きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

経済マンガは今どーなってる

最近、経済マンガの流れが変わってきた。
バブル期やバブル後の不況どん底から、新しい経済マンガ路線の萌芽がある。
今、株価も上がっている(とはいえ、小泉内閣発足時の2001年には、株価は1万4529円だった。それが下がり続けて昨年4月には7607円で底を打ち、そしてようやく1万1100円程度でうろついている。政治家が言う「株価が上がった」というセリフにはトリックがあることは言うまでもない)。
だが、たとえば、りそなHDは昨年4月には50円をやっと超える程度だったのが今や170円。1年で3倍だ。銀行株はおおむね持ち直している。
というように、局面は変化の兆しを見せている。
筆者個人としてもバブルを反省する時期は市場ではもう終わりつつあると実感する。経営者の責任問題などケリをつける重要な問題も積み残されたままだが、市場はもう緊縮に飽き飽きしているようだ。

そんな空気を吸ってか、一ジャンルを築いた経済マンガにも「戦争直後」から「戦後復興」への変化の兆しが漂う。

(1)バブルから崩壊へ  戦争好景気への暗雲
1984年
『島耕作』シリーズ(週刊モーニング、講談社)
* 課長、部長、取締役とスーパーサラリーマンである主人公が出世し続ける長寿漫画。ちなみに松下電器出身で、やはり松下政経塾が好きらしい弘兼憲二氏。弘兼氏のキャラクターは、中田宏横浜市長、松沢成文神奈川県知事など民主党系政治家の選挙チラシでたびたび登場していた。
1984年
『気まぐれコンセプト』(週刊ビッグコミック・スピリッツ 小学館)
*これを経済漫画とするには疑問もあるだろうが、広告代理店を中心とする企業社会をリアルに反映した傑作。先日連載1000回目を迎えたお化けマンガ。単行本が1巻しか出ていないという謎もある。小学館の社員は80年代のバブルを謳歌したのか、同誌では文字通り80年代マンガ『東京エイティーズ』も連載中。超超大ヒットした『世界の中心で愛を叫ぶ』(小学館)も80年代が舞台だ。
1990年
『ナニワ金融道』(週刊モーニング、講談社)
『借王』『ミナミの帝王』とともに、いけいけの人気サラ金漫画。バブルで騙されて、街金の存在を意識するようになる人が増えた時代を反映しているのだろう。サラ金とうまくつきあおうと知恵をつけようと真剣に読んだ人も多いだろう。ちなみに「サラ金」という言葉は、消費者金融がもっとも嫌う言葉である。「ゼニ」という言葉は、青木雄二ならではの言語感覚だった。当時、青木さんに連載コラムを書いたもらった全国紙の記者は、コラムが非常に評判になったので栄転して大阪から東京に帰ってきたそうだ。
1994年
『サラリーマン金太郎』(週刊ヤングジャンプ、集英社)
*『大と大』(1990年)など本宮ひろ志の男臭い政治経済分野でのサクセスストーリー漫画は現在に至るまで、「サリーマン」たちを「生涯、不良たるべし」と鼓舞し続けている。経済・企業ものの大ボス。

(2)「バブル後」 戦争直後から戦犯バッシング時代へ
底流には愛国、愛社的なものが流れている時代。この時代は、没落した銀行を悪と見立て、銀行が立ち直れば日本経済が復活するといった乗りの時代。いずれもヒーローものを得意とする集英社ならではか。
1998年
『公権力横領捜査官 中坊林太郎』(『Bart』、集英社)
* 作者は原哲夫。北斗の拳+中坊公平=このマンガ。ネーミングからして明らかに中坊公平・元弁護士への幻想があった。日本経済がどこまで落ちるのか、底がまるで見えなかった時代の寵児・中坊公平だが、末路は詐欺罪への刑事訴追を免れるために司法取引で弁護士資格を返上。あれれ、このマンガ、なんと本誌編集委員の佐高信が監修。当時は中坊を持ち上げていたんだよな……。
1999年
『監査役 野崎修平』(ビジネスジャンプ、集英社)
*話は『銀行大合併編』まで続く。当時は(今も?)監査が機能していなかったために、まともな監査役が主役(ヒーロー)になるわけだ。絵はモロ本宮ひろ志系。監査といえば、昨年、りそな銀行の不良債権問題で朝日監査法人の公認会計士が自殺したことを忘れちゃいけない。

(3)脱「バブル後」 日本経済が戦後復興期へ 
最近では、経済に流されて生き抜くタイプと自力で脱出するタイプの2つの潮流がみてとれる。ある種の底打ち感が空気に反映しているのだろう。
2004年
『カネが泣いている』(週刊モーニング、講談社)
* 銀行から転職したサラ金支店長という年齢層の高い平凡な主人公を軸に描かれている。よりハードなヤミ金ものとして『闇金ウシジマくん』(週刊ビッグコミックスピリッツ)がけっこう恐い。カネを借りる人間の「欲」をうまく描いている。
『M.I.Q』(週刊少年マガジン連載中、講談社)
*少年漫画なのに、1カ月で100万円を2倍にする方法として高校生相手に株指南。まだ連載3回目なので展開は未知数。筆者も中学時代夏休みの宿題に「株式」についてレポートを出したことがある。いかんせん元手がなかった。同誌に掲載されている政治マンガ『クニミツの政(まつり)』同様、若者に行動を起こさせようとする、ウンチク満載のHow to漫画の構え。
『DWAN 日はまた昇る』(週刊ビッグコミック スピリッツ、小学館)
* 8月9日号から新連載。謎のホームレスが主人公で、幻のアメックス・ブラックカードもどきを持っている。村上龍の小説『エクスタシー』『メランコリア』『タナトス』のヤザキ3部作の影響を受けているかのようだ。『M.I.Q』と同じく、チンピラやホームレス風であるのに、金持ちで頭の切れる謎の男ってのは受けるキャラなのだ。

マンガは虚構だが、あからさまなウソを描くと読者は夢から覚める。小学生からも「幼稚で読まない」と馬鹿にされた90年代以降の「少年ジャンプ」がその一例だろう。そんな時代の空気を絶妙に読みとりつつ、経済にまで触手を伸ばし作品を生みだし続ける少年・青年漫画誌。毎週作品を載せ続けるという仕事は世界でも稀有なハードワークの一つに違いない。作家や編集者には頭が下がる。『少年チャンピオン』で『がきデカ』が連載されているころから読み続け、読む週刊誌は変われども気づけばマンガ読書歴は20年以上。作家と編集者の人には冒険して作品を作り続けてほしい。(平井康嗣)