兼題「雛流し」__金曜俳句への投句一覧
(2月28日号掲載=1月31日締切)
2025年2月11日9:17AM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
雛流しとは、桃の節句に飾った紙雛などを海や川に流す風習です。
さて、どんな句が寄せられたでしょうか。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2025年2月28日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂未知子さんの選と比べてみてください。
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予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部(伊田)までご連絡ください。
【雛流し】
捨ててより軽さの至福雛流し
水底の都は遠し流し雛
名を持たぬままに雛の流さるる
水見詰め木々を見詰める雛流し
俗塵を流し落とすや雛流し
増水の玉川上水雛流し
雛流すスマートフォンを落としけり
静けさは木箱ひとつの雛の舟
雛流し母も娘も袖濡らし
見送られ見送る汀雛流し
川が綺麗じゃなきゃ出来ない雛流し
淡嶋の災い流す雛流し
雛流し少女いつしか老いにけり
雛流し御伽話の庄屋の娘
雛流し手放すための指の熱
選びたるやさしき波へ雛流し
遺伝子や赤い縁と雛流し
雛流し郷土の習し数多集ふ
雛人形イチャイチャ下る雛流し
補陀落へ極楽浄土へ流し雛
雛流し網にかかってどこへ行く
橋一つくぐれば迅し雛流し
雛流し出会いと分かれ川の道
雛流しミルクを垂らすカプチーノ
やがて出る大海知らず雛流し
雛流し岸辺の流れに手を離れ
そこそこの未練ありけり雛流し
あくがれて発つ旅ならず雛流し
オフィーリア指先掠め流し雛
雛流し双子裂く母半身に
疾病のややぎこちなく雛流す
うみ風に小さき白波雛流し
締め切りはとうに過ぎたか雛流し
瀬戸際に渦を逃るる流し雛
佳き人の目にも留まれと雛流し
雛流し下で網持つ回収者
フレックス勤務善し悪し雛流し
雛流すこの一瞬に集中し
糸の目に星を映して流し雛
君と逢ふ咎を移せり流し雛
雛流し暫し目で追ふ吾と吾子と
雛流しまはりはじむる恨の渦
提灯の水面に映る雛流し
手品師の次々と出す流し雛
雛流しいやだいやだと三歳児
雛流し蒼穹仰ぎ夢現
漂泊の夕逆波や流し雛
水中で手を振るやうに雛流れ
最後まで残る黒髪雛流し
遠富士へ吸込まれ行く雛流し
雛流し幾夜の部屋の香り乗せ
吾ひとり名もなき川の雛流し
雛流しエプロンに顔埋める子
白酒の濁りを伴に雛流し
泣かぬやう顔描かぬ雛流したり
過呼吸の地球ざわざわ雛流し
雛流し若き海上保安官
雛流しその眼に涙あるやうに
流し雛娘の子へと願かけて
せせらぎに消さるる小言流し雛
流し雛手向の花に押されけり
雛流し云へぬ思ひを託しつつ
水の香を指に残して雛流し
雛流し街の速さに慣れぬまま
流し雛銀河好みし雛もあれ
渦潮に洗われてをり雛流し
巫女たちの手から小舟の雛流し
雛流し消えるに速し波のあり
雛流す日和良き日の行く手かな
鶏鳴の水面はためく雛流し
雛流し川のさざ波君の歌
手の波を立てつつ流す雛かな
縫ひ目無き天衣もろとも雛流し
いざ行かむ七つの海へ雛流し
他の雛とすぐに繋がる雛流し
白日や薄目に仰ぐ流し雛
雛流し精一杯に手を伸ばし
北上のとある支流の雛流し
雛流し小川のひかりいや増せる
落陽へ吸ひ込まれゆく雛流し
雛流し置くに相応し流れなり
単身も同性ペアも雛流し
せせらぎの水に溶けゆく雛流し
行き涯ててう俚言ありとや雛流し
両親と小さな子ども雛流し
両の手のそっと別れて雛流し
雛流し拾いに行くと駄々をこね
雛流し濤に濡れしし眼を我へ
花街は友禅色の雛流し
湧水の川を下るや流し雛
雛流し娘は村を捨てにけり
雛船の流れて沖へ帰りける
雛流しばらばらに住む三姉妹
川波の五指に及べる雛流し
雛流しどんぶらどんと桃太郎
暮れきらず何処まで往くや流し雛
雛流し前がつかへてゐたりけり
面差しは遠音のごとく雛流し
人波のくずれて追ふや流し雛
園児らは競ふ如くに雛流し
姉の名を呼ぶ妹や雛流す
雛流し久々に出る部屋の壁
ときどきはうしろ向きなる雛流し
堰の底おもい果たせぬ雛流し
雛流し怨みがましき聲を聴く
大声も消えゆく闇に雛流し
雛流し母に娘は我ひとり
雛流し遠くまで行くどこまでも
軋む音のマジックハンド雛流し
小さき波を越えて空見る流し雛
児のちらほら婆のあまたや流し雛
流し雛蛭子を葦の舟に乗せ
雛流し波に隠るる宵の富士
回収の小舟待機の雛流し
彫り浅き子どもらの顔雛流し
立木揺れ雛の流るる小川かな
折り雛の仰向けの空雛流し
雛流し瀬波しばらく落ちつかず
月、木や雛を流せぬ神田川
雨にもう濡れたる旅や雛流し
課長にもしたきことあり雛流し
白浜と呼ばるる岸や雛流し
川岸に軽き光や流し雛
星ひとつづつ消えてゆく雛流し
我が指を離れし刹那流し雛
流し雛娘は独身主義のまま
友達ができますやうに雛流し
雛流し水平線に地平線
雛流しカフェオレ飲むか飲まないか
曾孫来て白寿の母の雛流し
ドローンが低空を飛ぶ雛流し
水底は昏し舵なし雛流し
水に飽き水に溶けゆく流し雛
雛流し童女が祈る国の末
回収を承知で流す雛流し
雛流し白き小舟に託す夢
とうとう雛流し川瀬もしき
雛流し流るる先を子ら知らず
母の背は小さくなりし流し雛
雛流し誰にも告げぬ再検査
行先の知らされぬまま雛流る
流し雛岸辺の草に囚われし
流し雛むかし仏を曳きし浜
流し雛あいさつ長き別れかな
雛流すいづこも瀞の只見川
砂丘の雛流しらくだの居て
眦を此岸に舫う雛流し
せせらぎに吐息乗せゆく流し雛
我が身さえともに見えずに雛流し
大会は雛流し含み川のそば
雛流し仰ぐ大空夢去来
ためらひつ水面に置くや流し雛
流し雛みな優しげで哀しげで
流し雛下の橋にて見失ひ
せせらぎの流れゆくまま雛流し
すれ違ふ法師の椀か流し雛
孫抱く父に苦笑の雛流し
雛流しいづれ美形となる家系
園児らの唄声響く雛流し
鼻先の欠けたる雛の流れゆく
かの人の指うつくしく雛流す
思い出は三歳止まり雛流し
子を背負い母の手を引き雛流し
雛流し孫に会うのはいつ以来
さよならの嫌いなあの子雛流し
袖口をあえかに濡らす雛流し
雛流し娘巣立って日が長し
雛流し臨月の妻目を細め
岸撫づる水に託して雛流す
海底の都賑わせ流し雛
川風の女のにほひ雛流し
雛流し殊に唇荒れしまま
雛流し水平線に油送船
手首まで海の青さや流し雛
堰板にせかれて行けぬ流し雛
自堕落なヒト科ぞろぞろ雛流し
雛流し水面に映る昭和人
流し目を交わしておりぬ流し雛
雛流し宵なお明かしはろばろと
立雛の身じろぎもせず流れゆく
門川の流れ変はりぬ送り雛
雛流し三途の川へ至りけり
山伝い里へ届きし雛流し
雛流し目印付くる桟俵
雛流し兄と父とが見守りて
雛流しちさきボートの旅を押す
学び舎の隅でひっそり雛流し
雛流し県を跨げば信濃川
旅立ちへ遠目の雛沖つ波
流し雛親の願いの切なさよ
雛流しひそかに告ぐる恋心
流し雛浪越ゆるとき天仰ぎ
雛流し柔和な顔の父ばかり
悪人として神妙に雛流す
黙の中同性ペアの雛流し
浪の間に雛の舟ゆくゆらゆらと
風筋をさぐる藁立て流し雛
にはたづみ流るる先の雛流し
紀の国の海に流さむ紙の雛
鈍行の風に運ばせ流し雛
雛流し折りが悪くて直ぐ沈む
白山の風に吹かれて雛流し
雛流し人波に流され通勤
捨雛のように見えるやフジテレビ
船宿の端よりいでし雛流し
草なびく風の方角雛流し
合掌のかすかに揺れる流し雛
壮観な雛流しです遊びたい
雛流し亡き人近く遠くなり
けふからは小さき暮らし雛流し
「ありがとう」吾子の顔めく雛流す
寄せ書きは年下ばかり雛流し
指先に風のひと押し雛流る
雛流しそっと別れを受け止める
雛流し心中歌うノリノリで
涙溜め手を振る子や雛流し
形代にハングルのある雛流し
焼けた日の雛はいずこに流したか
白昼の夢より出でて雛流る
そろそろか三途の川の雛流し