放送禁誌
2006年7月14日9:00AM|カテゴリー:マカロニほうれん総研|Hirai
「自衛隊に行こう」「イムジン河」など放送禁止歌というテレビタブーな歌はあるけれど、どうやら、というかやっぱり『週刊金曜日』は放送禁止雑誌らしい。
6月中旬、某民放キー局から編集部に番組出演依頼が来た。放映も収録もまだなので中身については控えるけれども、ひじょうに簡単に言うと番組の企画は現役の雑誌の編集者や記者(比較的若手)が厳しいコメント! をするというものである。それで、なぜか『週刊金曜日』からも一人出してくれと依頼を受けたそうである。
そこで編集長の北村から、出ることになっているからと私は一方的に言われ、「へー、うちが出て大丈夫なんでしょうかね。わっかりましたあ」と引き受けたのである。
「うちが出ても大丈夫なんでしょうかね」と私が言うワケは、なにせ、『週刊金曜日』は美味しい広告収入を蹴ってまで言い放題をしたいという連中の集まった独立系出版社なのだからである。
各メーカーからウジ虫のごとく嫌われている『買ってはいけない』をはじめ、『電通の正体』『トヨタの正体』など、テレビ局ならば企画として上がることことはおろか、考えることもないという、ありえないスポンサー批判や代理店批判を次々に本にしている。メディアが小さく、定期購読者にがっちりと支えられているからできるわけである。
ということでかりにその編集部の人間である私が出演したら、「『電通の正体』『トヨタの正体』の編集著者。一方で、総会屋、右翼やヤクザも取材している」とテロップで紹介しなければならなくなるでしょう。
それは、ありえないでしょう。
下ネタに頼らなくても放送禁止用語のオンパレードになるだろう。私は猪瀬直樹さんや大宅映子さんのような立派なジャーナリストではなく、それほど頭が良くないので、本の紹介はまずは「ピーの正体」になり、「プリウスって環境によくないんじゃないですか。車は軽いのが一番ですよ」とか「愛・地球博って環境破壊でしたよ、トヨタ博ってみんな言ってます」とか「テレビでは肝心なこと言えないですからね」「小泉首相のレイプ疑惑ってどうなったんでしょうかね」「細木数子ってヤクザの女だったんでしょ」「テレビって最高裁が違法判決を出したグレーゾーンで営業しているサラ金のCMいつまで放映するんでしょうかね」「失語症だったトム・クルーズって小泉首相にサイエントロジーの本を渡したときはたまげました」などの素敵な?発言のほとんどが、伏せ字だらけになるのではないかとテレビ局を心配していたのである。
それにテレビ局の制作者もそれを承知で依頼してきたとはとても思えず、出演した結果、放送禁止にでもなればそれはそれで森達也のアニキと話すネタになるし、ひじょうに楽しみだなあと思っていたのである。
そうしたら案の定である。
数日後、「今回は勘弁してくれってディレクターが歯切れ悪く言ってきたよー」と北村編集長が言う。
テレビ局としては賢明な判断だろう。よくぞ放映前に間に合った。
以前も、雑誌を番組で紹介したいという制作会社からの依頼があったが、見送りになったことなどもある。
「放送禁誌」とやると本当にそのイメージが固定化してしまうかもしれないから、やぶへびになるかな。大丈夫ですよ。全然、無害です! テレビやラジオやそのほかのメディアの方々、ぜひとも出演、紹介をください!
ちなみに8年間ものハイラックスのリコール隠しが発覚したと報道された世界のトヨタのおかげか、『トヨタの正体』(横田一、佐高信、週刊金曜日取材班)は、なんと7月12日に三刷りが決定した。出版業界から遠い方々のために、附言しますと、ほとんどの本って増刷しないものなのです。
昨年の愛知万博、もといトヨタ博の際には、当然のごとく、数々の世界のトヨタよいしょの便乗本が発売された。「だが、いずれも撃沈したと地元の書店は口を揃えていた」と営業のマッチーは言っていた。
トヨタ本は売れないと言うのが名古屋では定説なのである。そんな状況において増刷だけでも奇跡なのに、三刷りはミラクル!(同じか)。なんともありがたいことである。
それもこれも、リコール隠しが発覚したトヨタのおかげかもしれない。とはいえ、そのトヨタの欠陥車のせいで重軽傷を負ってしまったという被害者の方々にはお見舞い申し上げます。本書が少しでも、役に立てればとよいのですが。特にトヨタのリコールは200万台だとか、大量にリコールが出るが、それは「同じ部品をいろいろな車で共通で使っている」と知り合いのカーマニアは言っていた。トヨタの車は、ナイキのスニーカーみたいなもので見かけの形や色は違うけれど、部品や中身は同じなのである。
一言つけくわえれば、個人的にはトヨタを全否定しているわけではない。1兆円を超える利益を叩き出すトヨタのカイゼンなどのシステムは優れた面もあるだろう。だけれども、だからといって、自殺者や鬱病を生むのは、しょうがないと言ってしまったら終わりだ。会社はなんのためにあるのかってことだ。「日経新聞」はともかく真面目な報道媒体までが礼賛報道一辺倒になったら、情報産業は腐るだろう。社会の血液である情報が腐れば、いずれ社会も腐っていくと素朴に思う。
トヨタや車社会、道路行政の問題については私も調査はまだまだ不十分。まだまだやりたりないので、今後も『週刊金曜日』で文字にしていきたいと思っています。
(平井康嗣)