新聞社に抗議を連発する財務省の思惑
2012年5月23日4:01PM|カテゴリー:多角多面(発行人コラム)|北村 肇
<北村肇の「多角多面」(78)>
財務省のホームページにいき「広報」に入ると、『朝日新聞』と『東京新聞』の記事に対する抗議文がアップされている。『東京』への抗議理由を見てみよう。
東京新聞(平成24年4月11日付け朝刊)において、「『チーム仙谷』再稼動主導」と題して、「オール霞が関、後押し」との記事が掲載されています。~「財務省の勝栄二郎事務次官も野田首相に直接、再稼動を働きかけている。」との記載がありますが、そのような事実は一切ありません。また、当事者である当省は一切取材を受けておりません。本件記事に関して、4月13日付けで~厳重に抗議するとともに、内容の訂正など然るべき対応を求めました。~東京新聞政治部長から、取材には自信があり、訂正をする考えはないとの回答がありました。~誠に遺憾であり、早急に内容の訂正など然るべき対応を講じることを、改めて強く求めました。
『朝日』への抗議でも「『鳩山は総選挙直前、実は財務省の事務次官だった丹呉泰健や、主計局長だった勝栄二郎らとひそかに接触を重ねていた。』との記載がありますが、接触を重ねていたという事実はありません」と勝事務次官の名前が出てくる。勝氏は歴代事務次官の中でも図抜けて優秀と言われる。どうやら財務省は、このエース中のエースに関するスキャンダルにピリピリしているようだ。言うまでもなく、消費税率アップの実現は勝次官の双肩にかかっている。
ここ数年、省庁がマスメディアに対して異議申し立てを行なう事例が目立つ。もちろん、事実と異なる報道があれば指摘するのは当然だし、抗議内容が正しければ新聞社は直ちに訂正などの対応をしなくてはならない。だが、記者経験者としての直感では、今回の財務省の抗議にはたぶんに「脅し」の匂いを感じる。それは両紙に向けてだけではない。他紙に対しても、「同じようなことのないように」とクギをさしているようにみえるのだ。『東京』『朝日』には、ひるむことのない、さらに徹底した取材を望む。ぜひ、財務省にぐうの音も言わせないネタをつかみ、報じてほしい。
気になるのは他紙の動向だ。「権力の監視・批判」を責務とする報道機関として、まずは財務省の対応に疑問をもつのは当然だろう。だが、『東京』『朝日』を支援しようという雰囲気は感じられない。記者クラブの既得権を守る闘いでは足並みをそろえるのに、対権力となると、今度は自社のことしか考えないのだろうか。ちなみに、財務相の安住淳氏は『NHK』、副大臣の五十嵐文彦氏は『時事通信』出身である。だからどうっていうわけではない。何かを二人に期待したところで虚しくなるばかりだから。(2012/5/25)