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「ダウンロード違法化」対象範囲拡大がはらむ危険性とは
岩本太郎|2019年2月26日11:53AM
昨年の「漫画村」騒動は今なお記憶に新しい。いわゆる「海賊版」など、著作権を侵害する形で違法にアップロードされた画像データがネット上に跋扈している状況に法規制で対応しようとの動きが政府を中心に加速。昨年4月には政府の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議より前記「漫画村」などの主要な海賊版サイトに「ブロッキング(接続遮断)を行なうことが適当」との趣旨の「緊急対策」が発表され、NTTグループが「自主的な取り組み」の緊急措置としてブロッキングを行なう方針を表明した。これが日本国憲法第21条が保障する「通信の秘密」を侵すのではとの批判がわき起こった。
最終的にこの問題は前後して「漫画村」など主要な海賊版サイトがサービスを停止し、NTTもブロッキングを結局見送った。ブロッキングの法制化も知的財産戦略本部の検討会議で賛成派と反対派の議論が紛糾した末、政府も当面見送らざるを得なくなった。だがここにきてまた新たに政府側から持ち上がってきたのが「ダウンロード違法化」の対象拡大問題だ。
これは文化庁の文化審議会著作権分科会の小委員会が12月7日に打ち出した「中間まとめ」などで明らかにしたものだ。著作物の種類・分野を問わずウェブ上にあるコンテンツについて「広くダウンロード違法化の対象範囲に含めていくべき」との方向性で同小委員会での議論が概ね共通認識を得られたとされ、文化庁は今年の通常国会への著作権法改正案の提出を目指しているという。
著作権法は映画や音楽などの著作物について、それがウェブ上に違法にアップロードされたものであることを知りながらダウンロードした場合は処罰することを定めている。ただし著作者などからの訴えに基づく親告罪であるほか、漫画やテキストなどについては対象から除外されている。今回の法改正への動きは、これを漫画やテキストにも拡大し、なおかつ非親告罪化しようというものだ。
【研究・創作の萎縮を招く恐れが】
これに対して漫画の研究者などによる「日本マンガ学会」が1月23日に反対声明を発表した。著作物全般のダウンロードを違法化することで2次創作や、「海賊版」の研究活動が阻害され、研究・創作の萎縮を招きかねないほか、そもそも「漫画村」のようなダウンロードせずに閲覧する方式の違法サイトは取り締まれないなどの問題を指摘した。2月8日には一般財団法人情報法制研究所も「懸念表明と提言」を発表。ダウンロード違法化を全著作物に拡大するなら民事・刑事を問わず「原作のまま」かつ「著作者の利益が不当に害される場合」に限ることを明記するよう提案した。
同日、この問題に関して東京・永田町の参議院議員会館で開催された集会の席上、漫画家の赤松健さんは「政府や出版社が我々の権利を守ろうとするのは嬉しいが、今回の動きは問題がある。漫画家に限らず国民全体に大きな影響が及ぶ」と発言した。ウェブから採ったコンテンツを自身のパソコンに保存した画面のコピーを壇上で示して「こういう著作権法上グレーなコンテンツは我々のパソコンの中にも多数ある」「明らかにブロッキングがコケたので代わりにやっている」などと指摘した。法学者の大屋雄裕さんも「『漫画村』ですら自らは合法と主張した。それが違法と知りながらダウンロードしたとの『内心の事実』をどう証明するのか」と述べた。
先のブロッキング問題ではカドカワ(株)の川上量生社長が推進の立場を打ち出すなど、出版社側にも自社の権利保護の観点から法規制をむしろ歓迎する向きもある。これに対して赤松さんほか漫画家や研究者からは疑問の声が上がるが、それが政府側での議論に必ずしも反映されていないことが気がかりだ。漫画家などに限らず一般市民が日常的に行なうコピーなどの行為にも影響が及びかねないこの法制化の動きが、今後果たしてどういう方向に進むか、危機感を持ちつつ見守る必要がある。
(岩本太郎・編集部、2019年2月15日号)