兼題「薄氷」__金曜俳句への投句一覧
(2月28日号掲載=1月31日締切)
2025年2月11日9:22AM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
薄氷(うすらひ)とは、春先に寒さが戻り、うすうすと氷が張ることです。溶け残った薄い氷を差すこともあります。
さて、どんな句が寄せられたでしょうか。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2025年2月28日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂未知子さんの選と比べてみてください。
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※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部(伊田)までご連絡ください。
【薄氷】
薄氷や曳かるるやうに駅へ駅へ
薄氷やあたりあれども坊主かな
薄氷は龍の鱗のやうに割れ
嘘通りひやひやし出す薄氷
薄氷の下に不記載見えており
薄氷を次々と踏む足軽く
うすらいの箔の剥がれしほの明かり
薄氷やアルト不在の三重唱
薄氷に映る人影登校す
寝坊して薄氷となる通勤路
薄氷に滑り来る野鳥風蓮湖
薄氷のように真っ直ぐ壊れたい
鳥声に震えてをりぬ薄氷
薄氷の厚み増したる日暮かな
うすらひの産まるしづかの海のよる
蓮池の薄氷溶けて藻と漂う
薄氷を踏みて駆けるや始発列車
うすらゐの日を置きしまま流れそむ
薄氷に長年の職もう辞する
薄氷の月光うけて息白し
薄氷に市内放送響きけり
薄氷を踏みて一つの恋忘る
うすらひに板を渡せる煎餅屋
薄氷やベビーカー押す若夫婦
薄氷を浮かべて凸凹の水面
見て理解それでも確認薄氷
うすらひを踏むや世界はこなごなに
うすらいに乗つて後悔はじまりぬ
子どもには薄氷怖し年寄りも
畦踏みて薄氷の音聞こえけり
なよよかにうすらひ落ちて逆さ富士
さよならと骸の犬の薄氷日
薄氷に戦争ですかと話しかけ
薄氷を無心に割ぬ幼児かな
薄氷鯉が上がりて割りにけり
薄氷にひっそり紅さす山のかげ
剣先の上の青眼薄氷
薄氷にうっかり足を取られけり
薄氷彼岸此岸の境かな
子の指の細さ薄氷浮きて消ゆ
水べりを去る薄氷の空まはる
群鴉放ちうすらひさまよひぬ
通学の子ら薄氷を踏みながら
薄氷を跨ぎきれずに始業ベル
薄氷や離婚届を書き損ず
失業も板につきたり薄氷
うすらひや玻璃を透かして去年紅葉(こぞもみじ)
薄氷を割りたき欲望抑えけり
薄氷夜明けの音叉響きけり
薄氷の雲二三片流れけり
赤い手で薄氷をとり地に落とす
瘡蓋の少し痒くて薄氷
バス停の昼まで残る薄氷
薄氷スッテンコロリ打撲傷
薄氷や文楽のごと脚あげて
真実は春の氷とともに消ゆ
薄氷覗くとそこに婆の顔
薄氷におびえ歩みぬ浮世かな
薄氷や病み伏す友の沙汰を待つ
薄氷に透けて乳歯の白さかな
薄氷や間もなくここへダンプカー
薄氷の消ゆ蹲の水面から
薄氷やテトラポットの魚たち
薄氷や初任給上がりし気配
念には念を押してみる薄氷
薄氷避けず跨いで通学路
薄氷をレンズに仕立て仰ぐ空
薄氷を踏み路地裏の町医者へ
薄氷や水流に浮き沈む葉々
薄氷を踏んで御百度参りかな
薄氷一日でもどる潦
うすらひにひととき濃やかな落葉
薄氷ややはらか過ぎるパンである
久しぶり薄氷溶かすその笑顔
幸福は薄氷のごとしまた消える
薄氷もその言ひ訳も半透明
薄氷や古地図の川を過りたる
薄氷や明日は最後の出勤日
朝日射し薄氷融ける手水鉢
薄氷をばりばり踏んで老いの恋
薄氷や叶わぬ夢の欠片とも
薄氷を頭皮で感じるこの季節
薄氷や碁盤の目めく県都です
薄氷やかすかにどぶのにおいして
薄氷の下より覗く目玉有り
見逃すか壊すか迷う薄氷
宥されて薄氷ゆるぶ時の声
薄氷の白菜漬や山の宿
薄氷喜び舞いしクリオネら
薄氷の下に命の流れけり
荒星やバケツの底の薄氷
薄氷ごとハーブを入れたスープかな
薄氷踏んでも割れぬ登校日
血痕の残る公園薄氷
薄氷のひとひら蹲の水面
薄氷を下から照らす錦鯉
薄氷のわつて味見す手の痛し
近道の今日もうすらひ踏みにける
薄氷のエクスタシーや水に帰す
薄氷に一葉踊る湖水かな
薄氷や鴨と鷺とが向かい立つ
薄氷や僅かの風にひびの入る
つんのめる着地の鳥や薄氷
薄氷守衛は眠るこの時間
薄氷や千曲の川に瀬と淵と
薄青に暮れ薄氷に色かよふ
薄氷に口付したり 割りぬ
薄氷のあきらめる時だつてある
子は不意に横跳びしたる春氷
薄氷を割り都心への始発駅
薄氷や水も老いれば皹や皺
薄氷を壊さぬやうに陽の昇る
薄氷や光の束にちりぢりと
薄氷張ると食べ頃麹漬け
薄氷の下に我が身をおいてみる
薄氷や転移を怖れ続けたる
学び舎の三四郎池薄氷へる
子会社の身売りの指示や薄氷
薄氷や昭和の歌の流れる日
薄氷や公園遊具ひとりぼち
夜半覚めて花器の薄氷指に突く
薄氷や雀の声が変わりをり
薄氷昭和男のノスタルジー
薄氷の眩し一画子に託す
薄氷や忘れてやると言ひに行く
薄氷や池見る人のどこか似て
忘られし剪定鋏薄氷
薄氷の破片鋭く裂けにけり
薄氷へ億光年の光かな
顔と手はスマホ薄氷足の下
しゃらしゃらと薄氷鳴りて流れゆく
薄氷の割れ目に重き水流る
いくつもの薄氷を越へ地震の跡
老人の薄氷の端つこを押す
颯とゆく時を鎮めて薄氷
薄氷のやがて光をうしなへり
薄氷足で踏む気が失せにけり
さすらいのわが身がうつる薄氷
薄氷をこはさずに子はレンズとす
薄氷や初校のゲラに赤多し
薄氷肥満検出バロメーター
薄氷を転校生の割りて往く
薄氷に尖った角のありにけり
二時間は粘れとエール薄氷
薄氷を割って墓場に行く予感
薄氷へ15°新たなる朝陽
薄氷や映る顔見て叩く猫
薄氷や溶けゆくまでを見納めむ
足音を波型に抜く薄氷
薄氷を鳥の足跡二つ三つ
薄氷の底の底へと日の光
薄氷や能登のはずれで寒作業
薄氷の揺れて景色もまた揺れて
うすらひの裂け目に雲の流れ込む
薄氷や目に貯める涙てふ海
薄氷や緋鯉大きく尾を振りて
うすらひの植物園のしづかなる
薄氷を割つて奏でる登校児
薄氷を透かし光の滴りて
薄氷に微笑みかける雪女
薄氷を割る指先の細さかな
薄氷の中に空ありけふ試験
薄氷を跳びて夜勤へ急ぎけり
薄氷窓の明かりはまだら模様
薄氷をつつく傘先一年生
光芒をはんぶん透す薄氷
うすらひに水の香りが突き刺さる
融点は摂氏零度や薄氷
薄氷一跨ぎして女子高生
薄氷やタイトロープへ出す一歩
煌めきとなりて消えたる薄氷
薄氷どこまで氷どこより水
薄氷を震わす二両電車かな
いくつかの悩み薄氷薄曇
出奔やそこここにある薄氷
薄氷(うすごおり)手に取って見る温暖化
うすらひのいま何もかもたよりなく
淋しさに薄氷生るる一夜かな
境なく薄氷光る戦闘地
薄氷を吾子達壊す幼稚園
薄氷や松葉杖なる研修医
薄氷の道を進むと我が母校
薄氷どちらを着るか悩む午後
薄氷のまだ形にもならぬみづ
阿寒湖に薄氷分けて小舟漕ぐ
映画化に挑む薄氷踏み抜かむ
うすらひや山椒魚は未だ覚めず
うすらひの水底底深く眠る物
薄氷の一面一杯虹を見る
薄氷の美しきを覗く万華鏡
忘られし剪定鋏薄氷
薄氷に登校の泥光りけり
一涙に波うつ真夜の薄氷
園庭の薄氷光りて日が射して
薄氷ぬつと顔出す亀親子
薄氷に潜ったままの錦鯉
薄氷や突けば蕾のごとく穴
薄氷や魚の姿紅く見ゆ
薄氷の傷つくところ水になる
アパートに続く私道や薄氷
微熱あり額に当てし薄氷
けんけんぱ薄氷一つ丸に入れ
哲学は私とあなた薄氷
帰り道靴裏につく薄氷か
薄氷昭和の朝は遠くなり
訳ありらしき薄氷踏みにけり
しやりしやりと流るる小川薄氷
薄氷は神様の遊儚さよ
紙漉きのごとく薄氷取り上ぐる
薄氷をいたぶるやうに靴の先
山積の除染土覆ふ薄氷
薄氷や底までグシャと踏みつけて
薄氷を割った裡より黒い雲
薄氷の尻もちつきてめそめそと
鴉来て庭の薄氷突きけり
災害の島国にまた薄氷か
ぎりぎりの男ぎりぎりのうすらひ
薄氷を跨いで朝の水溜り
薄氷やガザ停戦のニュース聞く
川の淵薄氷千々に輝きぬ
薄氷に閉じ込めたるひとりごと
友達の群れ薄氷に恥じ入りぬ
薄氷の朽葉の褥大蛙(かわず)
薄氷や遠き汽笛の響く午後
薄氷の口に溶けしに能登の風
子と仔猫こそり薄氷つつきたり
薄氷に真珠の色の照りかへし
薄氷吾子らのツールフリスビー
うすらひや若き葉の香を映しをり
夕日もて鼈甲飴や薄氷
薄氷鯉の背鰭の割りて来る
薄氷にならむと水の鎮まるる
真夜中の三時に出来し薄氷
薄氷や天真と爛漫の齟齬
うすらひや光満ちたるストレッチャー
幼子や薄氷探し踏みに行き
薄氷やしづかに小枝放しけり
泥を置き薄氷一つ流れきて
メダカにも冷たき味わい薄氷
細白き首へ薄氷当ててみる
薄氷や痩せしカイロの夜勤明け
薄氷に小さき鳥のこゑ高く
記憶には無き兄のこと薄氷
ランナーの薄氷を越へ区間賞
日の満ちてうすらゐ千々に輝きぬ
告知後の薄氷に海満ちてくる
薄氷を見つつ通院十年目
薄氷へステンドグラス映り初む
せめぎ合う薄日薄氷薄笑い
薄氷を割つて奥能登復興へ
薄氷と遊べば一つ若くなる
薄氷を逃がさぬように覆いたる
一握の砂を落とせり薄氷に
薄氷夜明けとともに出勤す
薄氷を踏んで歓声通学路
葉脈に添つてゐるなり薄氷
色鬼の色見失う薄氷
薄氷割って取り出す飯の友
薄氷を夫婦別姓渡り初む
薄氷のごとき自治なり基地の島
薄氷や記憶薄れる母の笑み
薄氷を蹴って踏み出す陽だまりへ
薄氷や朝の薬の見守りへ
泡の入るべつこう飴や薄氷
薄氷今日はピアノの発表会
すべってすべって転ぶ薄氷
うすらひの一点ねらふ指の先
薄氷へ紙飛行機の着陸す
薄氷の隙間に覗く春の色
薄氷の下の命に見られをり
薄氷の解けて水面の匂ひかな
薄氷や自販機の吐く新紙幣
ぼんやりの薄日映して薄氷
薄氷に耐へし野菜の美味きあり
幼子のそつと薄氷なぞりけり
薄氷の向こうに映る君の影
薄氷や今日ときのふの間へと
薄氷を踏みつつ歩み真珠婚
【不明】
それぞれの緊張胸に初点前
出汁の香に夫も破顔のおでんかな
寒卵つるりと剥きし朝餉かな