極右「在特会」の「被害届」に便乗して市民団体を強制捜索――大阪の公安が相次ぎ運動弾圧
2013年3月15日5:21PM
反原発運動への弾圧事件が続く大阪で、今度は極右団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)メンバーの「被害届」を理由に、大阪府警公安第三課が二月中旬、従軍「慰安婦」問題に取り組む市民団体への家宅捜索を強行。「傷害」被疑者として市民四人に出頭を求めたことが明らかになった。
強制捜査を受けたのは、「日本軍『慰安婦』問題・関西ネットワーク」。共同代表の西村寿美子さんによると、「『慰安婦』を強制した証拠があるなら出してほしい」という橋下徹大阪市長の暴言に反証するため、昨年九月二三日、元「慰安婦」の被害女性を韓国から招いて証言を聞く集会を大阪市内で開いた。その際、妨害活動をしていた「在特会」の一人が会場のある建物に侵入したが、参加者が制止し、集会は混乱なく終了した。
ところが、集会から半年近くも経った今年二月一三日、押し出されて負傷したとする「在特会」メンバーの「被害届」をもとに、府警は制止した四人を一方的に「傷害被疑者」とし、個人宅や関係事務所など五カ所を家宅捜索する一方、集会主催者である同ネットワークの連絡事務所も強制捜査し、西村さんら共同代表三人に事情聴取を求めた。
「在特会」は、在日朝鮮人への侮蔑・憎悪発言を各地で繰り返す“札付き” の極右排外主義集団。関西ネットワークが毎月一回、JR大阪駅周辺で取り組む「慰安婦」問題の宣伝活動に対しても数十人から一〇〇人を動員し、過激な妨害活動を四年以上続けている。
「被疑者」とされ任意出頭を要求された四人のうち、六〇代のAさんは筆者の取材に対し「在特会は集会参加者を撮影し、罵詈雑言を貼り付けてネットに流すので、当日は撮影を止めるよう求めた。会場に入ろうとした一人を制止したが、乱暴はしていない」と明言する。さらに「容疑は傷害なのに刑事部ではなく公安三課(過激派担当)が動き、容疑に無関係な集会主催者にまでガサ入れするのは、被害者と加害者を逆転させ、国策に反する市民運動を恫喝するもの」と怒りを隠さない。
関西ネットワークは二月二二日、大阪市役所で記者会見し、「在特会」の妨害活動に便乗した大阪府警の弾圧と、これを容認し令状を発行した大阪地裁の不当性を批判し、四人の逮捕・起訴は絶対に認めないよう訴えた。会見にはアムネスティ日本支部の担当者も同席し、「今回の捜査は、政府当局による人種差別の支持や助長に該当する可能性すらある」などと警告する日本支部声明を発表した。
ネットワーク会員らは会見後、大阪地裁に抗議文を提出したが、大阪府警曽根崎署では警備課などの数十人が入館を阻み、抗議文の受け取りを拒否した。
大阪では昨年一〇月以降、脱原発運動に参加した市民が威力業務妨害などで相次ぎ逮捕される異常事態が続いている。
主な事例は(1)関西電力本店前抗議行動(一〇月五日)で一人(2)大阪市の汚染がれき処理説明会(一一月一三日)で四人(3)10・5関電前抗議行動関連で一人(逮捕は一一月一六日)(4)JR大阪駅周辺の街頭活動(一〇月一七日)で三人(逮捕は一二月九~一一日)と、三カ月間で延べ九人が逮捕され、六人が起訴された。いずれも公安三課が指揮する計画的弾圧だ。
逮捕されたのは運動の中心的人物で、大阪拘置所に勾留中の韓基大さん(四六歳)の場合は、(2)と(4)で逮捕・起訴されたのに加え、今回の「在特会」事件でも「傷害被疑者」の一人とされた。支援者らは「脱原発運動に続き、従軍『慰安婦』問題の運動にも威嚇の網を広げることで、市民が怖がって近寄らなくなるのをねらっているのではないか」と警戒する。
安倍首相や橋下市長らが戦時性暴力の事実を「自虐史観」と一蹴する風潮の中、「在特会」の民族差別攻撃は「朝鮮人 首吊レ 毒飲メ 飛ビ降リロ」など常軌を逸した内容に過激化している。こんな活動を放置しつつ、市民団体を狙いうちするような恣意的捜査がまかり通るなら、大阪は世界に嘲笑されよう。
(村上恭介・ジャーナリスト、3月1日号)