れを見せぬ稲妻よ
遠き空稲妻走り帰路急ぐ
遠山の向かふの稲妻雨を欲る
いなびかり古い印刷所のにおい
さきほどの稲妻のこと聞き返す
稲妻が光る夕方雨模様
稲光吠えつつ犬の後退り
稲妻の閃や離婚の三文判
稲妻の錐揉み入るは誰の墓
稲妻や三拍遅れ物理学
稲妻や三河に多き一揆寺
稲妻や跳ねる光と響く音
稲妻の北斎描きし形なり
夜のふりしきれぬ空をいなびかり
夏フェスの開幕告げる稲光
稲妻の両国に立つのぼり旗
稲妻のような別れに水面揺れ
稲妻や錻の兵は目を閉ぢず
稲妻や少女の両手耳塞ぐ
稲妻の音ひとつなく眠りける
稲妻に白き女体の浮かびけり
稲妻や夜空の罅を煌かす
暗闇に濃淡のあり稲びかり
稲妻や杜の都に旅枕
稲妻や入浴剤の色は白
稲妻の残像として伽羅の香の
愛する人が待つているいなびかり
稲妻にモカ珈琲の三杯目
稲妻や田畑は闇へ呑まれそむ
稲妻の湖面に映る黒い雲
聞こえない耳へ稲妻走りたり
怒ってる稲妻柄のTシャツを着て
稲妻に時計の針の直立す
稲妻の走る夕空轟きて
ひび割れのあるかなしかの稲光
稲妻や蹲踞の態の烏城
稲妻が稲穂実らせ頭垂れ
稲妻や雨戸だらけの部屋ひとり
隻眼のビスクドールや稲光
稲妻や今宵包丁よく滑る
稲妻の切り裂く夜の地平線
いなびかり丹波の山の奥の奥
稲妻や裁ち鋏のごと蒼裂きぬ
母の顔半分ひかる稲光
みちのくに集村多し稲つるび
いなびかりわづかに動く猫のひげ
ランドマークぞくつと白む稲光
いいことそしてわるいこといなびかり
稲妻の音の刹那に問う明日
図書館のジュブナイルの棚稲光
稲妻や煌めき頭上覆ふなり
稲妻やかすか揺れたる新婦席
稲妻にふつくらなりし猫の尾よ
山を割る稲妻辺り白くなり
稲妻や水出し緑茶待つあはひ
稲妻をラインで交わす母娘かな
稲妻の下にわが母おはすらむ
稲妻や納屋に積まるる竹細工
稲妻や欠伸おほきく茶白猫
稲妻に独りの寝相たださるる
雲間から稲妻かすめ鳥の影
稲妻を指すわが指の若やぎぬ
稜線の稲妻一瞬雨匂ふ
稲光夫には夫の夜の顔
いなづまや光を回す観覧車
突然に稲妻来たる投票日
稲妻に稲田僅かにざわめけり
稲妻や青筋たてて天怒る
稲妻の遠ざかりゆく夕かな
汽水湖のおもてを走る稲光
稲妻の窓を悪阻のをんな見る
稲妻に魘され屍輾転反側
稲妻に話題が変わる通学路
三味線に誘はれゐるか稲光
稲妻や花火に代わり土曜ごと
稲妻の清めは豪雨となりにけり
稲妻や神の精子の量・速度
稲妻に追われ奈落へ夢階段
稲びかり腹蹴る胎児宥めたり
稲妻へ駆ける左衽の女かな
稲妻や動物園の不協和音
網膜に焼き付く海や稲光
稲妻に止め刺されてノーゲーム
稲妻に浮ぶあなたは別の人
稲妻や各駅停まる一人旅
稲妻や秩父の谷の関所跡
稲妻を味方に付けてもう一献
稲妻に保育器の吾子拳振る
ビル街のひとつ貫く稲光
稲妻や水は器に開花して
大木を叩き割ったか稲妻の
稲妻の刺して大地の揺るる様
稲妻や直ちに止めるパーパット
一瞬に異世界となる稲光
稲妻を見上げる勇気心掛け
稲妻のドラゴンナイトショー始む
独り言稲妻にさへ語りかけ
稲妻の一閃巨漢を机下
いなつるびにはかにみづのなまぐさく
稲妻や子供らの声散りじりに
積読は斜塔のごとし稲つるみ
稲妻に夫の背すこし撓みけり
稲妻や古里巡るバスの旅
溢るる水稲妻隠すゲリラ雨
稲妻や詮無きことの鬩合
稲妻に追われて泣くはきかない兒
稲妻や異教の神をみるやうに
稲光怒りあらはな鬼瓦
てのひらに稲妻の尾の残りけり
稲妻や切れ味試し新包丁
片袖を濡るるにまかせ稲光
稲妻や受胎告知は突然に
動脈に稲妻走るカテーテル
真夜中のメール稲妻より受信
稲妻のうごめいており雲の渦
稲妻が指す赤道のある方を
稲妻や天井裏を酢が匂ふ
夫婦とはいかなる呪ひいなびかり
稲光すくつと育つ千枚田
稲妻といふ故郷の大切火
稲妻の裏側を鳥翔りけり
カンヴァスの夜空はみ出づる稲妻
稲妻や閉じた地球の天を衝く
稲妻のやや斜め落ち石畳
いつだつて突然ですよ稲光
稲妻や龍の天より降りきたる
稲妻が口喧嘩さえ無口にし
甲板の煙草しけゆく稲光
稲妻やもつとも厚きてのひらへ
いなづまに雀のわつとせり上がる
説教は長く稲妻暫し黙
稲妻やムンクに叫びの絵のありて
稲妻よ何に怒りて世に落ちる
白昼の稲妻静脈の逆流
盛り上がるパネル稲妻北東に
稲妻の夫となりて恵む糧
稲妻や腹下にして吾子眠る
稲妻や傷口とナイフは双子
葬送の日の稲妻は灰緑
稲妻や心配よそにコメ実る
稲妻に刺されず独り山に寝る
稲妻やビルの谷間の静けさよ
妻訪いの稲妻ならむ音遠し
いなづまや一瞬すぼむ花時計
稲妻が光りて雨が降りしきる