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第26回「週刊金曜日ルポルタージュ大賞」佳作入選作

在特会壊滅への道

 

山口祐二郎

  オープニング

 

現在、人種差別団体『在日特権を許さない市民の会』(略称 在特会)は衰退の一途を辿っている。

在特会の桜井誠は会長職を退任し在特会を引退。桜井誠をいつも護衛し、関西で差別活動をおこなう中心団体であった『純心同盟』は解散した。

今は副会長だった八木康洋が在特会会長に就任しているが、差別デモの参加者は激減していき、目立った活動はないし、全く勢いはない。在特会への政府、警察、検察、裁判所の対応は変わり、まだまだ甘いが徐々に厳しいものになっていったのだ。

在特会がおこなうヘイトスピーチ(差別扇動表現)は、社会問題として広く世間に知られるようになり、国会ではヘイトスピーチを対策する法規制まで議論されている。

ヘイトスピーチとは広義では、人種、宗教、性的思考、性別、などの、生まれついて変えることのできない、また変えることの非常に困難な属性、社会的弱者のマイノリティーを偏見、差別する表現行為である。

ニコニコ動画、生放送を運営する株式会社『KADOKAWAD・DOWANGO(角川ドワンゴ)』は、在特会公式チャンネルを閉鎖。法務省はヘイトスピーチの防止を啓発するポスターを作成し、中央省庁や出先機関、自治体などに配布し啓発活動をするまでになった。

そのような状況になったのは、在特会に対し、今まで多くの方々がカウンターと呼ばれる抗議活動をしてきた成果もある。だが、在特会が求心力を失った背景には、私が会長をしている『憂国我道会』の活動が結果的に大きく関わることになった。この文章ではそれを書きたいと思う。

まず、在特会について知らない人がいるかもしれない。在特会がどんな集団だかを最低限の説明をしよう。

在特会は二○○六年に生まれた。会員は一万五千人以上、日本最大の市民団体といわれている。

しかし、実際にはそんな大勢の会員を見たことがなかった。それは、在特会の会員にはネット会員というカテゴリーがあり、登録用の申し込みフォームに書き込むだけで入会できるからだ。名前は仮名でOK、電話番号も記す必要はない。

在特会の活動理念は実にシンプルだ。団体名の通り、日本で暮らす在日朝鮮人には特権があるとして、在日特権を許さないという一点に尽きるといってもいい。

ちょっと調べれば分かることなのだが、在日特権などはない。しかし、在日特権があるというデマが、日本には都市伝説のように広がってしまっている。ネットを見たりすると在日特権があるように書いてあるので、ひょっとしたらあるのかなとデマ情報を鵜呑みにしてしまう人が多いだろう。実際に調べるまでいかない人が、大半だからだ。

そして在日特権なる嘘のせいで、日本国民による在日朝鮮人への憎悪がモロに出てしまっている。昨今の嫌韓本などはまさにその象徴だ。私はそれを危惧している。

実際に、拉致問題や竹島問題などを理由に、在日朝鮮人を嫌いになってしまう人間が多く見てきた。その嫌悪感を抱いている層の受け皿が、在特会をはじめとする人種差別団体になっていたりする。政府と民は関係ないのにである。政府と民を、一括りにして差別をするのだ。

ネット右翼といわれる2ちゃんねるなどのネット掲示板で、「チョン死ね」などと、過激な排他発言を行なう層が、リアルな世界に出てきて街頭で活動するようになった感じだろう。

在特会は自ら愛国者と称し、日の丸の旗を掲げている。しかし、在特会の運動は、社会的弱者(マイノリティー)の在日朝鮮人を差別する運動というのが真相である。

そんな運動体になぜ多くの人が集まったのか。活動は差別で良くないことだが、在特会は運動体としてはかなり優れたものであった。

在特会には既存の多くの右翼、左翼団体と違い、活動の参加数などノルマがない。うるさい決まりもないし、会員でも会費も取られない。もちろん、破門や除名もない。このシステムはとても良くできている。

また、大抵、右翼、左翼団体というのは団体の所属のかけ持ちは禁止である。しかし、在特会はかけ持ちはOKだ。そして、在特会のような似た団体が数多くある。
気楽に団体に入り、活動に参加して仲間ができる。そして活動に慣れてきたら、自分でも団体を立ち上げてリーダーになれるのだ。

みんながかけ持ちなので、すぐに入会してくれる。リーダーになって活動を主催しても、色々な団体に所属しているので仲間は多く、参加者に困ることはない。人種差別をする仲間たちで、いかなるときでも協力し合えるようになっている。みんなに光が当たり、リーダーだけ目立つようなこともないのだ。

そして、しばしば合同で大々的な活動やるのだ。実際には、ほとんどのメンバーがいくつかの団体をかけ持ちしている。それでも、デモは最盛期で五○○人程の参加者がいて、既存の右翼活動なんて比べ物にならない動員力が在特会にはあった。

今は壊滅状態で、ほとんどのデモで五○人も集まっていないと思う。

(さらに…)

第27回「週刊金曜日ルポルタージュ大賞」作品募集!

第 27 回「週刊金曜日 ルポルタージュ大賞」
締め切り 2016年6月30日(当日消印有効)。

取材活動によって得た事実や証言・証拠をもとに、一切の虚構を排して書かれた報告・記録。「一般に周知されていない事実を知らせる」ことに最大の意味をもつルポルタージュ。『週刊金曜日』にふさわしい作品をご応募ください。

作品募集!
分量など
1万字以上3万字以内(400字用紙25枚~75枚)。日本語で縦書き。タイトル、筆者略歴のほかに住所・氏名・年齢・職業・電話・FAX番号を明記してください。文章の体裁は自由。作品の文頭に1000字以内の梗概(あらすじ)をつけて下さい。原稿は返却しません。作品は未発表のもので1人1作品に限ります。出版優先権は小社に帰属します。

賞と賞金
・大賞――――――――――賞金100万円
・優秀賞―――――――――賞金30万円
・佳作 ―――――――――― 賞金10万円
・選外期待賞
優秀賞までの作品を誌上で紹介します。また原則 として次回作品も本誌に掲載いたします。
掲載時、誌面都合により圧縮掲載する場合があります。

審査
第1次・第2次審査は編集部。
最終審査は、本誌編集委員のうち可能なメンバーがあたります。

結果発表
本誌2016年9月30日号誌面(予定)。
なお、選考過程や結果についてのお問い合わせには一切応じられません。

原稿の送り先
〒101-0051
東京都千代田区神田神保町2-23
アセンド神保町3階 ㈱金曜日
「週刊金曜日ルポルタージュ大賞」係
403-3221-8527

参議院特別委員会における戦争法案の「強行採決」に断固抗議する

本日9月17日夕方、戦争法案(安全保障関連法案)が参議院の「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」において、またもや強行採決された。2時間を予定していた締めくくり質疑を行なわずに強行された採決に委員会室は大荒れとなった。(鴻池祥肇委員長の声すら聞こえておらず、採決は無効との主張もある)

自公議員が参議院で多数を占めるなか、これは事実上の成立を意味する。衆議院の特別委員会に続く強行採決である。強行採決は多数決という暴力であり、民主制の濫用である。相手が納得するまで議論をし理解を促すことを旨とする民主主義の否定である。

しかしながら違憲の法案はいくら審議時間を積み上げたところで違憲であり、成立することは立憲主義政治の原理として許されない。まして「平和安全法制整備法案」は10本もの改正法を一括しており、審議時間も十分ではないのである。

市民の間でも「違憲法案」「憲法を守れ」という声が日増しに強まっていたのは、法案の理解が進んだからこそであることを政治家や官僚は誤読してはならない。

そもそも同法案は2014年7月1日の集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を前提としている。しかしながら日本国憲法9条は「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄」している。これまで歴代の内閣法制局長官も集団的自衛権の行使は不可能とする憲法解釈を繰り返し国会で答弁してきており、集団的自衛権の行使は明白に違憲である。

個々の法案の欠陥と矛盾を議論するまでもなく、7・1閣議決定に基づく今回の「戦争法案」はこのため違憲である。これは当たり前の論理であり、憲政の道理である。

本来ならば、すべての国会議員は「戦争法案」の成立を立憲主義国家として阻止しなければならない。法案の背景とされる国際安全保障環境の変化と立憲主義の問題はまったく別のものであり、同法案の根本的な問題は民主制の代表者も憲法に拘束される立憲主義の問題なのである。今回の強行採決は議会が立憲主義を否定する、天につばする行為であり、日本という国は人治主義、無法状態に入ってしまったと言える。

国家の基本法である憲法すら守れない、いやあえて守らない国はきわめて危険である。いまや社会は危機に瀕している。2006年の第1次安倍政権では教育基本法を改定したが、この間の国会答弁で露呈し続けた、自公政権の憲法無視、詭弁、不勉強、不誠実、不寛容というありとあらゆるデタラメさを子どもたちにどのように教えるのか。

私たちは沈黙の戦争協力者には絶対ならない。戦争への不服従を貫き、このようなインチキを支持することは決してしない。『週刊金曜日』は、根本的に破綻しているこの戦争法案の成立を徹底的に批判し続け、安倍政権から民主主義を取り戻していく。

2015年9月17日
『週刊金曜日』編集長
平井康嗣