博報堂がベテラン非正規雇い止め
福岡地裁、雇用継続命じる判決
岩本太郎|2020年5月7日1:15PM
大手広告会社・博報堂(水島正幸社長)の九州支社(4月1日、「九州博報堂」に分社化)に長年勤めた嘱託社員の女性が無期雇用転換の権利取得直前に雇い止めされ、同社に雇用継続などを求めた訴訟の判決が3月17日にあった。福岡地裁(鈴木博裁判長)は雇い止めが不合理で無効とし、女性の雇用継続、雇い止め以降の賃金(約700万円)を支払うよう博報堂に命じる判決を言い渡した。
女性は1988年に大学を卒業し同社九州支社に新卒入社。以来1年ごとの有期雇用契約を計29回更新しつつ主に経理部門に勤務。途中で会社の求めに応じて資格を取得し九州支社の衛生管理者も務めた。13年4月の改正労働契約法施行に伴い、それ以降も有期契約で5年間勤務した女性は18年4月には無期労働契約への転換を申し込む権利が得られるはずだった。
だが17年12月、博報堂側は女性に「次年度以降の雇用契約は更新しない」と通達した。前記の改正労契法施行後、同社は「今後有期契約期間の上限は5年とする」旨の条項を含む契約書を女性と毎年取り交わしていたからだ。裁判でも同社は同条項を契約不更新の主な論拠として主張。一方、女性はその内容でも署名押印しなければ契約が更新できず、受け入れざるを得なかったと反論。同社のやり方は無期転換申込権を認めた改正労契法の趣旨を没却するなどとして無効だと主張した。
判決は女性の主張を概ね認定。原告代理人の井下顕弁護士も判決を評価しつつ「裁判所が現実の労使関係の上に立ち、不当な不更新条項そのものを断罪するような判決が出てくれば警鐘を鳴らすことに繋がると思う」と、なおも非正規社員が異議を唱えることの難しさが残る現状を批判した。なお、博報堂は「判決を真摯に受けとめ、控訴はいたしません」(同社広報室)と表明。女性は職場復帰に向けて調整が進んでいる模様だ。
(岩本太郎・編集部、2020年4月10日号)