帯水層底面の試料採取が２１１箇所で未了であることを明らかにし、釈明した都の文書の一部を拡大。（「第１回専門家会議」より。提供／永尾俊彦）

東京都は、豊洲市場用地（江東区）で、土壌汚染対策法施行規則で定められた地下水を通しにくい粘土層の上端（帯水層の底面）の土壌の試料採取を２１１箇所でやっておらず、発がん性物質ベンゼンの汚染調査をしていなかった。10月15日に築地市場（中央区）内の講堂で開かれた豊洲の土壌汚染対策を話し合う専門家会議（座長＝平田健正・放送大学和歌山学習センター所長）第１回の審議の中で、都が初めて明らかにした。

都内在住の一級建築士・水谷和子さんが、都に開示させた資料から、「ベンゼンによる汚染の可能性が高いのに、都は３３３箇所で帯水層底面の試料採取をしていません」と昨年８月に都庁で記者会見を開き、独自に作成した試料未採取箇所の分布図も公表、指摘していた。都はこれまで試料を採取していない箇所があることは認めていたが、箇所数は明らかにしていなかった。

２０１０年に土壌汚染対策法が改正され、帯水層の底面の試料採取が義務付けられたが、都の調査は08～09年に行なわれたもので、一部を除いて帯水層底面の試料採取をやっていなかった。

15日の専門家会議で、都環境局の担当者は、「帯水層底面の直上までは試料採取をしており、帯水層底面にたまるのは比重が水より重い物質で、ベンゼンの比重は水より軽く、また市場用地全体にベンゼンが出ているわけではないことから『試料採取等と同等程度』以上とみなした」「土壌汚染対策法の事務は自治事務（自治権に基づく事務）なので環境省とも相談して都が判断した」と説明した。

同法施行規則では改正前の調査が「試料採取等と同等程度」と認められるときは、「試料採取等の結果と見なす」とされている。

だが、水谷さんは、「環境省は私の問い合わせに『帯水層底面の上で調査が止まっている場合は同等程度とは言えない』と回答しています」と反論した。

この点について、筆者が環境省に確認すると、「都知事の判断で同等程度と認めることは法解釈上あり得るが、豊洲の件にお墨付きを与えた訳ではない」と答えた。

水谷さんは「ベンゼンは比重１・１～１・２のタールだまりとして存在していることが分かっています。帯水層底面にたまりやすいから試料採取が義務付けられたのです。東京ガスの田町の工場の跡地では地下12～13ｍの深い所にベンゼンが沈んでいました。都の裁量で調査をしなくてよいなら、法律を改正した意味がありません」と批判した。

【「便所掃除の話みたいだ」】

畑明郎・元大阪市立大学大学院教授は、10月20日に都庁で記者会見を開き、都が発表した豊洲の地下水位測定結果では、10月３日以降海面から３～５ｍの高さで推移していることから、「海面から２～６・５ｍの高さの盛土層が、再汚染されている可能性がある」とし、「毛細管現象で水は最大２ｍ上昇するので、地下水位を４・５ｍ以下にしなければ、地表にベンゼンなどを含んだ地下水が到達し、揮発する。地下水をくみあげる井戸の吸い込み口が粘土質土壌で目詰まりし、地下水管理システムが機能していないのではないか」と述べた。

15日の専門家会議では、９月と10月の都の空気測定で、地下ピット内から環境省の指針値の最大７倍の水銀が検出されたことも問題になったが、結局原因不明とされ、次回までの検討課題になった。

だが、畑元教授は会見で、「豊洲市場用地は、東京ガスの工場で使っていた石炭に含まれる水銀で土壌と地下水が汚染されている。都の詳細調査でも土壌から最大で環境基準の24倍もの水銀が検出されており地下水由来と考えられる」と指摘した。

15日の専門家会議の審議終了後の質疑応答で、傍聴していた築地市場で水産仲卸業を営む酒井衛さんは、「便所掃除の話をしているみたいだ。汚い所なんだけど、こんだけキレイにしたからここで握った寿司を食ってくれ、みたいな話になりそうだ」と感想を述べた。

（永尾俊彦・ルポライター、11月４日号）