3人銃殺の容疑者はKKK元幹部の白人男性――米国で会員増やすヘイト団体
2014年5月19日6:28PM
白人至上主義組織「クー・クラックス・クラン(KKK)」の元幹部が、無差別にユダヤ系住民を殺害しようとしたとみられる発砲事件が4月13日、米中部カンザス州オーバーランドパークのユダヤ系施設2カ所で発生した。
事件が起こった日はユダヤ教の祝日「パスオーバー(過ぎ越しの祭)」の前日。同地域のユダヤ系地域センターには多くの若者が集まっていた。ここに車でやってきたKKKの元幹部フレイジャー・グレン・クロス容疑者(73歳)は、駐車場で69歳の男性と14歳の少年に発砲。その後、そこからさらに車を走らせ、2キロメートル離れたユダヤ系高齢者介護施設の駐車場で53歳の女性に発砲した。この事件で3人は死亡。地元のKMBCニュース局は、近くの小学校で取り押さえられた同容疑者は「ヒトラー万歳」と叫んだと報道した。だが、いずれの犠牲者もユダヤ系住民ではなかったという。
人種・宗教・性的指向などに基づき差別・憎悪を扇動するヘイト団体を調査する人権擁護団体「南部貧困法律センター」によると、クロス容疑者はミラーの別姓をもち、過激思想を持つ人物として危険視されてきたという。同容疑者は1970年代に、父親の影響で反ユダヤ主義に傾倒。当時米陸軍に所属していたが、その危険思想ゆえに除隊させられている。
その後80年代には、米ノースカロライナ州でKKKカロライナ支部と白人至上主義組織「ホワイトパトリオットパーティ」を結成。この頃から活動は次第に過激化し「白人の団結」を掲げ、アフリカ・ユダヤ系住民を攻撃の対象としていった。後に大量武器不法所有などにより、連邦刑務所で3年の服役。出所後には自叙伝を出版し、反ユダヤ思想を掲げてミズーリ州で連邦・州議員選に出馬もした。
【オバマ当選後、差別拡大】
現在、「南部貧困法律センター」が挙げるアクティブな米国内のヘイト団体の数は939。中でも同センターが注視するのは、ネオナチ、KKK、アーリアン・ネーションズなどの白人至上主義組織だという。クロス容疑者が支部リーダーだったKKKは、1865年に結成された米国最古のヘイト団体。三角白頭巾を被り、火のついた十字架を掲げて街を歩く姿は、白人至上主義の象徴として恐れられた。だが、1920年代をピークに400万人いた会員は減少し、現在は数千人と言われている。かつて隆盛を極めた白人至上主義集団の多くも、小規模組織に分裂し全米に散らばってしまった。
しかし、2009年のオバマ大統領の就任以来、各組織は再び会員数を伸ばし始めている。長引く経済不況、移民の流入、白人がマジョリティの座を追われるのではとの不安などが背景にあるようだ。
かつてヘイト団体は、KKKのようにその特徴的な出で立ちで人々を恐れさせた。だが、今はインターネットを利用し、自宅から顔を見せずにヘイトサイトに投稿して、憎悪感情を煽ることが可能となった。投稿者側は、米憲法修正第一条の「言論の自由」を盾にとり、憎悪感情を煽る書き込みは「フリースピーチ」だと主張している。クロス容疑者もネオナチ系サイト「バンガード・ニューズ・ネットワーク」会員で、1万2000以上の投稿をしたという。
ヘイトサイトの中でも今、「南部貧困法律センター」が最も危険視するのは、元KKKリーダーが立ち上げた白人至上主義の世界最大のネット掲示板「ストームフロント」だという。会員数は28万以上で、年10万ドル(約1020万円)の寄付を集める。ホームページには「敵に包囲された白人マイノリティが意見を述べる」とある。3月発表の同センターのレポートでは、過去5年間で同サイトの会員が起こしたヘイトクライムの犠牲者は100人に上るという。
米連邦捜査局(FBI)は、過激ヘイトクライムの単独犯を「一匹狼」と呼び、国内テロリストと位置づけている。簡単に銃を所有できる米国で、過激派一匹狼の差別や憎悪による犯罪を防ぐ手だてはあるのか疑問だ。
(マクレーン末子・在米ジャーナリスト、5月9日号)