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宮城県気仙沼市小泉地区の巨大防潮堤計画――国が「見直し派」名簿を流出

2014年10月21日10:46AM

地域住民の「合意をどう作り上げていくのか」が大事と語る竹下亘復興大臣。(撮影/横田一)

地域住民の「合意をどう作り上げていくのか」が大事と語る竹下亘復興大臣。(撮影/横田一)

「税金の無駄ではないか」と疑問視される宮城県気仙沼市小泉地区の防潮堤計画(高さ14・7メートル)で、「見直し派」の国への陳情内容(参加者リストなど)が行政機関から「推進派」に流出するという前代未聞のことが起きた。

「人の住まない農地を守るために230億円を投入」「海の景観や環境破壊を伴って復興にマイナス」などといった批判が噴出し、「NHKスペシャル」(5月30日放送)でも「費用対効果が低い」と取り上げられたことなどから全国的に注目される“復興”事業だが、村井嘉浩知事と宮城県は見直しの声に耳を傾けず、小泉地区の長老たちがまとめた“見せかけの住民合意”でゴリ押ししようとしている(本誌6月13日号で紹介)。

これに対して見直し派は、防潮堤の建設場所を陸側にずらすことで景観破壊が避けられ、事業費も少なくなる代替案「国道45号線兼用案」を提案。8月25日に防潮堤事業を所管する国土交通省と復興庁に足を運び、代替案の検討と見直しを求める陳情書を手渡した(本誌8月29日号で紹介)。

しかし、陳情に参加したメンバーの名簿が地元の推進派に流れた。全員の名刺がコピーされた文書を元に推進派の及川善賢・気仙沼市議らは9月20日、参加者の一人である小野寺久一氏(小泉浜第二区振興会長・水利組合長)に振興会長辞任を迫ったという。小野寺氏はこう振り返る。

「小泉浜第二区の住民約30名が集まっている場で及川市議は『小野寺久一会長は小泉浜第二区新興会長の肩書きの入った名刺を提示し、8月25日、国交省などに防潮堤反対の陳情をしている。会長でありながら、地区民が賛成し進めようとしている防潮堤事業に反対の運動をして事業を遅らせる原因となっている。会長の行為は職権乱用であり説明を願いたい。今回は責任を取って会長を辞任、会長の座を譲るべきである』と訴えたのです。同地区の推進派住民からは損害賠償請求を受けました。『被災者は防潮堤等の用地買収費を住宅の建築費用に考えている。防潮堤事業が遅れることにより建設資材等が高騰し、防潮堤建設事業費の負担増加になっている』というのが理由でした」(小野寺氏)

事の発端は、国交省から参加者名簿が流出したことだった。担当の同省海岸整備課はこう話す。

「陳情書や名刺を事業主体の宮城県に参考情報として提供した。これ自体は法律上問題ない。ただ、宮城県側が地元から情報公開の請求があったということで情報を出した。国交省への情報公開請求であれば個人情報は黒塗りにしただろうが、今回は宮城県が条例等に照らして出したところだ」

【ゴリ押しの現行案】

「国交省の責任はない」と開き直ったわけだが、もう一方の陳情先である復興庁も、今回の事態を徹底的に調査するつもりはないようだ。9月30日、竹下亘復興大臣に「『陳情に参加したのはけしからん。地元の団体の役職を辞めろ』という圧力がかかっている。『丁寧な住民合意が必要』と言っている復興庁の方針に反するのでは?」と筆者が訊ねると、竹下大臣は、「一番重要なことは、地域の皆様方の合意をどう作り上げていくのか。合意ができたところから復興の予算を突っ込んで対応するのが復興庁の仕事です」などと答えた。

しかし小泉地区の防潮堤計画では、強権的な圧力がかかり、現行案がゴリ押しされる現実がある。竹下大臣には事実関係を調べたり、現地調査をする考えの有無をiねたが、「徹底的に話し合ってもらうしか方法はない。復興庁が出て行って何か変わるものではない。現地調査と言ってもあらためて何かをしようという考えはない」と従来の答弁を繰り返した。

見直し派の住民は10月5日、国交省から情報提供を受けた宮城県土木事務所と8日に面談することや、及川市議ら推進派の言動も問題視することを決定。及川市議は「流出文書ではなく、『河北新報』の記事を見て辞任要求をした」と反論している。臨時国会で追及される可能性は濃厚だろう。

(横田一・ジャーナリスト、10月10日号)

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