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空自警務隊の無法捜査――自衛隊内で1等空尉が“拷問”被害
2011年2月7日2:52PM
「自衛隊でこんな目に遭うとは。違法捜査で私の人権を侵害した警務隊は、一日も早く事実を認めて謝罪してほしい」
憤りの表情で語るのは石川県の航空自衛隊輪島分屯基地(基地司令・神谷正一1佐)に所属する池田久夫1尉(四七歳)だ。ベテラン幹部として多忙な業務に取り組んでいたある日、身に覚えのない窃盗容疑をかけられる。潔白を訴えても相手にされず、警務隊によって二〇日間にわたって厳しく調べられた。「任意捜査」とは名ばかりの、ひたすら自白を強要する拷問だった。自衛隊版冤罪の被害者・池田1尉が、このほど取材に応じ、違法捜査の実態を赤裸々に証言してくれた。概要は以下のとおりである。
――単身赴任で移ったばかりの輪島市のアパートと、小松市の自宅などが小松地方警務隊によって家宅捜索を受けたのは二〇〇九年五月一四日。捜査令状の容疑は「窃盗」。小松基地管制隊管制班のUSBメモリを盗んだ疑いである。
警務隊は土足で家に上がる乱暴なやり方で、パソコンや資料など一〇箱くらいを押収した。
五月一七日から事情聴取がはじまった。「任意」ということだったが、調べのために輪島基地から小松基地(基地司令・鶴田眞一空将補)に臨時勤務を命じられた。
「このまま自白しないと逮捕されて新聞に載るぞ」「子どもが学校でいじめられるぞ」
取調室の密室で警務隊員は怒鳴りちらした。机をたたき、蹴った。朝から深夜まで、一日一〇時間を超えるときも珍しくなかった。と思うと、一転、猫なで声で同情するそぶりをみせ、揺さぶった。刑事ドラマさながらだった。
警務隊は「折り合いの悪い管制隊長を困らせるためメモリを盗んだ」というが、荒唐無稽な話だった。
無実を訴えても聞く耳はなかった。食事がのどを通らなくなり、夜も寝つけなくなった。ついには下痢・嘔吐をするまで悪化した。衛生隊で点滴を打ち、深夜まで聴取が続いた。「土日も締め上げてやるからな」と週末も休ませてはくれなかった。たまらず弁護士に相談すると「弁護士を頼むのはお前が犯人だからだ」と罵られた。「証拠はすべてそろっている」という言葉はウソだった。
メモリ紛失当時、池田1尉の職場は小松基地管制隊整備班だった。メモリは「整備班」に隣接する「管制班」の保管庫にあった。整備班の者が管制班に行って物品を持ち出せば必ず人目につく。あり得ない犯行ではないか。そう説明したが無視された。
調べは六月一八日まで計二〇日間にわたった。一〇〇時間を軽く超える。その間一貫して否認できたのは子どもの将来を考えたからだ。物証ゼロ、アリバイもある。それでも警務隊は書類送検した。
〇九年九月、石川地検小松支部は不起訴を決定する。喜んだのも束の間。実質的な降格処分は変わらず、賞与査定も最低評価。事実上「容疑者」のままだった。
あまりにもひどいではないか、と公益通報で警務隊の違法捜査を告発した。金沢地方法務局には人権救済の申し立てをした。
今も謝罪はない。これが自衛隊だとは思いたくない、と結果を待っている。――
小松基地のUSBメモリ紛失事件は、発生経緯から疑問だらけだ。 端緒は〇八年三月一九日早朝、石川県小松県税事務所(小松市)のトイレで見つかった一枚のCD。これを機に管制班のメモリ三本の紛失が発覚。さらにCDのデータが紛失したメモリと同じであるとされ、盗難だという話になる。そして池田1尉に濡れ衣が着せられる。
だが、奇妙なことに肝心のCD発見現場についてまともな捜査をした形跡はない。CDは小松基地の封筒に入っていた。県税事務所の職員は落とし物だと思って自衛隊に連絡した。CDは警務隊が引き取り、以後連絡はなかった。現場検証や指紋採取、写真撮影、聞き込みもしていない。
本当に「窃盗事件」だったのか。メモリ紛失の責任逃れででっち上げたのではないか、とすら疑いたくなる。
(三宅勝久・ジャーナリスト、1月28日号)