セブン&アイ鈴木敏文会長退陣の舞台裏――追い詰められての“辞任劇”
2016年4月25日9:57AM
「コンビニ育ての親 突然の引退」などと報じられた(株)セブン&アイ・ホールディングス代表取締役会長・鈴木敏文氏(83歳)の辞任表明(4月7日)。会見で鈴木氏は、自らが提案した井阪隆一セブン-イレブン・ジャパン社長の退任案が同日の取締役会で否決(15人中、賛成7人、反対6人、白票2人)されたため「引退を決意した」とし、「慚愧に堪えない」と漏らしたが、口をついて出たのは周囲の批判ばかりで自らの責任には触れなかった。鈴木氏と共に退任の意向を示した村田紀敏セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長は、“井阪おろし”の提案を「(創業家の伊藤雅俊)名誉会長から断られ、判子をもらえなかった」とし、創業家との対立があったことを明かした。
鈴木氏の退陣は実のところ「突然」でもなんでもない。その背景については小誌連載「セブン-イレブン“鈴木帝国”の落日」(筆者・渡辺仁、2014年1月から15年2月まで計13回)で報じてきたが、ここではマスメディアが報じない退陣直前の舞台裏に迫る。
【問われるべきは経営手法】
昨年11月末にセブン-イレブンが「ブラック企業大賞」を受賞した翌月、セブン内部からと思われる怪文書が出回った。「祝! ブラック企業大賞 受賞理由は商品本部にあった!?」との見出し(前出の井阪社長が「商品本部」出身であることに留意)が付いた怪文書では、イニシャル入りで2人の幹部の「パワハラ」や「不正疑惑」「不倫」を暴露。「密会(不倫)現場証拠写真」のコピーもばらまかれ、「取引先有志一同」と称する文書もセブン&アイ本社に送りつけられた。怪文書の記事は「鈴木氏の神通力ももはやこれまでなのだろうか」と結ばれていた。
年明けには、鈴木氏が自身の保有するセブン&アイの株式のうち約30万株を売却したことをネットニュース「ソクラ」が報じた。十数億円の現金を手にしたとされる鈴木氏は、売却目的を明らかにしなかったという。同年3月末にはセブン&アイの大株主で米国の投資ファンド「サード・ポイント」が、井阪社長の更迭と息子(鈴木氏の二男でセブン&アイ取締役の鈴木康弘氏)への世襲の噂があるとして、懸念を示す異例の書簡を公表したことが報じられた。
鈴木氏は会見の中で、「息子に継がせるつもりだったのでは」との質問に、「びっくり仰天。そんなことひと言も言ったことはない」などと否定したが、関係者によれば「(株売却は)継がせるための軍資金か?」などと、まことしやかに囁く声もあったという。
サード・ポイントと創業家が手を組み、株式を大量取得したとの情報も流れた。伊藤家の資産管理会社・伊藤興業と伊藤名誉会長個人を合わせて、セブン&アイの発行済み株式の10%近くを保有するが、同日の取締役会が近づくにつれ「サード・ポイントと合わせて30%超に」「過半数に」などと“数字”は上昇。取締役会の数日前には、ついに鈴木会長の解任動議が出されるとの噂も飛び交った。そうした中での「突然の引退」だったのだが、実際は、自ら去る決断をしないと「解任動議」により追い出される可能性があった。
マスメディアは5月中旬に開かれる予定の株主総会で提起される新体制の行方について取り沙汰するが、鈴木商法=セブン商法の問題点を追及する報道は皆無だ。
一方、「独立事業者」とされる加盟店オーナーの労働者性を中央労働委員会の場で争っているコンビニ加盟店ユニオンのメンバーは「鈴木さんはあまりにも自己中心的だった。新体制にはコンビニを支える現場への心遣いと真摯な話し合いを求めたい」と語った。
カネ(年間1600億円超の広告費)にモノを言わせメディアの批判を封じる企業体質と、奴隷的と言われる契約で全国1万8000店あまりの加盟店に過酷な労働を強いて利益を吸い上げる経営手法が、鈴木退陣をきっかけに変わるのかどうか。誰がトップになろうとも、問われるべきはそのことだろう。
(本誌取材班、4月15日号)