自民党内は「6項目遵守」を決議――TPP、公約違反か交渉離脱か
2013年4月3日6:21PM
安倍晋三首相は三月一五日、「TPP(環太平洋戦略経済連携協定)」への交渉参加を表明した。ただし石破茂幹事長は翌一六日、テレビ東京の番組で「自民党の決議で決めたことを参議院選の公約に書くのは必然」と話し、今後の政府交渉に非常に高いハードルを設定。決議にある聖域(死活的利益)が認められない場合、「公約違反か交渉離脱か」の選択を安倍首相は迫られることになったのだ。
一三日、自民党外交・経済連携本部のTPP対策委員会では、約二時間の議論を経て「TPP対策に関する決議」の文言を決めた。その決議には、冒頭部分で「(1)先の総選挙において、自由民主党は、TPP交渉参加に関し六項目の約束を国民に対して行って選挙戦に臨み、政権復帰を果たした。これらの公約は、国民との直接の約束であり、党として必ず守らなければならない」と明記した。
六項目の公約遵守については石破幹事長が一二日のJA主催の四〇〇〇人集会で、こう説明した。
「(1)聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉参加には反対(2)自由貿易の理念に反する自動車などの工業製品の数値目標は受け入れない(3)国民皆保険制度は守る(4)食の安全安心の基準は守る(5)国の主権を損なうようなISD条項は合意しない(6)政府調達、金融サービスなどはわが国の特性を踏まえる――この公約は何としても守っていかなければなりません」
二月二八日の衆院予算委員会で安倍首相は、関税に関する項目以外の五項目は「正確には公約ではない。目指すべき政策」と答弁したが、自民党側は「六項目が公約」というタガをはめたのだ。決議の最後ではこう釘を刺していた。
「自然的・地理的条件に制約される農林水産分野の重要五品目等やこれまで営々と築き上げてきた国民皆保険制度などの聖域(死活的利益)の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとする」
石破幹事長がJAの集会で述べた六項目を「聖域」と解釈するのが自然だが、筆者は三月一三日の対策委後の会見で確認した。
――六項目が遵守されなければ交渉脱退を辞さないものとするのか。
自民党議員 その通り。
――「死活的利益(聖域)=六項目」という理解でいいわけですね。
自民党議員 「(重要五品目)等、(国民皆保険制度)など」と書いてあるわけですから。
この回答はきわめて重要だ。決議の最後の「聖域(死活的利益)」には、関税関連の「農産物重要五品目」と「国民皆保険制度」以外の四項目(工業製品・食の安全安心・ISD条項・政府調達)は明示されていないが、「農林水産分野の重要五品目等」の「等」と、「国民皆保険制度などの聖域(死活的利益)の確保」の「など」に含まれるというのだ。
ただし「聖域(死活的利益)=六項目」と報じたマスコミは皆無。そこで、この決議を正式決定した翌日の「外交・経済連携本部」の総会後、衛藤征士郎・外交・経済連携本部長に再確認をした。
――「六項目すべてが公約であり、それが守られない限りは脱退を辞さない」という理解でよろしいですか。安倍首相は「正確には関税だけが公約だ」と答弁しましたが。
衛藤氏 二月二七日に「TPP交渉参加に関する基本方針(決議)」を決議して総理にお持ちした。それには後の五項目が入っています。
――「ISD」も「食の安全」も。
衛藤氏 ちゃんと入っています。
――その六項目が遵守されない限り、「脱退」「批准しない」という理解でいいわけですね。
衛藤氏 当然、私どもの申込(決議)はそういうことです。
党との折衝を受けて安倍首相は三月一五日の参加表明で「私たちは国民との約束は必ず守ります」「(関税以外の)その他の五つの判断基準についても交渉の中でしっかり守っていく決意」と強調した。
米国が六項目すべてを認めるとは考えられないが、それでも非常に高いハードルを設定した安倍首相。普天間基地の県外移設が実現できずに辞任した鳩山元首相と同じ状況に陥る可能性はあるだろう。
(横田一・フリージャーナリスト、3月22日号)