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山口組系幹部の逮捕で愛知県警に激震――浮上する弘道会との癒着疑惑
2011年6月12日1:27PM
四月二八日、二九日の二日間は、名古屋に本拠を持つ指定暴力団弘道会と愛知県警捜査四課にとっては、まさに激震の日となった。
二八日、同県警四課は弘道会ナンバー2の竹内照明若頭と会社役員の佐藤義徳、無職の女性の三人を住宅融資制度を悪用してマンション購入代金六一八〇万円を詐取したとして逮捕。翌二九日、中村警察署合同捜査本部は昨年九月三日に名古屋駅裏の風俗街で起きたキャバクラ放火殺人事件の容疑者として弘道会傘下の稲葉地一家の元幹部組員ら六人を逮捕した。この二つの逮捕劇は、表面的には、警察庁の安藤隆春長官が陣頭指揮する弘道会壊滅作戦の成果とみられているが、しかし一連の逮捕とは別に、より重大な疑惑が浮上してきている。以前から指摘されていた弘道会と愛知県警捜査陣との癒着関係の疑惑だ。
竹内容疑者とともに逮捕された佐藤容疑者は、名古屋の風俗業界に君臨している人物。現職の捜査員は「佐藤は、ずっと前から弘道会と愛知県警のつなぎ役をしていたし、今も県警内部には彼のスパイがかなりいる」と言い切る。数年前に退職したある警察署の署長をはじめ数十人もの現職の警察官が佐藤容疑者から提供された〈カネとオンナ〉に堕ちているという疑惑が広がり、その一端が判明した事件も起きた。
二〇〇七年に県警の捜査で押収された一枚の借用書。四課のWという警部が佐藤容疑者から借りた八五〇万円の借用書である。当時Wは監察の調べに対して「俺を逮捕するなら全部ぶちまけてやる」と、逆に警察内部の腐敗の全容を表面化させると居直った。その結果、Wは処分されるどころか所属を移っただけで栄転した。Wは愛知県警内部の腐敗を知る一人であり、佐藤容疑者のスパイだった。つい最近まで佐藤容疑者は弘道会とのつながりを全否定していたが、竹内容疑者とともに逮捕されたことで、逆にそのつながりの深さを証明してしまった。
一方のキャバクラ放火殺人事件は、暴力団が要求する用心棒代(みかじめ料)の拒否を続けている風俗業者を脅す目的で放火殺人まで引き起こした。店を壊した暴力行為で逮捕された六人のうち二人は、近く放火殺人容疑で再逮捕されるだろう。
現行の暴力団対策法からいえば、稲葉地一家は、山口組弘道会の若頭補佐をつとめる幹部組織。犯行に及んだ稲葉地一家の元幹部組員たちは起訴され死刑が求刑される公算が強い。被害者遺族が稲葉地一家、弘道会、山口組の三者を相手に使用者責任賠償を問うのはその先である。この稲葉地一家と愛知県警の癒着ぶりもまた常軌を逸した関係にあった。
昔から博徒として有名な稲葉地一家。二〇年以上も前からこの一家のM組長は違法カジノの運営で巨万の金を稼いでいた。その最盛期、名古屋市内には二〇カ所以上の違法カジノが県警に摘発されることもなく、白昼堂々と営業を続けていた。最近まで違法カジノ摘発に専従していた保安課の刑事によると「ことごとくガサ入れ(の情報)が洩れている、それもどうやら幹部から抜けている」と、警察内部と暴力団との驚くべき実態を証言した。金も動く。違法カジノの場合、刑事がヤクザにガサ情報を漏らしてやると、一回当たり一〇〇万円とも二〇〇万円ともいわれる見返りを渡している、と証言する関係者もいるのだ。
警察庁の安藤長官は全国の警察本部に対して徹底した弘道会壊滅を指示している。「弘道会の弱体化なくして山口組の弱体化はなく、山口組の弱体化なくして暴力団全体の弱体化はなし」という訓示は訓示として、弘道会と愛知県警の内部、特に捜査四課、生活安全課、組織犯罪対策課の一部には間違いなく犯罪的癒着関係を続けている現職の警察官がいる。暴力団の解体は社会的にも重要だが、暴力団の影に隠れて腐敗する警察組織の方が、比較にならぬほど重大ではないのか。弘道会が短期間に山口組の最大勢力になることができたのは、皮肉にも汚辱にまみれた警察官の存在があったからだ。冒頭の激震とは、愛知県警の激震のことだ。
(成田俊一・ジャーナリスト、一部敬称略、5月13日号)