知る自由のためのやせ我慢
2014年3月21日7:00AM|カテゴリー:お知らせ|admin
知る自由のためのやせ我慢
日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日本出版取次協会、日本書店商業組合連合会、出版文化産業振興財団の連名でポスターが制作され、2月から神保町の書店でも張り出されています。本誌はいずれの団体にも属していないのですが、そこには次のように大きく書かれています。
〈世界には、消費税20%でも本を非課税にしている国があります。〉
この見出しに続く文章にはその意図が続いています。
〈イギリスでは、消費税の標準税率が20%にもかかわらず、書籍へは一切課税されません。
出版物は、民主主義の発展・維持に不可欠な公共財。
情報や知識に課税することは、文化を衰退させることになりかねません。〉
出版業界も商売で成り立っています。販売価格を上げないためには本体価格を値下げしなければならないのですが、それでは利益を直撃します。だからどの業界も例外扱いしてもらいたいというのは本音でしょう。欧州では書籍や雑誌に非課税や軽減税率が導入されている国はいくつもあるのです。トヨタ自動車のような莫大な“消費税還付金”や税制優遇のある業界は別でしょうが(湖東京至元静岡大学教授が分析した本誌2013年9月20日号掲載のリポートによれば、トヨタへの還付金は12年度に1801億円ですし、11年度には還付のため豊田税務署は1365億円の赤字になっています)。
しかしこのポスターの言葉に嘘はありません。本という、歴史と蓄積のあるメディアに人々ができるだけ多く接する機会があるよう守っていったほうがよいと私も考えます。
この思いは伝統的に本を提供してきた図書館では、より日常的で自覚的なようです。先日、広く知られることになった『アンネの日記』破り捨て事件。犯人が捕まりづらかった理由として図書館に監視カメラが少ないことが挙げられました。なぜかと言えば、図書館には「知る自由」を守る自治精神があるからです。
1954年に「図書館の自由に関する宣言」が採択され、そこに「図書館は利用者の秘密を守る」という言葉が見つかります。監視カメラが普及しても図書館は犯人をもふくめめた読者の知る自由を守ろうと踏みとどまっているように見えます。
「図書館の自由宣言」には次のような言葉も見つかります。
〈すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する。この権利を社会的に保障することは、すなわち知る自由を保障することである。図書館は、まさにこのことに責任を負う機関である。〉
知る自由、知る権利のために今何をすべきか。出版には立憲政治における役割があります。その一端である『週刊金曜日』も、その取材報告や評論は民主主義を耕し、独裁や排外主義と闘う武器であるという矜持があります。消費増税という“経済制裁”は知る自由と権利の前に立ちはだかりますが、輸出産業や原発関連産業のように出版も国から“裏金”を受け取り、自由を衰退させたくはありません。よって『週刊金曜日』は部数が減り続ける中、増税分を負担して定価を据え置くという姿勢を示すことにしました。知性と欲望がせめぎ合う今の時代にこそ、『週刊金曜日』を多くの読者のみなさんに読んでもらいたいと気負っているからです。私たちはこのたび、やせ我慢をします。
今後とも、みなさんに支えていただきたく、ご協力をなにとぞお願い申し上げます。
『週刊金曜日』編集長 平井康嗣