ローマ字表記は「姓・名」順に
西川伸一|2019年7月14日4:32PM
いまだに喉に刺さった小骨のような思い出がある。私は1990年に現在勤務している学部に専任助手として採用された。研究と校務が仕事である。指導教授からは「せっせと論文を書け」と叱咤された。不出来な論文を学部付置の研究所が発行する学術雑誌に投稿した。
同誌には英文題名と著者名のローマ字表記が裏表紙に掲載される。私は常々、日本人の姓名をローマ字表記にする場合「名・姓」とひっくり返すのは、植民地根性の最たるものだと嫌悪していた(過激でしたね)。「姓・名」順にして提出した。
すると、編集委員会から他の執筆者との表記の統一を図るため、「名・姓」順に変更せよと求められた。専任助手は任期付きのポストだった。教授はじめ定年まで在職できる教員たちからなる編集委員会に、私がたてつくなどできない。「アイデンティティの問題ですよ」と指導教授に酒席で愚痴をこぼすほかなかった。
さて、2000年9月29日に文部相(当時)の諮問機関である国語審議会は、現代にふさわしい日本語の表現のあり方をめぐる検討結果をまとめた試案を発表した。日本人の姓名のローマ字表記については、「姓・名」順が望ましいとした。
直後の10月2日付『朝日新聞』は社説で「賛成だ」と明快に書いた。10月9日付『産経新聞』の「主張」(社説に相当)は、「これまでは欧米流に「名・姓」とローマ字表記を逆転させてきた。その源は遠く明治の欧化主義にある。しかし真の国際化とは個々の文化や伝統と相反するものではなく、多様性こそが国際社会をより豊かにする」と正論を述べている。