大阪「フジ住宅」のレイハラ訴訟
控訴審でも原告勝訴
2021年12月8日4:23PM
東証一部上場の不動産会社「フジ住宅」(大阪府岸和田市)で、ヘイト本のコピーを社内で大量配布されて精神的苦痛を被ったなどとして、在日韓国人三世でパート従業員の女性(50代)が同社と、一連の行為を主導した創業者の今井光郎会長に3300万円の賠償を求めたレイシャルハラスメント訴訟。大阪高裁(清水響裁判長)は11月18日、被告に対し一審判決(2020年7月)の賠償額110万円を132万円に増額するとともに、文書配布の差し止めを命じる判決を言い渡した。
原告は02年に採用された。数年後、ヘイト本や歴史改竄本のコピー、「在日は死ねよ」などの書き込みが付いたネット文書の社内配布が始まった。会長に追従する社員の感想文も含め、月1000枚に達した時もある。会長肝煎りの育鵬社教科書採択運動への参加まで推奨された。代理人を介した停止要請は拒まれ、事実上の「退職勧奨」もあった。やむなく提訴したが、返ってきたのは「恩情を仇で返すバカ者」「金目当て」、さらには左翼や弁護士に担がれたなど、社員による誹謗中傷だった。
一審の大阪地裁堺支部は執拗な文書配布、教科書採択への動員、提訴後の攻撃の3点を違法と認定し、会社側に賠償を命じた。
【企業による「差別醸成禁止」 職場環境配慮義務も認定】
だが会社は変わらない。賠償額の少なさから「実質勝訴」などと公式ページに掲載。原告らを批判する「支援者」のブログも配布され、「殴り倒してやりたい」などの社員コメントが配られた。これら態様の異常さから、原告側は控訴審で差し止め請求も加えた。
高裁判決はまず、原告には「民族的出自等に関わる差別的思想を醸成する行為が行われていない職場又はそのような差別的思想が放置されることがない職場において就労する人格的利益がある」と判示。その保護を使用者の義務と解することが、憲法14条や人種差別撤廃条約、ヘイトスピーチ解消法の趣旨に合致すると踏み込み、違えれば不法行為責任や債務不履行責任を免れないとした。
その上で韓国人の思考を「野生動物」にたとえた配布文書などは、客観的にみて公序良俗に反するヘイトスピーチと認定。そこに至らぬ内容でも「言辞が中韓北朝鮮に対して親和的な見解を表明した人や組織を攻撃するために用いられるときは、ヘイトスピーチと同様、専ら国籍や民族を理由とする対立や差別を煽動し、人種間の分断を強化する効果を有することに変わりはない」と断じた。
提訴や一審後の攻撃についても「原告に強い疎外感を与えて孤立化させるとともに、本件訴訟による救済を抑圧することは明らか」と批判し、職場環境配慮義務を怠り、継続的被害を与えたなどとして賠償を増額。態度を改めない悪質性と被害の深刻さを踏まえ、差し止めと仮処分も認めた。
人種差別思想が醸成されないよう、企業は積極的に配慮すべきとの一般的義務まで認めた内容は、管見の限り日本で初めて。今回のように特異な場合だけでなく、今後、同種事案での法的規範になるだろう。そして判決は、差別目的ではないとの会長側主張を採用する一方、「職場において、朝鮮民族はすべて嘘つきであり、信用することができず、親中・親韓的態度をとる人物はすべて嫌悪されるべきであるなどといった意識を醸成させ、本邦外出身者に対する現実の差別的言動をいずれ生じさせかねない温床を原審被告ら自らが作出した」として、会長らの法的責任を導いた。「目的」でなく「効果」「結果」を基に人種差別を認定した判断も画期的と言える。
「嬉しいけど、まだ終わってない」。18日夜の報告集会で原告は緊張を滲ませた。明日から彼女はまた会社に出るのだ。「いつかこの裁判、この結果が何かこの日本社会に大きな、希望となればいいと。自分がやったことと同じことをこれからの若い人たちには経験してほしくない。この先の道を考えて皆さんと一緒にやっていけたらと思う」。会社側はこの日に上告を表明した。反省の色はない。
(中村一成・ジャーナリスト、2021年11月26日号)