年間寄付金総額3・7億円、総長選考に経営トップ関与――三菱と東大のただならぬ関係
2015年6月11日10:31AM
原発メーカーであり兵器産業でもある三菱重工業を筆頭とした三菱グループから東京大学(五神真総長)に対して、2013年度1年間で約3億6700万円もの寄付がなされていたことが、情報公開請求で開示された資料で明らかになった。同大学に設置された「総長選考会議」と「経営協議会」という組織の委員には三菱重工相談役が就いている。国立大学法人・東京大学の大学運営に私企業である「三菱」が深くかかわっている実態が浮き彫りとなった。
情報公開請求で開示されたのは「寄付金一覧」と題するA4判94頁の資料で、13年度1年間に東京大学が受け入れた個人・法人からの寄付約1万2000件、92億7200万円の状況が一部墨塗り状態で記されている。それによると、企業による寄付はおよそざっと2000件、約50億円前後で、うち大学役員に経営者が名を連ねている会社として、三菱重工、東芝、新日鐵住金の3社があった。
これら3社の状況をみると、寄付額がもっとも多いのが三菱重工で、「東京大学基金」に3350万円、「生産技術研究所」に3000万円など計8010万円を寄付している。同社の元会長で相談役兼三菱商事取締役の佃和夫氏は、東京大学総長選考会議と経営協議会の委員になっている。
内規によれば、総長選考会議は総長選考の最終的な決定権を持つ。また経営協議会は総長直轄の組織で、この中から総長選考会議の委員が選ばれる。経営協議会の委員は総長が指名・任命する。総長に権限を集中させる仕組みの中枢に三菱重工が入り込んだ格好だ。
三菱グループ企業全体でみれば、注入された寄付金はさらに大きい。三菱電機、三菱商事、三菱地所、協和発酵キリン、ニコン、三菱マテリアル、三菱化学、三菱レイヨン、三菱ケミカルホールディングス、三菱樹脂インフラテック、三菱東京UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJニコス……田辺三菱製薬の寄付額は1億円と突出している。三菱重工を含め、総額で3億6700万円を超す。
資金注入の「功績」を総長によって買われ、三菱は東京大学の重要ポストを得た。そのように見えてくる。
続いて東芝の寄付をみてみよう。「東大基金」に770万円、公共政策学連携研究部に400万円など合わせて1430万円(関連会社を含む)。三菱重工に比べれば金額は少ないものの、大学運営へのかかわりは深い。総長選考会議と経営協議会の委員には、元会長で相談役の岡村正氏が就いている。また、元常務で現在顧問の有信睦弘氏が東京大学「監事」という地位にいる。さらに、逆に東芝側からみると、07年から12年まで、東京大学元総長の佐々木毅氏が社外取締役になっていた。
新日鐵住金は、三村明夫相談役名誉会長を、総長選考会議と経営協議会の委員に送り込んでいる。同社の寄付は、「工学系研究科・工学部」や「新領域創成科学研究科」「総合研究博物館」「水環境制御研究センター」など、計約3200万円(関連会社を含む)だ。
【学問と原発・軍事産業】
むろん、これらは一部だろう。三菱重工などからの資金流入について、東京大学広報課は「多数の企業から寄付講座などを通じた支援をいただいているが、公益性は保たれている。個別の(寄付)情報は公表していない」として、
積極的な情報開示を拒んでいる。
三菱重工、東芝、新日鐵住金は、いずれも原発に関連の深い企業であり、国内の代表的な軍事産業でもある。東京大学は、侵略戦争に協力した戦前の反省に立って軍事研究の禁止を基本原則にかかげている。しかし、最近これが揺らいでいるとの指摘がある。
大学予算が劇的に減らされる一方、産官学連携の掛け声とともに、国立学校法人となった国立大学は企業マネーを求めてやまない。日本でもっとも予算をとっている東京大学でさえも例外ではない。原発であれ、軍事であれ、カネの魅力の前に「学問の自由」と学者のモラルを売り渡すのか。
(三宅勝久・ジャーナリスト、5月29日号)