8割実話! 『法服の王国』の著者、黒木亮氏が語る原発裁判
2013年12月11日7:11PM
原発裁判を闘う弁護士や住民の間で小説『法服の王国』(黒木亮著、産経新聞出版、上下巻)が話題になっている。
脱原発弁護団全国連絡会の海渡雄一共同代表はこう語る。
「伊方原発と志賀原発の訴訟が主軸です。調書に基づいて尋問を再現しているため、実際の法廷論争を聞いているようです。事実と小説部分がきちんと書き分けられていて区別が可能。この本を読むと、原発訴訟では原告住民側が論争に勝っていて、勝訴するのは当然だと思えます。では、なぜ負けるのか。原発訴訟について最高裁が開いた会議『裁判官会同』も大きく取り上げています」
伊方訴訟は全国初の原発訴訟だった。住民原告側が敗れた松山地裁判決(一九七八年四月二五日)の場面は次のように描かれている。
〈地裁玄関前で、多数の報道陣や支援者たちに向けて、原告の一人で、伊方原発反対八西連絡協議会会計係を務める広野房一が一枚の垂れ幕を掲げた。/長さ約一・五メートルの白い幕には、墨の文字で「辛酸入佳境」(しんさんかきょうにいる)と黒々としたためられていた。足尾鉱毒事件を告発した田中正造が好んだ言葉で、辛酸を舐めつくし、堪え忍んだ者のみが味わうことのできる素晴らしい境地があるという意味である。/垂れ幕を手にした六十五歳の白髪の老人は、無念の面持ちで俯いたまま、凍りついたように立ち尽くした。〉(下巻六九ページ)
ずさんな審査なのに敗訴
著者の黒木さんに話を聞いた。
――なぜ、裁判官が主人公の小説を書こうと思ったのですか。
三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)の過剰融資事件に巻き込まれたのがきっかけです。行員時代の上司と銀行の法務室が結託し、銀行を辞め作家になっていた私に責任を押しつけようとしました。当時の春日通良裁判官は東京大学法学部卒のエリートで司法試験の考査委員も務めるほどですが、法廷で居眠りし、銀行側の言い分を丸写ししたような判決を出した。なぜこんなにもデタラメなのか調べてみようと思ったのです。
3・11が起きて調べてみると、原発訴訟は志賀2号機ともんじゅ控訴審以外すべて住民側が敗れている。勝った二つの訴訟も上級審で覆された。このことも疑問に思いました。
――広野房一さんや海渡雄一さんなど実在の人物も多く登場します。
僕の書き方のスタイルなのですが、基本的には事実を基にしています。実名部分は一〇〇%事実。仮名部分は一~二割がフィクションです。それは、生の素材のまま描くと、事実でも物語として辻褄が合わない部分が出てくるためです。
伊方訴訟については、立教大学共生社会研究センターに全記録があるので読みました。当時の尋問録は手書きなのでずいぶん苦労しましたが、原告弁護団の主張通り相当ずさんな安全審査で住民が勝って当たり前だと感じました。
――〈結局のところ、燃料に関する審査はろくに行われず、ただ印鑑が押されていたことが明らかになった〉(下巻三〇ページ)などの部分ですね。巻末の主要参考文献が一〇〇冊あることにも驚きました。
裁判官や裁判官経験者には二四人から話を聞いています。商社や銀行などを描いた経済小説は多いのですが、司法の生々しい現実に迫った小説はこれまでありませんでした。『産経新聞』での連載は東京高裁や法務省でも回覧されていたそうです。
原発の工学的知識や地震学を理解するのは大変でしたが、その成果として巻末に用語集を付けています。僕のファンは、用語集から読み始める人も多いようですね。
僕の作品は、実質的にはノンフィクションなので一冊約五〇〇万円ほど取材費がかかります。
『産経』には連載を止めさせろ、などの抗議もいくつかあったのですが、これは「反原発」小説ではありません。客観的な事実ですので、担当者も「気にしなくていいですよ」と言ってくれましたし、単行本も全紙あげて宣伝してくれています。
――ひどい判決が出る理由は。
裁判官の数が足らないことです。今の三倍ぐらいにならないと裁判がまともに回らないと思います。
(まとめ/伊田浩之、11月29日号)