兼題「田螺」__金曜俳句への投句一覧
(3月28日号掲載=2月28日締切)
2025年3月12日5:10PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
田螺は、タニシ科の淡水に棲む巻き貝の総称です。冬の間は池や田の泥の中に棲んでいますが、春になると水田などの泥の表面を這うようになります。
さて、どんな句が寄せられたでしょうか。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2025年3月28日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂未知子さんの選と比べてみてください。
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※差別を助長するなどの問題がある表現は、この「投句一覧」から省きます。
※上記以外で投句した句が掲載されていない場合は、編集部(伊田)までご連絡ください。
【田螺】
なんかおもしろいことないかと田螺
田螺出てこのさきずっと鄙びおり
たにし追う影の長さよ春の暮れ
吾子達が拾う宇宙は田螺かな
危険だよ田螺喰うなよ腹下す
水槽の田螺ワイドショーの舌戦
梅雨晴れや田螺の殻に虹ひとつ
田螺這いし跡の水底澄にけり
水温み田螺の道の行き交へり
影伸びて東に進む田螺かな
鳴く田螺鳴かぬ田螺も鍋の中
故郷や喝采のごと鳴く田螺
ちゆつと吸ふ唇薄き田螺かな
デジタル化ついて行けよと田螺鳴く
少年の心になりて採る田螺
田螺鳴く水面の雲に追い越され
両掌の指より一つずつ田螺
田螺這ふかすかな音のありにけり
左巻き田螺の性格変り者?
田螺鳴く言いぶん多きいのちかな
田螺鳴くわれの視線に耐へかねて
その昔田螺も喰いし食料難
空映す田の底田螺径営々
米高し田螺よ稲を切らないで
旧街道浦和見沼に田螺鳴く
いつの間に水澄むところ田螺取り
捕りすぎの田螺その日の逃がし方
田螺鳴く沼の夕日は翳りがち
遙かなる吾は小学生田螺鳴く
おもむろに田螺穴より出る準備
父の田に田螺鳴く日のこないまま
田螺ならもっと奥にもあったはず
大螺背筋の痺れ田中道
田螺這うゆるりゆるりと春の田に
探しても田螺やタガメいぬ水田
バケツさえ登れぬ田螺泡吐きぬ
田螺這ふ顔のあたりを掻きながら
田んぼ道土の冬越え過ぎたころ春の苗を待ちし田螺たち
田螺たち喜んでいる無農薬
田螺たにしお米はずつとあるかしら
鳴く田螺泥に孤独のしたたれる
サイレンに田螺驚く正午かな
田螺書けぬ我が身を恥じて丸坊主
蒼穹(そら)映す田の底田螺路造り
へそくりは辞典の裏と田螺鳴く
田螺ほど静かに歩む者はなし
幼き日田螺田んぼの数霊や
泥澄みて田螺黒々光るなり
田螺鳴く休耕田の又ひとつ
月面のやうな表層田螺這ふ
特急とタクシーで来し田螺取
大空の水面と底の田螺配線図
地下鉄の側溝の川田螺鳴く
雲乱れ闇のつくられ田螺鳴く
鋤く人の決まらぬ棚田田螺鳴く
玄関ににほひ始める田螺かな
黄道の傾ぎ確かめ田螺出ず
疎開地で田螺を食べた敗戦後
紛れなき良薬なるや田螺和
吾が道を進む田螺の愚直かな
とこしへに田螺と田螺ぶつからぬ
田螺鳴く想いの果の吾の声や
田螺取る科学部員の学徒あり
半ズボン膝まで泥の田螺取り
妻のこと思ひ出したか田螺鳴く
水口へピーフォスピーフォア田螺鳴く
虫籠に田螺を飼って楽しまん
雲水のごと歩みたる田螺かな
この先は集落ひとつ田螺かな
今日だけを生きてゐし頃大田螺
跡取りの話も消えて田螺見る
心持ち浮かせて移る田螺かな
たましひの行方田螺の奥覗く
縄文の遺跡の月や田螺鳴く
夕焼けに田螺の道の果てしなく
無農薬田螺生き生き摂理かな
うたかたを生みて田螺の歩きをり
田螺和そろそろ彼の隠し芸
つぼどんと呼びし田螺や旧友よ
水を纏う田螺水路の疣となる
田で遊び田螺の鳴き声たまに聞く
蓋を閉め闇に籠れる田螺かな
田螺など珍しくなく先急ぐ
水無くば生きられ無いのが田螺かな
分校の寡黙な子供田螺鳴く
田螺鳴く境界示す杭の白
田螺の目知らぬ景色を映す春
田を出てもホラガイなれぬ田螺かな
震災に崩れし棚田田螺鳴く
意味深な総理の笑みや田螺鳴く
寄り合いは昔となりぬ田螺汁
昼深し漆光りに大田螺
青空の映る田の底田螺径
水底のヘ音記号や田螺出ず
田螺這う石のひかりや苔の花
田螺にも汐の香りのありにけり
田舎の子このごろ田螺取らないね
田螺殻稲の肥料かカルシウム
逡巡のかたちの無限田螺這ふ
田螺には田螺の分の光かな
小流れをのたりくたりと田螺かな
ショッキングピンクの田螺おもちゃめく
放課後に行く校区外大田螺
塩茹での田螺を好む子供かな
マナーモードの携帯電話田螺鳴く
今は未だ田螺活用見出だせず
田螺取り岸に数多のランドセル
用水路住めば都の田螺かな
あれこれと思ひ悩める田螺かな
泡ひとつ田螺の夢のひとりごと
箸使ひ慣れぬ手元や田螺和
沼風の揺り起こしたる田螺かな
掌の田螺泥の重さであるような
指切りを忘れ田螺を取りに行く
田螺鳴く水底いつも仰のきて
水槽の底に姫田螺の輪舞
貝殻はバベルの塔の田螺かな
地震ありて田んぼも消えて田螺なし
田螺取り水面の雲を掬いつつ
田螺田螺田から出奔して水路
田螺汁電気ガスなく辺鄙宿
古歌は水煙のごと田螺取
角田螺少し迷ひてポケットへ
蒼穹(そら)映す田の底くねる田螺径
大田螺夜の重さに泥みけり
田螺見てまだ田舎だと語る爺
おはやうと田螺の背なへ声掛くる
田螺らと語るばあさん白寿なり
兄弟は知らず田螺は自と他のみ
古老目を細めて語る田螺汁
戦争という語の怖し田螺和
朝露や田螺の触角ひかり舞う
ジャムを拭くティッシュペイパー田螺居ない
田螺にも恋の季節や寄り添うて
水面を破り田螺の背の黒き
減反で田螺の消えし母の里
田螺鳴く水は低きへ流れゆく
風の行き田螺の闇の深くなる
つき出しの田螺恐るるほどでなし
かすかなる泡の行方や春の田に
ふらつかせ田螺大きな背なの殻
田螺巻く吾が身限りの小宇宙
煮えたとて丸く沈黙田螺顔
鳴く田螺自動掃除機とは違ふ
休耕田田螺は何処で生き延びし
大田螺おのれが影に驚きし
思い馳す遠き故郷田螺和
法事終え道に乾ける田螺かな
都会なる暗渠に眠る田螺かな
人生の笑いの時間田螺かな
戦中の日記に苦難田螺食ぶ
泥を引きまだ風寒き田螺かな
田の杭に高さを知れる田螺あり
田螺つつくカラス遠近空たんぼ
田螺この不満を誰にぶつけよう
鳴く時が来て決然と田螺鳴く
晩鐘や田螺の影のさめざめと
伝来の田んぼに田螺道えがく
創造的破壊タニシの逃げ惑ふ
ほんたうの夜の冥さや田螺鳴く
ひとつ掬いまた沈めたる田螺かな
音もなく進む田螺の生きる道
田螺連れ戸別訪問選挙戦
進まない時間を動く田螺かな
田螺こそ癌に効くとも言われおし
水底に田螺追うやにSSS
乱暴に田螺を握る孫の手よ
誰もなき休耕田に田螺鳴く
集落の荒れ田に鳴ける大田螺
田螺見てぐるっと回る初ガイド
光産む神に泥産む田螺かな
田螺鳴くたびごと小さき小さき波
あちこちへ寄り道田螺選挙戦
田螺などちまちまつつく男かな
大田螺澄みたる水の底の底
綺羅の魚に交ざり水槽の田螺
田螺取あの子の脛は白かった
少年は若きウェルテル田螺食ふ
直線を引けぬ田螺の右往左往
韋駄天の児の田螺に泥を落としけり
田水なる田螺考へ纏まらず
さざなみを数えきれずに田螺取
田螺取父の手足の小さくて
田螺鳴く扉を閉ぢたままで鳴く
田螺這う素掘の水路や水浅く
さざ波のたちて田螺の消へにけり
ゆりかごは田螺の殻で埋められ
田螺捕るあれは隣の村の寡婦
動線は円を塗るごと田螺逃ぐ
足裏のツボ刺激する田螺かな
街灯の点滅田螺ゆるゆると
田螺より急ぐ事案が多すぎる
田螺いま吾の記憶を塗りつぶす
茹上がる田螺の数の爪楊枝
田螺さえ未知の子増えし新時代
少年に田の肉くれし田螺かな
田螺かな水面きらきら見え隠れ
田螺取る水は両手を歪ませて
田螺見るための水路か足を曲げ
みづけむりかすかに田螺動きけり
田螺の眼遠き山影映しおり
田の水面ジャンボ田螺が蠢けり
石鎚の陽に恵まれし田螺かな
よく見るも正体見せぬ田螺かな
田螺ころころりころころ鳴く愁
田螺剥ぐ魂の底まで透かす
ネクタイを緩め眺むる田螺かな
老妻と静かに食らう田螺和え
ぼーーーっと田螺の行方時報かな
田螺鳴き継ぐ者のなき田の荒れる
田螺鳴く惑星の気候変動
水面下S字にょろにょろ田螺かな
雨の日の田螺はずつと雨のなか
子どもらの歓声浴びる田螺かな
水槽の田螺は腹を曝しけり
恒河沙の田螺連れ笛吹き男
寄合にごろごろ田螺集いけり
田螺和法事の客や奥座敷
田螺見る詩人に成れぬ我が居る
くじけても我は前進田螺なり
田に齢ありてをさなき田螺かな
干上(ひあ)がれる主(あるじ)なき田(た)の田螺(たにし)かな
農薬の田圃で何故に田螺生き
町カフェのキューブ水槽田螺這う
汚染水田螺は泥に黙しおり
此処来ると今日は帰れぬ田螺川
【不明】
それぞれの緊張胸に初点前
出汁の香に夫も破顔のおでんかな
寒卵つるりと剥きし朝餉かな